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失敗できない習近平主席 川島真教授の分析

NHK
2022年1月13日 午前7:00 公開

ことしは中国にとって極めて重要な1年です。2月4日に開幕する北京オリンピック以外に、秋にも予定されている5年に1度の共産党大会など節目となる日程がめじろ押し。みずからへの権力の集中を加速させる習近平国家主席にとって「試練の年」とも言えます。

中国はどう臨むのか。中国の政治や外交を研究している東京大学大学院教授の川島真さんに田中キャスターが聞きました。 

※1月7日に放送されたインタビューの動画はこちら。

◎川島真(かわしま・しん) 東京大学大学院教授 中国やアジアの外交史を研究 著書『中国近代外交の形成』でサントリー学芸賞受賞

--ことしの注目点として何を挙げますか?

川島さん:

「何のおもしろみもありませんけれども、第20回の中国共産党大会習近平主席の人事というのが非常に大きなカギになるだろうと思います」

--共産党大会では、ここまで2期10年にわたって国家主席を務めている習氏が共産党トップの総書記として異例の3期目入りを目指しているとみられていまね。

川島さん;

「おそらくは総書記としての3期目の延長はかなうだろう。問題は『党主席』になれるのか。1980年代初頭に1回なくなったポストを復活させていくのか。これは何が違うかというと、総書記というのは集団指導体制のトップのポストですので、あくまで7人の政治局常務委員の全体の合議でものが決まるのに対して、習主席が党主席になれば彼のひと声で決まることになります。社会から人気が出るような政策を打ち、自分に対する敵を“反腐敗”で摘発していくということをやっていっているんだと思いますね。このまま彼がトップになれば、この体制がいっそう極まっていく。今回、習主席自身が失敗できないので、党大会に向けてなるべく彼自身も傷を負いたくない」

習主席にとって“失敗できない年”

川島さんは、2022年は習主席にとって何ごとも“失敗できない年”だと指摘。その最初のハードルとなるのが北京オリンピック・パラリンピック。新年の祝辞で習主席は、「世界は中国に期待しているし、中国は準備ができている」と述べて大会の成功に自信を示しました。

川島さん:

「オリンピックの成功ということもありますけれども、習主席の秋の人事に傷をつけないように『つつがなく終わること』。それが最大の目標になるでしょう。個々の案件の成功・失敗よりも、最終的に秋の党大会にとってどうかという判断で、つまり秋の人事を基準にして判断していくんだろうというふうに思います」

その大会の成功に影を落としているのが「人権」をめぐる問題です。アメリカやイギリスなどの各国は新疆ウイグル自治区での人権問題などを理由に政府関係者を派遣しない「外交的ボイコット」を相次いで発表。日本政府は「外交的ボイコット」という表現は使わないものの、政府関係者の派遣見送りを決めました。

外交的ボイコットは“少数意見”

--中国の人権状況をめぐる問題についてはどうみていますか?

川島さん:

「アメリカなどの先進国が外交的ボイコットをやったとはいえ、そのワシントンから上がった火が、北京から見ればそんなに広がっていないと見えると思うんです。おそらく人権問題で攻めていってもですね、中国側は世界の多数の国々を味方につけながら、あれはあくまでも先進国の言っている少数意見だろうという方向で丸めていってしまうと思います」

台湾統一の問題

さらに、中国が悲願としている台湾統一の問題について、習主席は台湾の統一に自信を示しています。これに対して川島さんは、習主席にとって“失敗できない年”であることからすると、大きく進展することはないのではないかと見ています。

川島さん:

「習主席としては、自分がその任期が延長できるどうかと言うときに、せめて台湾の方の側からよいメッセージなり何なりがきてほしいかもしれませんけれども、おそらくそういうメッセージは少なくとも(台湾の)蔡英文政権から来るはずはありません。台湾については「統一する、統一する」」と言うんだけども、そういう方に向かわないわけですよ。圧力を強めるんだけれども、おそらくはうまくいかない」

「多分ことし、習政権はじだんだを踏むだろうと思います。すぐ武力統一をするとかって話は全くありませんけれども、何とかしないと自分がずっと言ってる言葉と、台湾の状況の“断層”というのはどんどんどんどん強まってくる。そこで、軍事的な包囲をしながらも、台湾社会内部に入り込むような政策をどんどん打ってくる」

米中の対立

アメリカのバイデン大統領は、去年「中国は国際規範、人権、透明性という観点においてまずは責任ある行動をとることから始めるべきだ」と述べました。これに対して習主席もアメリカを念頭に「ごう慢な態度で内政に干渉することは人心が得られない」と述べています。

--「米中対立は激しさを増していく」という見方についてどう評価しますか?

川島さん:

「中国にとっては少しでもいいから、アメリカと協力できる場を増やしていくことが多分目標なんだろうと思います。どんなふうに米中関係をマネージできるのか。アメリカとの関係を上手にマネージできるというのは、中国のトップリーダーにとってのひとつの条件になります」

「アメリカのやっている政策も中国から見るとどう見えるかと言うと、軍事安全保障、テクノロジ-、ハイテク、人権、それから個別的な台湾の問題等々では確かに厳しいのです。ところが気候変動、朝鮮半島、イラン問題、アフガニスタン問題等々は、アメリカも中国と協力したいと言っているわけですね」

米中で“まさか”のディールも

--ある日突然、実は米中が我々の想像を超えてディールが実はくるのではないという気もします。

川島さん:

「歴史的なことを言いますと、やはり1971年のキッシンジャー(米大統領補佐官・当時)の訪中はいったいなぜ起きたか。あのとき、日本には直前にしか連絡がなかったですね。それ以前に、日中関係が進もうとしているときにアメリカはずっと厳しい意見を言っていた。でも突然、ニクソン(大統領・当時)の命令でキッシンジャーが飛んでいくんですね。アメリカは厳しいことを言っているけども、常に何か『まさか』に近いようなことがあるかもしれないということを念頭に置いておくということが私は必要と思っております」

ODAに代わる協力案件を

--ことしは、日本と中国の国交正常化から50年となります。日本は、どう向き合っていけばよいとお考えですか?

川島さん:

「やはり『対話と協力』のところと思うんですね。対話をする中で中国から情報を取れるならば、それはアメリカが持てないものが望ましい。だから中国との対話すると同時に、アメリカやほかの先進国が持ちえないさまざまな情報やチャンネルというものを日本が得られるといいと思うんです。いま日中関係は、そういうチャネルがどんどんなくなっている。ODA(政府開発援助)ももうありませんし。私はODAに代わる何か新しい援助ではない協力案件を作っておくとか、ある種のチャンネルを作るための協力、そういうものがあることによって先進国からも一目置かれるようになるんじゃないかなと思います」

※インタビューは1月5日に行われ、読みやすいように一部修正しています。