緊迫ウクライナ情勢 経済制裁とは SWIFTとは

NHK
2022年2月23日 午後7:30 公開

アメリカのバイデン大統領は22日、「ウクライナへの侵攻の始まりだ」とロシアを強く非難

ロシアの大手金融機関などに制裁を科すと発表しました。

バイデン大統領は記者会見で制裁の狙いについて「ロシア政府を西側諸国の金融システムから締め出す」と述べました。

第1弾の経済制裁」ということですが、この意味合いは?

ロシアにとって痛手となる制裁とは?

野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英さんにお聞きしました。

※23日午後11:00更新

【概ね予想された内容だった】

--今回の「第1弾の経済制裁」をどうとらえましたか?

木内さん:

ロシアのウクライナ侵攻があったときに「厳しい制裁措置を打ち出す」とバイデン大統領もずっと言っていましたので、今回のロシアの決定というのが「侵攻の始まり」だと評価してそれなりの経済措置を打ち出すことは予想された事態ではありました。

米欧、日本もそうですが、措置を協調で打ち合わせたときに金融市場は比較的冷静に受け止めているので、「概ね予想された内容だった、予想の域を出ていない」というのがいまの時点での金融市場の反応。

予想の域を出ていないということは、非常に甚大な影響をロシア・世界の金融市場世界経済に与えるものではないというのが第1段階の制裁の評価ではないでしょうか。

【ブーメラン効果で西側諸国に打撃も】

--予想の域を出ていないというのはどういうことでしょうか?

木内さん:

日米については、ロシア政府がアメリカ、日本など西側諸国で資金を調達するのを制限することを決めています。

あるいはロシアの銀行のヨーロッパ、アメリカでの取り引きを制限するというのを決めているんですが、世界経済に大きな影響を与えるのは、経済措置がエネルギー価格や食料品価格の高騰につながるかどうかという点にかかっています

今回のアメリカあるいは先進国が決めた経済制裁には、エネルギーの輸出で国際的な決済に関わるロシアの銀行は制裁の対象に入っていないのです。

ロシアの銀行は制裁の対象に入っているが、インフラ投資や軍事産業に関わる銀行が制裁対象であって、エネルギーではありません

これがエネルギー関連が制裁対象になると、世界的にエネルギー価格がかなり上がる、小麦などの食料品価格が上がるので、先進国側に打撃が返ってきてしまいます。

ブーメラン効果”です。

そうなると困る。

とりあえず第1段階では先進国側の経済に打撃が及ばない範囲の制裁にとどめたという評価ができると思います。

【物価高で世界経済の先行きが不安定に】

--だんだん制裁を強めると、どういうことが考えられますか?

木内さん:

第1段階は予想の範囲内ということで金融市場も比較的安定しています。

原油価格は上がりましたが、すごくは上がっていない。

ロシア側の軍事的な行動がエスカレートすると、アメリカが主体となって第2段階、第3段階の制裁措置を打ち出すということだが、世界経済に影響があるような制裁措置の内容になる。

例えばロシアは、エネルギー関連の輸出産業、例えば石炭天然ガスの輸出に関わる国際的な決済代金の支払いがドル建てでできないようにする、そこにかかわる銀行に制裁を打ち出すとなると、原油や天然ガスなどのさらなる価格の上昇につながります。

世界経済もすでに燃油価格の高騰など物価高で打撃を受けているが、さらにウクライナ問題が上乗せになってさらに物価の高騰につながるということになると世界経済の先行きがかなり不安になるということです。

第2段階、第3段階の制裁の内容によっては、先進国も含めた世界経済の大きなリスクになってくる。

次の経済措置を見極めようという雰囲気に金融市場はなっていると思います。

【返り血を浴びることも】

--先ほど“ブーメラン効果”と言われましたが、どういう意味でしょうか?

木内さん:

もちろん制裁措置なので、ロシアの経済に打撃を与えるのが目的ですが、世界経済はつながっていますのでロシアに制裁したらその制裁の火の粉が返ってくる、返り血を浴びるということが起きます。

代表的な例では、エネルギー関連で石油、石炭については、ロシアは産出量でいうと世界のトップクラスです。

小麦などもそう。

そこが制裁されると先進国側に石油、天然ガス、小麦、パラジウムなどがロシアから入らなくなると世界経済、先進国経済にも打撃になってくるということです。

これは“ブーメラン効果”と呼ばれるが、第1段階ではそこにいかないように慎重に制裁の内容を考えたが、さらにロシアの軍事的な行動がエスカレートした場合、“ブーメラン効果”、悪影響を甘んじて受けながらもさらに制裁を強化するという方向に先進国が乗り出していくことになります。

【ロシアが報復制裁することも】

--日本にも影響が出ますか?

木内さん:

ロシアに対する制裁を受けて、ロシア側が報復制裁を打ち出してくる可能性があります。

そのなかで有力なのは、ロシアがEUに対して供給している天然ガスの供給を絞るのではないかということです。

これはもう絞られているが、冬場の需要があるときに絞るという可能性がありまして、そうするとヨーロッパでは暖房用の天然ガスの調達が難しくなり価格がかなり上がるということになるので、ヨーロッパの経済に一番打撃があるんです。

ただ、天然ガスの値段も上がると連動して原油価格も上がるので、ヨーロッパだけでなくアメリカ、日本、それに世界全体の国民の生活にも打撃になります。

原油関連の原材料を使っていろんな製品を作る企業としてもコスト高で収益が悪化する打撃が、ロシアだけではなく世界全体に広がってしまいます。

原油価格が落ち着いている局面なら大きな問題ではないが、コロナ後の復興需要を受けて原油、天然ガスの価格が歴史的に高い数字にあるというなかで、ウクライナ問題があり、制裁措置のかけあいによってエスカレートしてしまうと、世界経済全体へのおおきな打撃となります。

【第1弾は象徴的な意味合い】

--改めて、今回の制裁第1弾にはどんな意味合いがありますか?

木内さん:

自制がきいた形の制裁にとどまっているし、シンボリックな意味合いが強いのではないでしょうか。

第2弾、第3弾になると、よりロシアにもダメージを与えるし、一方で先進国にも“ブーメラン効果”で経済に影響を与えるような措置もだんだん検討されていくという形になります。

【最終手段は国際決済できなくなること】

--ロシアにとってもっとも打撃の大きい経済制裁とはどんなものでしょうか?

木内さん:

制裁措置として一番厳しいのはSWIFT(スウィフト)=国際銀行間通信協会のネットワークからの排除ではないでしょうか。

SWIFTは銀行間の国際的な送金決済を担っている銀行の組織なんですね。

送金に伴う情報を伝える役割を果たしているが、この協会に入っていないと国際的な送金ができないということです。

組織(SWIFT)はヨーロッパにありますが、事実上アメリカが牛耳っていて、従来テロ国家に経済制裁をかけるときに、そこの銀行をSWIFTから排除することで他の国と貿易をできなくしてしまう。

最終手段という感じがするんですけど、ロシアの貿易もかなりの部分はドル建てでされています。

特に原油や天然ガスといったエネルギー関連はドルだと思うんですが、SWIFTはドル建ての国際決済をほぼ握っているのでそこからロシアの銀行が排除されるとエネルギー関連とか食料、小麦、ほとんどすべての製品の輸出入ができなくなってしまう可能性があります。

そうするとロシア経済はかなり混乱する形になります。

ロシアの銀行が排除されるということは、▼銀行がルーブルをドルに換える、▼ドルの調達、▼ユーロの調達が難しくなって、ルーブルというロシアの通貨に対する信用が急激に落ちますので、おそらく通貨危機のような状況にロシアは見舞われます。

ロシアの経済金融に対して最大限の制裁措置になってきます。

ただ、その場合も“ブーメラン効果”で先進国も大きく傷ついてしまいます。

石油、小麦、パラジウなどムの輸出がロシアからできないとなると、世界的に供給不足になりますので価格がもう一段上がってくることになります。

パラジウムは自動車産業で使われるのでサプライチェーンが混乱して自動車の生産に大きな制約になってきます。

大きな影響がありますので、アメリカとしても簡単に使うわけではないが、今後のロシアのウクライナでの軍事行動しだいでは、そういった手段を使ってくるという可能性があります。

そのときには世界経済に大きな逆風になるし、おそらく金融市場は大きな混乱に見舞われるのではないでしょうか。

【SWIFT排除は部分的にあり得る】

--ロシアをSWIFTから排除するという経済制裁はあり得るのでしょうか?

木内さん:

部分的な排除であれば可能性は50%以上あるんじゃないでしょうか。

すべてのロシアの銀行を排除するのではなく、主要な銀行だけを排除しようと、アメリカは以前から検討しています。

大手の銀行だけ何行か排除する可能性はあると思います。

すべての銀行を止めてしまうと貿易が止まってしまうので、そこまでやる可能性は小さいかなと。

ただ、いくつかの大手の銀行だけでもSWIFTから排除されると、ロシアの貿易経済活動にはかなり打撃になりますし、燃油価格のもう一段の上昇、あるいはルーブルの大幅な下落とか金融市場に大きな影響が及んできます。

【原油や小麦の値上がりも】

--日本にはどんな影響が考えられますか?

木内さん:

日本とロシアの間の貿易関係に支障が生じるということがあります。

日本からロシアに行っている工業製品などの輸出が難しくなるということもあります。

日本はエネルギーのロシアに対する依存度はそんなに高くないです。

天然ガスは、オーストラリアやカタール、ほかのアジアの国から輸入していて、ロシアへの依存度は数%だったと思います。

ロシアとの貿易がなくなった途端に日本経済が大きな混乱に見舞われることはないと思います。

一番大きな影響は、世界的な原油価格の高騰や小麦の高騰に拍車がかかること。

消費者にとっては物価高という形で影響が出て、企業にとっては原材料高になります。

エネルギー価格が上がったときの打撃アメリカ経済よりも日本経済の方がずっと大きいです。

【ハイテクの輸出規制はロシアに打撃】

--経済制裁はどこまで行きそうですか?

木内さん:

出るのが確実だと思うのはハイテク輸出の規制主に半導体の輸出規制ですね。

軍事もそうですが、ロシアはロボットやAIで使う半導体は、海外からの輸入に依存しているので、そこを止めてしまうのはかなりの確度で出てくると思います。

今回の第1弾には含まれないが、それは調整がつかなかったからだと思います。

半導体の供給は台湾や韓国といったアジア勢が中心なので、アメリカだけでなく、アジアの国に協力してもらわないと実効性のある輸出規制にならないので、そこの調整がまだやっているということでしょう。

近い将来、出てくると思います。

これは“ブーメラン効果”はないので、輸出規制したからと言って先進国側に大きな打撃があるわけではなく、一方的にロシア経済に打撃が出ます。

今すぐにロシア人の生活が困るわけではなくて、ロシアの将来の産業を見据えたときに、そこの道をたたれるのはロシア経済にとって大きな打撃となります。

返り血を浴びないですが、ロシアに打撃を与えることができる経済措置なので、時間の問題で、やるだろうと思います。

【注目は中国の対応】

--今後の注目点は?

木内さん:

やはり中国なんだと思うんです。

経済的にいうと、中国がロシアからの天然ガスの輸入を増やすということに。

緊密になっている中国がロシアが経済制裁で困っているときに助けに出るんではないか、ここははっきりわからないが、アメリカは警戒しています。

例えばエネルギー関連。

石油や天然ガスの輸出が制限されるときは、その分中国が買ってあげる

あるいはSWIFTからロシアの銀行がすべてあるいは一部除外されてしまって、ドル建てでの貿易決済ができなくなってしまう場合に、中国は中国で独自の国際銀行決済の仕組みを持っているので、例えば人民元とルーブルを交換する形でロシアの貿易を助けてあげる可能性が出てきます。

そうすると“制裁逃れ”みたいな形になります。

先進国がこれからさらに厳しい経済制裁を科していったとしても中国が協力すると、ロシアにダメージが及ばない“制裁逃れ”になってしまいます。

※インタビューは23日の午後、オンラインで行われ、読みやすいように一部修正しています。