ウクライナ最新の戦況を分析 明海大学・小谷哲男教授

NHK
2022年2月28日 午後10:00 公開

○なぜキエフは陥落せずに持ちこたえているのか?

○西側諸国が支援するという武器はどうウクライナに持ち込むのか?

○戦火が拡大することはないのか?

○深刻化する戦況、今後の展開は?

明海大学教授日本国際問題研究所主任研究員小谷哲男さん田中正良キャスターが聞きました。

「欧米諸国の支援を受けて、ウクライナが抵抗を続ければ、プーチン体制にとっても非常に大きなダメージになる。私はウクライナの自由を求める気概、愛国心を非常に尊敬しており、ぜひ国際社会として支持していきたい」と語る小谷教授のインタビューは28日(月)に放送されました。

※午後11:30更新

--このロシアの侵略とウクライナの攻防ですが、どこの情報を見るともっとも戦況を追えるのでしょうか?

小谷さん:

今のところはやはり、アメリカ国防省が毎日のようにブリーフをしていますけれども、これが一番正確な情報だと思います。加えてイギリスの国防省もネットを使って現場を常にアップデートしております。この辺の公開情報が一番信用できると思います。

【ロシア、増派部隊をウクライナに】

--直近の戦況の情勢をどう見ていますか?

小谷さん:

まずはロシアとしてはやはりキエフを一刻も早く陥落させたいということだと思いますが、いまだに30キロ近くのところで、ウクライナ軍の抵抗にあって進めていないという状況です。

情報戦では既に包囲されたということも出ていますけれども、実際にはまだ包囲するところまではいっていません

他方で、いままで小出しに部隊を出しておりましたが、きのうの段階では、ウクライナ周辺の部隊の3分の2をすでにウクライナに投入したということですので、かなり増援部隊を送り込んでいるところです。

--ロシア軍がウクライナ周辺に侵攻の直前にロシアの兵力は15万18万20万人と言われていましたが、その3分の2をすでにウクライナに投入したということですか?

小谷さん:

はい。アメリカは15万人がもともと配備され展開していたというふうに見ていますので、単純計算で10万近くがウクライナの侵攻に投入されているということになると思います。

--そうしましたら、地上軍も含めて投入をしているという理解でよろしいでしょうか?

小谷さん:

そうですね。

戦車部隊、装甲車、それに歩兵も含めてですけれども、投入されているということになると思います。

【ロシア、高価な精密誘導弾は在庫切れか】

--となると,軍事的にはかなり本格的な軍事侵攻が加速しているというふうに見ていますか?

小谷さん:

精密誘導弾は開戦した当初はかなり使っていたんですけれども、おそらくその在庫がかなり減ってきていると思います。

その精密誘導弾は非常に高価なものですので、これを温存してその精密誘導兵器ではない弾薬をこれから主に使っていくのではないかと思います。

既にクラスター爆弾なども使われたと報じられておりますけれども、今後は、より正確ではない攻撃、言ってみれば無差別攻撃が本格化していき、そうなるとおそらく市民の犠牲者も増えてくるのではないかと思います。

【小出し投入でキエフ侵攻に遅れか】

--焦点は首都キエフの攻防となっています。先週の軍事侵攻から5日目に入りますが、首都は陥落していません。専門家から見ると、これぐらいの時間がかかるのは当然だと見ていますか?

小谷さん:

当初アメリカは、開戦から2日、あるいは3日でキエフが陥落するだろうと見ておりましたが、その前提は15万とも19万とも言われていたウクライナ周辺に展開していた部隊を総動員して、戦闘を行うことだったと思います。

ところが実際には、最初の段階で5万近く、今で10万ですから、かなり小出しに投入していて、それがキエフ侵攻が遅れている原因のひとつだろうと思います。

また、ロシア軍の練度とか士気も必ずしも高くないようですし、現在アメリカの見立てでは、ロシア軍が補給にかなり苦労しているだろうと。

特に燃料が不足しているのではないかということですね。

もうひとつの要因としてはやはり、制空権、つまりその空において有利な状況を作るということに失敗したことが大きいと思います。

何度かパラシュート部隊をキエフ近くの空軍基地に降ろしていますが、ことごとくウクライナ軍に追い返されて撃退されているということで。

制空権を取れないことで空から輸送機を使って歩兵部隊をキエフに向かわせることができていない。これがもうひとつの要因ではないかと思います。

【武器はポーランドから陸路ウクライナへ】

--そうしますと、戦況の焦点は首都キエフをめぐる攻防。それからウクライナ全土になりますかね。全土の制空権を抑えるか抑えられるかというところ。この2つに絞られてくる感じでしょうか?

小谷さん:

この2つは初戦から非常に重要なポイントではありますが、もうひとつポイントがあると思います。

それはきのう、きょうと欧米諸国がウクライナ軍に対して対戦車ミサイルであったり、対空ミサイルを追加で支援することを表明していますが、これらの武器あるいは弾薬は、いま危険で空路で運べませんので、主にポーランドを通じて陸路で運ぶことになっていきます。

【ベラルーシ、戦いに本格介入か】

ところが、本日のアメリカからの情報では、どうもベラルーシの軍が本格的にこのウクライナ戦争に介入しそうだと。

ベラルーシ軍が介入すると、ウクライナの西部を抑えることができるかもしれません。

するとポーランドから、ウクライナの西部、キエフなりその他の地域に欧米から提供される武器弾薬が届かなくなる可能性があります。

ベラルーシ軍が仮に本当に介入した場合、ウクライナの西部を抑えるのかどうか、ここも新たなポイントになってきます。

--ベラルーシが出てきますと、今度は「ロシアとベラルーシ対ウクライナ」という戦いになりますが、この枠組みでもNATO、アメリカ、イギリスは間接的な支援にとどまるのでしょうか?

小谷さん:

はい。基本的にはNATO加盟国に対する武力攻撃がない限り、アメリカであったりその他のNATO諸国がウクライナと一緒になって戦うということは考えにくいと思います。

【側面支援でプーチン大統領の目的達成阻止】

--冷たい言い方ですけど、あくまでウクライナに踏ん張ってもらう、頑張ってもらうというのが基本的なスタンスということですね?

小谷さん:

そうですね。ウクライナに対して側面支援をして、▼プーチン大統領の目的を達成させない、あるいは▼達成を遅らせるということが欧米諸国の基本的な方針になります。

【ウクライナ、非常に厳しい状況続く】

--ウクライナがNATOの加盟国ではないとは言え、あれだけの大軍を前にかなりしんどい状況ですよね?

小谷さん:

ウクライナにとって非常に厳しい状況が当面続くと思います。

【地上から航空機迎撃がウクライナの戦い方】

--いま非常に貴重な分析で、首都キエフについてはやはりなかなかロシアの組織戦、それから士気に課題があるんじゃないか。それから制空権が取れていないと見られることについては、かなりウクライナ側が反撃。特に地対空ミサイルとか、航空兵力というよりは、地対空ミサイルといった武器が功を奏してロシアが制空権を取れていないのでしょうか?

小谷さん:

はい。今回のウクライナでの戦争は、「戦車対戦車」とか「戦闘機と戦闘機」というよりは、ロシアの戦車に対して対戦車ミサイルでウクライナが攻撃をする

飛んでくる航空機に対して地上からミサイルで迎撃するというのがウクライナの基本的な戦いで、これが今のところ功を奏しているということです。

迎撃ミサイルの在庫がかなり減ってきていますので、いま欧米諸国がこの支援を強化しているところです。

【停戦協議、すぐに合意の可能性は低い】

--きのうあたりから停戦協議という情報も出ています。この動きはどうご覧になっていますか?

小谷さん:

停戦協議自体はきょうから始まることになっていますけれども、やはり実際の戦争に関して、どちらかが圧倒的に有利な立場に立てておりませんので、協議が始まったとしても、お互いに最大限の主張をすることになろうかと思います。

やはりお互いに妥協することは難しいと思います。

協議が始まってすぐに何らかの合意がなされる可能性は非常に低いと見ています。

またロシア側はこの交渉中も攻撃は手を緩めないようですし、その交渉の場を提供しているベラルーシも軍を出す動きを見せていますので、交渉中も軍を進めてその中でより有利な状況を作り出して、交渉でもロシア側は自らの要求を通そうとするのではないかと思います。

【ロシア、残りの部隊をすべて投入か】

--争い、武力侵攻は今後どれぐらい続くと見ていますか?また、ロシアはどう出てきますか?

小谷さん:

ロシアとしては、一刻も早くキエフを落として、その停戦和平交渉においても有利な立場に立とうとすると思いますので、残りの全ての部隊を投入することが考えられます。

いま、燃料を含めて兵站に問題があると言われておりますが、それも本国から補給物資を持ってきて、できるだけ早くキエフを陥落させようとするのではないかと思います。

加えて、きのうですが、プーチン大統領が核戦力の警戒体制をひとつ上げることを指示しました。

ロシアの核使用の方針にのっとれば、核使用をすることで戦っている戦闘を有利な形で終わらせるというものがあります。

今後この核の使用をほのめかす中で、いまのこの戦争をより有利な状況に持っていこうとすることも考えられると思います。

【戦略核を使ってウクライナに脅しも】

--非常に由々しき事態だと思うんですけれども、プーチン大統領はこの核をウクライナに対して使いますか?

小谷さん:

まだプーチン大統領の発言からは読み解くことができませんけれども、一番可能性が高いのはやはり戦術核をウクライナに対して使用をする、あるいは使用することをほのめかすことで、自分たちの立場を強化しようとするのではないかと思います。

戦略核、ICBM(大陸間弾道ミサイル)ということになると、アメリカとの本格的な戦争になってしまうので、そこまでいまの段階で踏み込むとはなかなか考えにくいです。

やはり戦略核を使った脅しあるいは実際それをデモンストレーションとして使う。これらのシナリオは考えられると思います。

【欧米は直接介入控え、対ロシア制裁強化へ】

--これに対してウクライナ側、アメリカ、それから NATOは今後どう出ていくんでしょうか?

小谷さん:

ウクライナとしては、欧米からの支援を受けて、いまの戦いを何としても続けていき、プーチン大統領の野望を何としても打ち砕くということで戦っていくんだろうと思います。

欧米諸国は、直接的な介入は控えると思いますが、ウクライナに対する支援を強化しながら、経済制裁も含めてロシアに対する圧力をさらに強めていくと思います。

【ポーランドに対する核攻撃の脅しも】

--仮にベラルーシが武器の補給路を断つためにウクライナ西部などに、軍事的に出てきた場合、戦火がポーランドなどに広がっていく恐れはないのでしょうか?

小谷さん:

それは常に否定できないものでして、ロシア側から戦端をさらに拡大することは常に考えておく必要があると思います。

直接 NATO加盟国を攻撃しなくても、例えばポーランドが欧米の支援の入り口になるのであれば、ポーランドに対する核攻撃をほのめかすことも今後考えられると思います。

NATO諸国としてはやはりNATOの安全防衛というものを今後さらに強化していくことになると思います。

【あらゆる可能性を考える必要】

--ポーランドまで巻き込まれる事態になると、言いたくはないですけれど、第3次欧州大戦もしくは世界大戦のようなリスクが上がってくるので、どんどんどんどん危険水域に入ってくるということですね?

小谷さん:

そうですね、プーチン大統領の行動が非常に読みにくいので、あらゆる可能性を考えておいたほうがいいと思います。

【ロシアの挑発行為、日本も警戒を】

--ロシア軍の動きですが、アジア方面でどんな動きをすることに警戒しておく必要あるでしょうか?

小谷さん:

ウクライナで戦争が始まる前に世界規模で大きな演習をロシアはやりました。

その中には北方領土も含めて千島列島での演習もありました。

いまウクライナで手一杯だからと言って、欧州方面だけに集中するということはないかと思います。

例えばいつもあることですけども、日本の領空に対して、爆撃機を飛ばしてくるようなことも十分考えられるので、挑発行為は少なくとも警戒しておく必要があるかと思います。

--ロシアの武力侵攻が始まってから台湾海峡含めて中国の動きをどう見ておられますか?

【中国、ウクライナ情勢を分析・理解へ】

小谷さん:

中国は外交面ではいまのところ、ロシアを支援する立場を貫いています。

他方でこの台湾 海峡、台湾問題への飛び火というのに懸念が高まっていますけれども、今のところ台湾を侵攻する動きは見られません

一部、いつも通り台湾の南西区域に戦闘機等を飛ばすということは続いていますけれど も、大規模な侵攻をするような動きは見られておりません

中国としてはウクライナ情勢がどのように国際社会に影響を与えるのか、それが台湾有事を起こした際に、国際社会がどういう動きを示すのか。その辺をこれから分析していくんだろうと思います。

今すぐに、台湾海峡で危険が高まるということないかもしれませんが、中国がウクライナ情勢をどのように分析し、理解し、今後の行動に活かしていくのか。この点は我々としてはしっかり分析していく必要があると思います。

【北朝鮮発射はウクライナと直接リンクせず】

--きのうの朝、北朝鮮は弾道ミサイル発射しました。これはウクライナ情勢と関連していますか?

小谷さん:

今回、北朝鮮は偵察衛星の開発に必要な実験を行ったと発表しています。

この偵察衛星の開発というのは、昨年の1月に発表した、今後5年間の計画に含まれているものですので、おそらくは従来の計画に則った行動であって、ウクライナ情勢とは直接リンクしたものではないと思います。

他方で、国際社会がどのように反応するのか。あるいは日米韓の情報収集体制がどういう状況なのか。それを付随的に試したという可能性は十分に考えられると思います。

--ロシアとウクライナのせめぎ合いでウクライナが想像以上に善戦しているとう話でした。改めて、今後の成り行きをどうご覧になっていますか?

小谷さん:

いま15万とも19万とも言われるロシア軍がウクライナの中に入ったり、その周辺にまだ待機しているわけです。

この19万の兵力で、人口4000万のウクライナ全土を占領するとことは、相当難しいと思います。

だからこそ、ロシアはキエフを一刻も早く陥落させて、傀儡政権を作って和平条約を結んで、戦闘状態を終結させたいと考えているんだと思います。

しかし、この4日、5日で見えてきたのは、ウクライナ人たちの愛国心、国を守るという気概であります。

19万の兵力に仮に侵入されて、首都が抑えられたとしても、ウクライナ人の抵抗は続いていくのではないかと思います。

そうすればプーチン大統領の目的はそう簡単に達成できません

欧米諸国の支援を受けて、ウクライナが抵抗を続ければ、プーチン体制にとっても非常に大きなダメージになってくる思います。

私はウクライナの自由を求める気概、愛国心、これを非常に尊敬したいと思いますし、ぜひ国際社会として支持していきたいと思っています。

※インタビューは28日(月)にオンラインで行われ、読みやすいように一部修正しています。

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