ミャンマーで拘束の日本人ジャーナリスト　何を伝えようとしたのか

ジャーナリストの久保田徹さん、２６歳。

軍が実権を握るミャンマーで拘束されています。

８月、現地で裁判が始まっていて、解放される見通しは立っていません。

こうした中、久保田さんの母親がＮＨＫに手記を寄せ、初めて心境を明らかにしました。

久保田さんは、混乱が続くミャンマーで何を伝えようとしたのでしょうか。

“実情を広く伝えたい” 　久保田さんの原点

久保田徹さんが、６年前に公開したドキュメンタリー作品。

（久保田さん作品／Ｌｉｇｈｔ　ｕｐ　Ｒｏｈｉｎｇｙａ）

「深刻な問題は彼らの世界が閉ざされ、未来への希望すら持てないことではないだろうか」

ミャンマーの少数民族を取材。みずからのナレーションで、飢餓や病気に苦しむ難民キャンプなど、人々の日常を伝えています。

「彼らの命は常に危険にさらされている」

大学生の頃、サークル活動の一環で初めてミャンマーを訪れた久保田さん。少数民族が迫害され、劣悪な環境で暮らしているのを目の当たりにしました。その実情を広く伝えたいと、これまで１０回以上、現地に通っては記録を続け、ドキュメンタリーで発信を続けてきました。

久保田さんと一緒に作品を作ってきた松井至さん。ミャンマーへの思いを何度も聞いていました。

「『俺はずっとミャンマーのことは絶対やらなきゃいけない』というふうに僕には伝えていましたよね。遠い痛みを今ここで感じるにはどうしたらいいか、自分が現場に立つしかないんですよ」

相次ぐ拘束　現地では何が…

去年（２０２１年）２月、ミャンマーでは、軍がクーデターで全権を掌握。その後、民主化を求める市民たちを武力で押さえ込んでいます。

弾圧によって、２０００人以上の市民が死亡、およそ１万５千人が拘束されたとみられ、国際的な非難の声が高まっています。

さらに、メディアに対する圧力が強まり、外国人を含めた記者が次々に拘束される事態になっています。

クーデターのあと、久保田さんは現地の人々が苦しんでいるのに何もできていないと悩みを語っていました。

（久保田さん）

「クーデターが起きてからすごくもどかしいというか、現地の状況に対して何もできないというのが非常に悔しかった」

そして先月中旬、久保田さんはミャンマーへ単身で渡航。７月３０日に軍に対する抗議デモの現場で、治安当局に拘束されました。その後、観光ビザで入国し、デモを撮影したとして、入国管理法違反などの疑いで訴追され、８月中旬、非公開で裁判にかけられました。

現地の日本大使館は解放に向けた働きかけを行っていますが、裁判は今後も続くとみられ、拘束が長引くおそれが出ています。

母 “身が引き裂かれるような思い”

こうした中、久保田さんの母親がＮＨＫに手記を寄せました。解放の見通しが立たない中での心境を、初めてメディアに明かしました。

「私たち家族はもう何年もたったような時の流れを重く感じ、まるで時間が止まったかのように毎日身が引き裂かれるような思いで過ごしています」

「無事に帰国するときは胸を張って帰ってきて欲しい」

今、久保田さんはどういう状況なのか。

ジャーナリストの北角裕樹さん。去年４月、ミャンマーで拘束され、およそ１か月間、最大都市ヤンゴンにある刑務所で過ごしました。同じ刑務所に久保田さんが移送されたことが確認されています。

（北角さん）

「独房がいくつも並んでて、僕はここの１１番目にいたんです」

ミャンマー人は２００人以上が１つの部屋に押し込まれていたのに対し、外国人は独房が用意されていました。当時、暴力をふるわれることはなかったものの、今は状況が悪化しているのではないかと言います。

（北角さん）

「突発的に何があるか分からない。また、しばしば（刑務所内で）暴動が起きている。そういう混乱の中で（久保田さんが）危険にさらされる可能性はあります」

親交ある人々も 　“怒りと悲しみ”

日本に住むミャンマー人からも久保田さんの解放を求める声があがっています。

ミョーチョーチョーさんは、少数民族の１人として、久保田さんの取材を１０年近く受け、親交を深めてきました。

（ミョーチョーチョーさん）

「徹さんが自分の命も危ないって分かっていて、伝えようとしてて、それで捕まっちゃった。怒ってる気持ちもいっぱい、悲しむ気持ちもいっぱい、混じってる」

“事実を記録し続けること　今求められている”

ジャーナリストの北角さん。弾圧や拘束が行われる中でも、久保田さんのように「事実を記録し続けることが、今、求められている」と考えています。

「（拘束は）許せないことではあるんですけれども、それを乗り越えて何とか真実を伝えようとしている人がいるのもまた事実です。で、そういう人が必要なのも事実です。そういう人が捕まらない世の中をつくるためにみんな頑張っている」

久保田さんの母親は、手記の最後のページにこう記しています。

「最近ニュースなど取り上げられず、忘れ去られていく不安でいっぱいです。自由を奪われた弱い立場の人々を助けようとしてきた息子。今度は自由を奪われた息子を皆様どうか助けていただきたいです」

久保田さんの母親は、拘束が長引く中、このことが少しでも広く伝わり解放につながればという思いから手記を初めて寄せてくれました。

その上で、１日も早い解放が実現するよう、ＳＮＳで情報を発信したり、署名をつのったりしているということです。