“人道回廊”とは停戦とセットでないと無意味 東野篤子さんに聞く

NHK
2022年3月8日 午前6:00 公開

ロシア国防省は、首都キエフなど4つの都市で市民のための避難ルートを設置し、これらの地域で一時的に停戦すると発表しました。

この避難ルートは”人道回廊”とも呼ばれてます。

どういうものなのか?機能するのか?

ロシアと欧米の関係に詳しい筑波大学の東野篤子さんに、田中正良キャスターがスタジオで聞きました。

3月7日放送の動画はこちら。3月10日までご視聴いただけます。

👀ポイント

○戦闘激化でウクライナ人口の1割が流出の可能性も

○集合住宅攻撃は侵攻遅れによるロシア軍の焦り

○”人道回廊”は停戦とセットでないと無意味

○最終的な行き先はウクライナ人が求めていないロシア

○“人道回廊”は過去にプーチン政権が軍事介入したシリアの内戦でも

【戦闘激化で人口の1割が流出の可能性も】

ーー第2次世界大戦後、最も速いペースで避難民が増えているということですが、東野さんはこの状況をどうご覧になりますか?

東野さん:

今回の侵攻で最大で400万人程度がウクライナから流出すると言われています。 

ウクライナの人口が4000万ぐらいですので、人口の実に1割にあたる人々が流出する可能性があると言われているんですね。 

例えばアメリカも軍隊をポーランドの国境地帯に派遣して避難民の受け入れに万全の体制を整えていたはずです。

またポーランドなどEU加盟国も受け入れには非常に積極的です。

ところが、戦闘が激化してしまって当初の準備をはるかに上回るペースで人々が流入してきていることが見て取れます。 

【集合住宅攻撃はロシア軍の焦り】

ーー速いペースで避難民が増えているという予想外の事態が起きているわけですね。そして避難中の市民、民間人にロシア軍が攻撃していると伝えられています。ここに来て民間人が犠牲になる攻撃が増えているように見えますが、背景には何がありますか?

東野さん:

例えば今回のイルピンの攻撃では、集合住宅や一戸建てに対する攻撃の映像が非常にたくさん入ってきました。 

これはやはりロシアによる軍事侵攻が当初の想定よりも遅れているために、やはり焦りが出ているという見方もあります。

しかし、もともと民間人に対する攻撃に、少なくとも末端レベルでは、ちゅうちょがないということも考えられますね。

【”人道回廊”は停戦とセットでないと無意味】

ーーちゅうちょがないとは非常に恐ろしい事態です。こうした中でロシア側は、ウクライナの市民のための避難ルートをマリウポリなどに設けたと発表しました。 この避難ルートは“人道回廊”とも呼ばれていますが、これがどういうもので、実際に市民を救うことにつながるのでしょうか? 

東野さん:

非常に難しい問題です。

もともと“人道回廊”というものは、どうしても“人道”という言葉に引きずられかねないのですが、実態としては多くの問題を含んでいます。 

そもそもこれは何かと言いますと、例えば時間を区切ってきっちりと停戦をして、人々の避難を促すルートなんですね。

なので、きちんとした有効な停戦とセットでなければ全く意味がありません

ただ、第2回目の停戦交渉では避難ルートを設けることには合意したものの、きちんとした停戦が伴うかというところまで確約はとれていなかったのです。

【ロシア シリアの内戦でも“人道回廊”】

ーーその避難ルートについてロシア側が詳細を発表したようです。それによりますと、首都キエフからはベラルーシのゴメリを経由して行き先はロシアなど、6つあるルートのうち4つの行き先がロシアになっています。理解が難しいですが、どういうことなのでしょうか?

東野さん: 

このロシアルートを使って避難した人も一定数はいるということが確認されているんですけれども、やはり圧倒的な多くの人たちはウクライナルートを使って避難を求めていたわけです。 

ところが、ウクライナルートに関しては停戦が全くできない状態で、多くの人々が取り残されることになってしまいました。 

これはシリア内戦のかつての状況で、ロシアが作った“人道回廊”の様子を見てみますと、停戦を行わずに避難ルートから抜けられなかった人たちをそのまま戦闘員と見なし、より激しい攻撃を加えるという事態が何度も起きていました。

今回もそういった可能性は否定できません。

【より危険な状況に陥る可能性も】

ーーシリアで起きた”人道回廊”の例を見ると、なかなか厳しいということですね。そうなりますと、今後、何が懸念されると見ていますか。 

東野さん:

やはりこういった避難ルート、“人道回廊”というものが全く信憑性を持たないということになってきます。 

そうなってくると、ロシア側がこれを妥協の産物として出したところで、そもそも実施する意図がなければ全く意味がないし、より危険な状況に陥ってしまう可能性があります。

【情報統制 プーチン政権脅かす反作用も】

ーーロシアの行動を止めるのが難しい中で、ロシア国内の反戦世論の行方が注目になると思います。プーチン大統領は、誤った情報を拡散した者に罰則を科すとする法律の改正案に署名して反対の声を抑え込もうとしています。これでロシア国内の反戦の声かき消されてしまうのでしょうか?

東野さん: 

ロシア側からの情報が出てきにくくなっていることは、われわれが戦争の状況を知るためにも大きな痛手です。

それ以上にロシア人の中に広く浸透していて非常に愛用されているSNSのレベルに至るまでコントロールされてしまうと、ロシア人の反プーチン感情を非常に高めてしまう可能性もあるわけですね。 

短期的には、超短期的にはもしかしたら事態の収拾に成功するかもしれなくても、中期的にはプーチン政権をむしろ脅かす要因となっていくのではないでしょうか。

つまり情報コントロールされたという人々の不満がたまっていって、それが政権に対する打撃になりかねないと思われます。 

ーーありがとうございました。

※スタジオ出演は3月7日で、読みやすいように一部修正しています。