【解説】物価上昇 欧州の急速な“脱ロシア”でエネルギー・食品値上がり 背景は

NHK
2022年3月16日 午後2:00 公開

ロシア軍によるウクライナ侵攻のあと、ヨーロッパの国々は、金融の分野や貿易の規制などで制裁措置を打ち出し、圧力を強めてきました。

こうした措置によりヨーロッパでは、エネルギーなどの物価の上昇につながっていて暮らしへの影響が出始めています。

そもそもなぜ、ここまでロシアにエネルギーを依存してきたのか?

“脱ロシア”による影響にヨーロッパ各国はどこまで耐えられるのか?

国際政治が専門の政策研究大学院大学・岩間陽子教授に和久田麻由子キャスターが聞きました。

👀ポイント

○暮らしに影響しても欧州の人たちが経済制裁を支持しているのは、ロシアが“むきだしの暴力の時代“に突き戻そうとしていることに対する怒り

○独メルケル前政権下でエネルギーが戦略物資だという意識が薄れて、ロシア依存が高まった

○ロシア軍のウクライナ侵攻を受けて、独で進む“ロシア脱却”は世界観の変換

○短期では終わらないなか、戦争拡大を抑え込み、連帯を続けるためには時間との競争

※文末に関連記事のリンクがあります。そちらも参考にしてください。

3月16日に放送された動画はこちら。3月23日までご視聴いただけます。

まずはヨーロッパの市民生活についてコンパクトにまとめました。

フランスの食卓に欠かせないパンの製造と販売を行っているパリの店では、電気代が上昇し、1か月の支払額はこれまでの2200ユーロ(約28万5千円)から3000ユーロ(約38万8千円)程度に膨れ上がると試算しています。

さらに、原料となる小麦粉の価格は今後2倍程度に上昇すると予想していて、値上げをせざるを得ない状況に追い込まれているといいます。

店長は「われわれにとっても厳しいしお客さんにとっても不幸なことだ」と苦しい胸の内を明かしました。

一方、客に話を聞いてみると「心配なのはパンの値段じゃなくてウクライナのことなので(値上げを)受け入れます」や「ウクライナが国を守ろうとするのは当然でそれを応援します」といった声も。

イギリスではエネルギー価格の上昇も市民生活を直撃

イギリスは、ことし末までにロシア産の原油の輸入を段階的に停止する方針を明らかにしています。

ガソリン価格はこの1か月で8%上昇しました。

しかし、スタンドの利用者から聞かれたのは、「ウクライナの人々や国を救うことが第一で原油の値段を心配するのはそのあとだ」といったウクライナの人々を気遣う声でした。

EU=ヨーロッパ連合は、エネルギー資源の多くをロシアに依存しています。

去年輸入した天然ガスのうち45%をロシアから輸入

この状況に危機感を強めるEUは今月開かれた首脳会議でエネルギー資源の輸入についてロシアに依存している状態からできるだけ早く脱却することで合意しました。

フォンデアライエン委員長は、天然ガスや石油のロシア依存を脱却する時期として2027年という具体的な目標を掲げています。

中でも天然ガスの輸入でおよそ55%をロシアに依存しているのがドイツです。

先月にはロシア産の天然ガスをドイツに送る新たなパイプライン「ノルドストリーム2」の稼働に向けた手続きを凍結

一方で、これまで国内になかったLNG=液化天然ガスの受け入れ基地を2つ建設すると表明しました。

ここからは国際政治が専門の政策研究大学院大学・岩間陽子教授と和久田キャスターのやりとりです。

【むき出しの暴力の時代に対する市民の怒り】

--ロシアのウクライナ侵攻に対する怒りは市民の中でかなり浸透していますか?

岩閒さん:

ヨーロッパの人たちはいま、痛みとか怒りとかいろんな感情がものすごく強く出てきていると思いますし、すぐそこで国境近くで爆弾が落ちたりしますから、いつ自分たちのところに戦争がやってきてもおかしくないという感覚で庶民はいるのではないかと思います。

2つの大戦の灰の中から、いまある国際秩序は生まれてきたと思います。

あんな悲惨な戦争は2度としたくない、どうすればいいかということがすべての原点なのに、むきだしの暴力の時代にわれわれを突き戻そうとしている、そのことに対する怒りが大きいので、市民がしっかり支援しています。

【メルケル前政権下で進んだロシア依存】

--エネルギーについてうかがいます。そもそも、なぜドイツなどはロシアに対する依存度が高いのでしょうか?

岩閒さん:

ドイツでは1970年代、関与をして経済的につながりをつくり、相互依存をつくることによって、何とかソ連を変えていこうという政策でした。

関与することによって中から変えていきたいというのがひとつの政策だったわけです。

「ノルドストリーム2」をなかなかやめられなかったのは、50年の伝統ある政策だった面があります。

2000年代に入ってさらに依存度を高めました。

16年続いたメルケル首相の間に2つのことが起きました

ひとつは自動車産業の中国市場への依存。もうひとつがロシアへのガス依存

「ノルドストリーム2」が開通すれば、依存度がさらに増えて6割にのぼることになります。

その状況をメルケル首相は作ったのです。

エネルギー安全保障という観点からは非常に問題があったと思います。

ドイツほどのサイズの国が、完全にロシアに依存していてそれをアメリカとか日本とかが助けてあげようとしても難しいわけですよね。やはり大きな問題があると思います。

【戦略物資だという意識の薄れ】

--ドイツはなぜロシアというひとつの国にあそこまで依存したのでしょうか?

岩閒さん:

価格を比べれば、パイプラインを通してそのまま流れてくる天然ガスのほうがLNG(液化天然ガス)の形にして船で運ぶガスよりも安いのは当たり前ですよね。

平和であれば、経済原理だけを考えれば、自然なことであって、平和であってほしいという希望的な観測のもと、このガスを使い続けたいという誘惑は強かったと思います。

1980年代にソ連が崩壊したひとつの要素に原油価格の下落がありました。

それがソ連の国力を奪っていった面があります。

エネルギー価格は国際政治を動かすものですが、2000年代に入ってから、これが戦略物資だという意識が薄れて、単なる経済問題でいろんなオプションの中で経済的には安ければ安いほどいいんだ、といった市場主義がエネルギーにも入ったのですが、エネルギーはそんな単純なものではないんですね。

【“ロシア脱却”は世界観の変換】

--お話を踏まえますと、ヨーロッパがエネルギーでロシア脱却に踏み切ったのはかなりの衝撃なのではないでしょうか?

岩閒さん:

世界観の変換なのではないかと思います。

ただ、そんなに簡単ではありません。

アメリカがエネルギーの禁輸に踏み切りましたが、EUはまだ踏み切っていません

アメリカからドイツに「禁輸しろ」という圧力は来ているわけですね。

それに対して「今すぐは無理だ」と。「数時間、数日でやれと言われても無理だけども、数週間、数か月かければ対応できるからやるんだ」と(ドイツ側は)言っていて、だんだん期間が短くなってきていて、これは本気でやるんだな、と思います。

コストは相当なものになります

すでにガソリン価格がものすごく高騰していて、それに対しては補助金を出すという計画もあります。

【“眠れる獅子”のドイツを起こした】

--ドイツの大転換を率直にどう受け止めていますか?

岩閒さん:

エネルギーだけではありません。

エネルギーは一部で、防衛方針もまったく変えました

先日、ショルツ首相が連邦議会で演説して、「これから毎年(国防費をGDP比で)2%以上、使い続ける」と宣言してスタンディング・オベーションという感じで、驚きました。

それだけ自分たちが50年以上築き上げてきた平和を壊されたという怒りがあります。

ある種、ドイツは戦後日本と似ていて、抑制的に国力を使うカルチャーがあったと思いますが、振り切って“眠れる獅子”を起こしちゃったかなという印象を受けています。

【次は自国にロシアの戦車がやってくるかも】

--ドイツの政権は、ロシアからのエネルギー依存脱却に伴うさまざまなコストをドイツが耐えられる。いま、そのように判断しているのでしょうか?

岩閒さん:

耐えなければいけないと思っているのだと思います。

戦争なんですよ。

平時であれば、とてもできないような財政出動をすると思います。

それは自分たちが戦車に乗って戦争をするよりは、はるかにましだ、そういう感覚だと思います。

ここで頑張っておかないと、次は自分たちのところにロシアの戦車がやってきて自分たちが戦争しなければいけないかも。

それを食い止めるには踏ん張るしかないというのが防衛費の増、エネルギー投資に出ているのだと思います。

【戦争拡大を抑え込み、連帯を続ける必要性】

--市民生活への影響は避けられないということですが、長期化が懸念される中で、このあともロシアに対して一致して足並みをそろえ続けられるのでしょうか?

岩閒さん:

どのぐらい続くのか、現時点では予測できない。

とにかくいま、もっとも気をつけなければいけないのがこれ以上、戦争が拡大することだと思います。

ひとつには、地理的に拡大するということ。

もうひとつは、戦術核を使うといったレベルに拡大する。

その双方を抑え込むことにいま主要国がもっとも神経を使っています。

そんなに短期的には終わらないと思いますので、これから連帯、団結を続けるということはだんだんきつくなってくると思うんですね。

時間との競争の面があります。

次のステップに行くまでの間、人々の気持ちをまとめあげていくことが一種、政治家の“ステートクラフト”になってくるのかという気がします

※インタビューは3月15日にオンラインで行われ、読みやすいように一部修正しています。