来月公開の映画「ブレット・トレイン」。日本の高速列車を舞台に、ブラッド・ピットさん演じる殺し屋が、次々と襲いかかる暗殺者たちと死闘を繰り広げる物語です。

この映画の原作は、伊坂幸太郎さんのベストセラー小説「マリアビートル」。日本のアニメやゲームの映画化が相次ぐ近年のハリウッドで、日本の小説が映画化されるのは異例のことです。アニメやゲームに比べると、なかなか海外に知られる機会の少なかった日本の小説。

映画の公開を前に来日した、主演のブラッド・ピットさんに、日本のコンテンツのさらなる可能性について、ニュースウオッチ９の山内泉キャスターが聞きました。

山内）

山内泉です。お会いできてうれしいです。今日はおこしいただき、ありがとうございます。

ブラッド・ピットさん）

こちらこそ。ありがとうございます

山内）

この特別な列車の感想を聞かせていただけますか？

デヴィッド・リーチ監督）

現実という感じがしませんね。素晴らしい技術を持ったスタジオの人たちが、この列車をロサンゼルスで再現してくれたので、またセットに戻ったという感じがします。

ブラッド・ピットさん）

同感です。撮影している時のような奇妙な感じがします。カメラがこちらを向いているし、景色も同じです。あと必要なのは私たちを襲う殺し屋だけですね。

山内）たぶん殺し屋はいないと思いますよ（笑）今回は非常に運が悪い殺し屋・レディバグの役でしたが、演じてみてどうでしたか？

ブラッド・ピットさん）

とにかく愉快で、面白いことが山ほどありました。殺し屋は、自分は運が悪いと思い込んでいて、アクションシーンでは次から次へと面白いことが起こります。どんどん、まずい方向に進んでいくんです。

山内）

魅力的なキャラクターがたくさんいましたが、１番好きな暗殺者を挙げるとしたら誰でしょう？

ブラッド・ピットさん）

この脚本の素晴らしいところは、それぞれ強烈なキャラクターが登場するところだよね、と話していたんですよ。なかでも、タンジェリンとレモンは特別です。映画に出てくる敵はみんな存在感のあるキャラクターです。ゲスト出演の名優たちも見どころです。敵を相手にした時の僕の戦いぶりもなかなかだったでしょう？ウルフ、ホーネット、それにモモモンとも戦いました。

山内）

とてもワクワク感のあるストーリーだと思いました。この映画の舞台は、“日本らしさはあるが、日本とまったく同じではない”世界です。このような世界観をどうやって作り上げたのですか？

デヴィッド・リーチ監督）

よく気がついてくれました。私たちは愉快で気持ちが盛り上がる映画、２時間、現実の世界を忘れさせる映画を作りたいと思いました。そのために私の愛する日本のアニメやマンガを参考にしました。映画全体にポップな感覚を出したり、登場人物が着る服やセットの色を工夫しました。マンガやアニメへのオマージュのような作品にしたかったのです。そのためにセットや映画全体の雰囲気を試行錯誤しました。

山内）

監督は、アニメとマンガがお好きだそうですが、この映画は日本の小説が原作です。この小説のどこに惹かれましたか？

デヴィッド・リーチ監督）

伊坂さんの小説には魅力的なキャラクターたちが登場します。また、それぞれのキャラクターを愉快なやり方で結びつけるプロットがあります。そして小説の核心には常に大きなミステリーがあります。この原作のそういうところに惹かれました。私は、多くのキャラクターが活躍する作品をそれまでやったことがありませんでした。ミステリーの要素も面白いと思いました。

山内）

日本の文化は好きですか？日本の文化のどんなところが好きですか？

ブラッド・ピットさん）

どんなところというより何もかも好きです。これまで何回か日本に来ました。数年前には１人で日本に来ました。仕事と関係なく東京や京都を楽しみました。東京と京都以外にも見どころがたくさんあります。どういうわけか日本にいると平和な気持ちになるんです。他の国ではそうはなりません。日本では何でもそうですが見せ方に感心します。アメリカ人はやたら量や数を求めて度を越すことがありますが、日本人は適切に加減した丁寧なやり方をします。何事につけ思慮深く、それが料理の出し方にも部屋のインテリアにもよく表れています。言葉ではとても言い尽くせません。日本に住んでみたいと思っています。

山内）

それを聞いてとてもうれしいです。最初に脚本を読んだ時はどう感じましたか？

ブラッド・ピットさん）

あの頃はロックダウンが実施されていて、誰もがいくらかクレージーになっていた頃でした。５か月も部屋から出ることができず、トンネルの終わりの光さえ見えない頃でした。そんな時に脚本が届きました。それも「ファイト・クラブ」で知り合いになった古い友人（デヴィッド・リーチ監督）と一緒の仕事でした。デヴィッドはスタントマンとして私にアクションの手ほどきをしてくれた人です。その後、友情と信頼を育んできました。デヴィッドから届いた脚本だったので私にとっては特別でした。脚本が届いた後で３０ページまで読んだ頃には笑い転げていました。今自分がやるべき映画はこれだと思いましたし、みんなのためにもなると思いました。その思い通り、今年の夏には（コロナも収まって）観客が映画館に集まることができるようになりました。私にとっては特別な作品です。

山内）

日本には世界には知られていない面白いコンテンツがまだたくさんあります。それは世界の人たちに知られているのでしょうか？

デヴィッド・リーチ監督）

もちろんです。きのう伊坂さんとお会いしましたが、彼の作品は出発点に過ぎません。様々な分野で非常に多くのアイデアや作品があるので、それらを探して映画化するのは非常に興味深いことです。

ブラッド・ピットさん）

私はストリーミング・サービスに強い興味を持っています。ストリーミング・サービスが登場したことで、国際的なコンテンツが一つに集まる場ができました。この国とかあの国ではなく各国のコンテンツが受け入れられています。ストーリーの中でアメリカと日本が融合していて、とても興味深いものもあります。そういった傾向がどんどん強くなっています。そうすることでお互いについて学びが深まるので、それはとても興味深いことです。互いの理解が深まって自分をグローバル・コミュニティーの一員と位置付けることができるようになります。このことは私にとって大きな意味を持っています。

山内）

日本のコンテンツを世界に出して行くにはどうすれば良いと思いますか？

ブラッド・ピットさん）

何もする必要はありません。今は誰もがコンテンツを欲しがっている時代です。プロデューサーの間では面白いコンテンツの争奪戦が起こっています。国は関係ありません。みんなが面白い作品を探しています。

デヴィッド・リーチ監督）

先ほども言いましたが、今、世界にはアニメの固定ファン層がいます。しかし、世界の人が日本に親近感を持つのはアニメだけではありません。世界の人たちが日本全体に対して親近感を持っているのです。今がすでにそういう状態です。

ブラッド・ピットさん）

「ブレット・トレイン２」を撮る時には日本で撮影しなきゃね。

デヴィッド・リーチ監督）

その通りです。

山内）

日本語で作られた日本のコンテンツをつなげる役割が、これからもっと大事になってくると思うのですが、いかがですか？　

ブラッド・ピットさん）

要は翻訳の問題だと思います。翻訳を通せば、より多くの人が作品を楽しむことができます。この小説は作者の了解を得て国際的なキャストになりました。このように機会が増えることはすごく良いことだと思います。

山内）

原作は全員日本人ですが、この作品は国際的なキャストですね。他の国を舞台にすることは考えませんでしたか？

デヴィッド・リーチ監督）

いいえ。日本が大好きなので日本で撮影したいと思いました。もちろん私は常に原作に敬意を払っています。伊坂さんにお会いしたとき、彼は「私はファンタジーの世界を作っている。私の本で全員が日本人である必要はない」と言っていました。それどころか国際的なキャストになることを歓迎していました。でも私は日本の美学を映画に反映させたかったので舞台を日本にしました。世界の観客にしてみれば、舞台が外国の方が楽しめると思うからです。映画の核心にあるのは、真田広之とアンドリュー・小路のキャラクターです。その組み合わせが絶妙でした。

山内）

映画はアメリカでヒットしましたね。それがきっかけで日本を再発見したといった話を聞いたことはありますか？

デヴィッド・リーチ監督）

それは何とも言えませんが、観客は現実を忘れて私たちが作った愉快な日本の世界に入りたいのだと思います。この映画の世界を楽しんでいると思います。

ブラッド・ピットさん）

それは間違いありません。観客は作品の雰囲気を楽しんでいます。