ロシアによるウクライナ軍事侵攻から1か月。このタイミングで、アメリカやヨーロッパ諸国などNATO加盟の30か国の首脳が緊急に集まり、ロシアへの対応を協議。
NATOは、ロシアに対する圧力を強めてその侵略の動きを止めることはできるのか。
戦いを終結させるためには何が必要か。
国際政治と安全保障が専門の一橋大学教授の秋山信将さんに田中正良キャスターと和久田麻由子キャスターがスタジオで聞きました。
3月24日に放送された動画はこちら。3月31日までご視聴いただけます。
👀ポイント
○ウクライナの士気の高さ、ゼレンスキー大統領のリーダーシップ、NATOの結束はロシアにとって大きな想定外
○このままでは、いま我々が生きている国際秩序が脅かされかねない
○“核のどう喝”を簡単に使ってくるような”ならず者国家”からどう安全を守るか考えないといけない
○ロシアに核兵器を使用させずに戦いを終わらせるためのシナリオ
【NATO結束をロシアに示す】
ーーバイデン大統領も参加して開催のNATO首脳会議ですが、このタイミングで開かれたことをどうご覧になりますか?
秋山さん:
開戦から1か月ということで、改めてNATOの結束をロシアに対して、それからウクライナに対して、さらにNATO諸国の国民に対して示すということが重要だと思います。
3つメッセージがあると思います。
1つはウクライナに対して引き続きNATOは強力に支援していくこと。
もう1つがNATOの中でもぜい弱な東ヨーロッパのブルガリアやハンガリー、スロバキア、ルーマニアに対してロシアの脅威から守ることを明確に示すこと。
3つ目としてはいま、化学兵器、生物兵器の使用が懸念されているわけですが、これに対して断固たる姿勢でそれを許さないことを示し、もし使った場合にはしっかりと対処すること。
このことを示すことがねらいだと思っています。
【化学兵器使用させないためのシグナルを】
ーー3点目の生物化学兵器が実際に使われた場合、NATOはどう対応すると予想しますか?
秋山さん:
非常に難しい対応を迫られると思っています。
まずは、使用させないためにしっかりとシグナルを送るということが大事です。
万が一使用されてしまった場合、恐らくロシアは「ウクライナが化学兵器を使用した」と主張してくると思われます。
これがウクライナによるものではなく、ロシアによるものであるということをしっかりと国際社会に示していく。
ロシアの「核ドクトリン」」によれば、ウクライナが化学兵器を使用した場合は、ロシアの核兵器の使用を正当化する理由にもなってしまうということです。
なので、こうしたメッセージを明らかにし、もし本当に使用されてしまった場合には、被害にあった地域への対処ということで、一義的にはウクライナが対応するのでしょうが、追加的な支援を行っていくということはあるかなと思っています。
【結束はロシアにとって大きな想定外】
ーー戦況についてうかがいます。ロシアの思惑どおりにいっていないという指摘もありますが、ここまでの1か月の戦況をどうご覧になってますか?
秋山さん:
ご指摘のとおりで、ロシアにとってはいろいろ想定外のことがあったと思います。
1つはウクライナの士気の高さ、それからゼレンスキー大統領のリーダーシップ、そしてNATOあるいはヨーロッパ各国の結束。
例えば、経済的に見ると、エネルギー供給でロシアに依存している国々が多い中で、経済制裁も含めて足並みが乱れるのではないかと(ロシア側は)考えていたと思いますが、それに対して非常に強い結束力でウクライナを支えています。
ウクライナ自身の取り組みや努力、それからNATOの結束は、ロシアにとって非常に大きな想定外のことだったのではないかと思います。
【我々の国際秩序が脅かされかねない】
ーー長期化によって市民の犠牲も増え続けています。事態打開の糸口がなかなか見えないように感じますが、いかがですか?
秋山さん:
これはウクライナ、欧州だけではなく、世界全体に対し非常に難しい問題を突きつけていると思います。
つまり、すでにロシアは非人道的な行為を戦闘の中で行っています。
病院を爆撃したり、原子力発電所を攻撃したり、さらに言うと“核のどう喝”によって自分たちの目標を追求しようとしています。
こうした中でロシアがもし何か目的を達成してしまうということになれば、我々が生きている国際秩序というのが脅かされかねない。
一方で、戦闘が長引けば長引くほど多くの方の命が失われかねません。
我々は、どちらを選択するんだろうか。
ある意味で今後、戦争が長期化するに従って、より難しい問題を突きつけられることになるのではないかと思います。
【”ならず者国家” どう安全を守るか検討を】
ーー秋山さんは、核軍縮も専門ですが、今回プーチン政権が核兵器の使用を示唆する異例の事態になっているわけです。このことについてどう受けとめていますか?
秋山さん:
ロシアの軍事ドクトリンや、核抑止に関する基本文書などを読むと、実際にそのように戦争を遂行すると書いてあります。
このため、分析としては驚きはないわけですが、実際にこれをやってしまうという点からすると、我々としては驚きというか、本当に残念な気がしております。
もしこのまま“核の脅し”、“核のどう喝”のもとで、アメリカ、それからヨーロッパの行動が抑制されて、ウクライナに対して積極的な支援が妨げられるということがあれば、核兵器の役割や意味が再認識されることになってしまいます。
核軍縮の観点からすると望ましくないであろうし、安全保障の観点からしても、こうした“核のどう喝”を簡単に使ってくるような”ならず者国家”に対して、我々の安全をどう担保していくのかということも考えざるを得ないことになるかと思います。
【”核によるどう喝”の正当化への懸念】
ーーロシアが核兵器を使用する具体的な条件として、他国に核兵器で攻撃される場合に加えて「国家の存続を脅かす通常兵器による攻撃」と定めています。
具体的にはどういったような状況が想定されるのでしょうか?
秋山さん:
この「国家の存続」という概念が非常に広く解釈され得る可能性は非常に高いと思います。
例えばロシアという国家そのものが直接の攻撃にさらされなかったとしても、今回のウクライナの戦争において、ロシアが敗北するというようなことがあり、それが今のプーチン政権の存続を脅かすというようなことがあれば、「国家の存続を脅かす」ということにもなり得るでしょうし、いまの経済制裁によって長期的に見ると財政的に大きな困難に直面するかもしれません。
もう少し直近で見た場合に、いま、ロシアの軍需産業は半導体などを実質的に海外からの輸入に頼っている状況でもあって、供給が止まった場合に今後の戦争を遂行する上での兵器の供給が止まるとなってきた場合に敗北を受け入れるのか。
敗北を受けれないのであるならば、そのときに使える兵器は何なんだろうかと考えた場合に、その核兵器の使用のリスクは高まっているかもしれないと考えざるを得ないです。
もう1つは化学兵器の使用、大量破壊兵器の使用というのも核兵器使用の引き金になり得るということも書かれているわけです。
そういう意味では、いま我々はロシアが化学兵器を使うことを懸念していますが、ロシア側からすれば「ウクライナが化学兵器を使った」というストーリーを作り上げて、それに対する報復ということで、核兵器使用の正当性、あるいは“核によるどう喝”の正当性を主張するという事態になるかもしれません。
【戦い終結のための2つのシナリオ】
ーー国際社会としてはロシアが大量破壊兵器の使用をしないで戦争を終わらせることが望ましいわけですが、今後どのようなシナリオが考えられるでしょうか?
秋山さん:
予見不可能な部分もあるので、可能性としてこういうパターンがあるということですが、
最悪シナリオというのは核兵器を使用してしまうこと。
最善シナリオはロシア国内の政権内において何らかの形でクーデターが発生してプーチンを追い落とし、それによって核兵器が使用されずロシアも敗北を受け入れる形で終わる。
現実的にはおそらくそのまん中あたりだと思います。
これはじくじたる思いのある方も多いと思いますが、プーチン大統領に何らかの出口を用意して和平に持っていくこと。
もう1つの選択肢は、現在、欧米諸国がとっているものですが、とにかくプーチンを落とすんだ、と。その過程で、もしかして核の使用のリスクが高まっていくかもしれませんが、核の使用をさせないような形でプーチンを追い落としていく。
この2つのシナリオが考えられるのかな、と思います。
ーーありがとうございました。
※読みやすいように一部修正しています。