🆕SONY出井さんが残したもの "先見の明とダイバーシティでビジネス変えた"

ニュースウオッチ9 飯田香織
2022年6月8日 午後6:00 公開

ソニーを10年にわたってけん引した出井伸之さんが6月2日に亡くなりました。84歳でした。

インターネットの可能性に早くから着目し、時代を先取りした経営者が残したものとは何だったのか?

20年以上の付き合いがあるマネックスグループ社長の松本大さんにお聞きしました。

(聞き手は青井実キャスター)

6月7日に放送された動画はこちらで6月14日までご視聴いただけます。

マイクロソフトが「ウィンドウズ95」を発売し、世界中をにぎわせた1995年。ソニーの出井伸之さんが異例の14人抜きで社長に就任しました。この時、57歳でした。

当時、出井さんは「やっぱり常に何かと闘っていないとだめでしょ。ソニー全体が置かれている立場というのは、いつまでも安泰じゃない」と危機感を示していました。

「ウォークマン」や、「プレイステーション」など時代を象徴した革新的な商品を次々と世に送り出したソニーですが、出井さんは社長に就任後、インターネットの可能性に早くから着目。

それまで力を入れていたテレビやオーディオなどのものづくりから、ITをビジネスの中核にする戦略にかじを切りました。

またインターネット専業の銀行にも参入するなど、社長やCEO、会長として10年にわたって経営を担いました。

出井さんと20年以上の付き合いがあるマネックスグループ社長の松本大さんは、株式の取引をネットで行う証券会社について相談したのが関係の始まりだったと言います。

【先見の明がある方】

ーー松本さんと出井さんとはどういうご縁だったのでしょうか?

松本さん:

マネックス証券は1999年に創業したのですが、1998年の秋に構想段階の時点で「オンライン証券を始めよう」という話を初対面の出井さんに説明したところ、インターネット上で新しい金融を行うことについて、すぐにご理解してくれました。結局、翌年の春にソニーと私どもで半々出資して会社を作ることになりました。

1998年というとまだ「写メ」もない時代で、まだまだインターネットでいろんなビジネスが起きるとは普通の人は思っていなかった時ですね。そういう時に出井さんは「新しい技術でビジネスのあり方が変わっていく」「直接客につながっていける」といった新しいことに対する理解力、先見の明がとてもある方でした。

【ソニーのトップのころは忙しくて目が充血】

ーー出井さんはどういう方ですか?

松本さん:

23年くらいの付き合いですが、最初は怖くてしようがなかったです。ソニーの現役のトップの時には、いつ会っても忙しくて目が充血していて、時間を無駄にするような説明ができなくて怖かったです。そういう緊張感がありました。

そのあと23年間、ずっとお付き合いしてきて、どこかで出井さんが「松本さん、ぼくら友達だから」とおっしゃってくださいました。「仲よく」というとちょっと軽いかもしれませんが、そういう関係になれました。

【未知のものに意欲的】

ーー「これぞ出井さん!」というエピソードをご紹介いただけますか?

松本さん:

4年前にわれわれが「ブロックチェーン」、「仮想通貨」といったビジネスに入ろうという時、当時最先端のことで、多くのエスタブリッシュメントの方々は「くわずもの嫌い」というか避けていたし、理解できない時にも、出井さんはすごい早さで誰よりも詳しく把握されていて、かつ私たちの背中を押してくれました。

新しいことをやる時には、実は一番高齢のボードメンバーの出井さんが新しいもの、未知のものに一番意欲的で、一番自ら勉強されて詳しくて「やった方がいい」と言ってくれました。

ーー天才的な感性というよりは勉強家だったのでしょうか?

松本さん:

もともとアメリカや中国の上場企業の取締役もやられていたし、世界中のトップのテクノロジーの方とかエンターテインメントの方とか付き合いがあったから、世界の最先端のところにつながっていて、ご自身も興味があって、出張されて話を聞きにいったりされていたので、本当に詳しかったですよね。とんでもない先見の明や理解力があり、しかも経験があるから、いろんなことをご存じでした。

【改革のためにあえてリスクも】

ーー松本さんから見た経営者としての出井さんはどういう方でしょうか?

松本さん:

言い方が難しいですが、出井さんは必ずしもその時に周りにいる方たちに理解されたり、好かれたりしたのではないかもしれません。「未来から来たんじゃないか」といったビジョンがあって、そのためにはある事業をやめるとか、始めるとか、改革をされるわけですね。現場にいる方からすると「なんでこんなことするのか?」といったことがあったのだと思います。それでもリスクを取られました。あえてリスクを取って違うことをやられる方だったとお見受けしました。

経営者として自分に対して厳しい方だったとも思います。当社の取締役会でもごく最近、出井さんがほかのメンバーの発言に対して「今はそういうことを話している時じゃないんだよ」と強くおっしゃいました。それは議論の方向として正しいんですが、経営者として厳しい部分がありました。

【いいものはいい】

ーー経営者としての出井さんから学ぶべきところは?

松本さん:

出井さんは23年前、そもそも私と会ったこともないのに、“未知の松本”、“未知のインターネット金融”に対して、何の偏見もなく話を聞いて理解されて賛同してくれて応援してくれたんですよね。既知か未知ではなく、成功例があるかないかでもなく、その人が若いかどうかも関係なく、「いいものはいい」と言って、理解して応援してくれました。それが出井さんから受けた恩です。

私は恩を返すには出井さんに返すのではなく、出井さんがしてくださったことをしなければと思って、若いスタートアップの経営者を応援していますが、出井さんの影響がとても強いと思います。

【違う“におい”の人を集める力】

ーー出井さんの人材育成の特徴はどんな点でしょうか?

松本さん:

「ダイバーシティの受け入れ」を本当に地からいっている人で、年齢や人種、バックグラウンドとかまったく関係ないんですよね。出井さんのまわりには常に色々な方がいました。私自身もそうですが、自分で人を集めると似たような“におい”というか、似たような背景の人がどうしても多くなりますが、出井さんはそうじゃない。その許容力と、根っからのダイバーシティに対する価値観はまねできるものではありません。

ーーどうしてそれができたのでしょうか?

松本さん:

たぶんそれはその話を聞く相手が本当にダイバースなんだと思うんですよ、確立した有名な先生からしか話を聞かないとかそういうことではなくて、「聞いたこともないけどもすごい優秀なエンジニアらしい」といった若い人から話を聞いたり、そういうことが出井さんの先見性とかの構成要素になっていたんだと思います。

【アメリカのお家芸のエンタメで凌駕】

ーー出井伸之さんのレガシーは何だったのでしょうか?

松本さん:

世界の先をゆく日本の企業は、部品や素材の分野ではいくらでもありますが、日本のお家芸と言われている製造業や素材ではなく、本来アメリカがお家芸のようなエンターテインメントで「できるんだ」、「凌駕(りょうが)できるんだ」ということを実現されたわけですよね。もっと自信を持った方がいいんだと思うんですけど、それを出井さんは示してくれたのかなと思います。

【天性の好奇心で人に興味】

ーー自分を信じているからできたのでしょうか?

松本さん:

天性の好奇心が高い方で、仕事好きというか人が好きなんですよ。別に当社のビジネスの細かいところに興味があるわけではなく、私の考え方とか私の思考プロセスに興味があったのだと思います。常に若い人も含めて大勢の方に囲まれていて、話を聞いたり、人に対してすごい興味があって、人を育てることにとても興味や思いがあったでしょうね。

【悩みを聞いたことは一度もない】

ーー苦悩の出井さん、悩んでいる出井さんに会われたことはありますか?

松本さん:

それはなかったですね。そもそもとてもスタイリッシュでおしゃれなんですよ。かっこいい服を着て、かっこいい靴を履いて、いつもかっこよくしているんですよ。「かっこよくしていたい」というのがあって、ご自身の苦悩というか悩みというか聞かされたことは一回もないですね、一回もないですね。

【かっこよくておちゃめな出井さん】

-ー人材育成の熱意はどこからわき出ていたのでしょうか?

松本さん:

若い経営者を育てようと言うことに一番情熱がありました。別に出井さん流の考え方を押しつけようとか出井流のビジネスの考え方を教えますみたいなこと一切やらないんですよ。単にフォーラムというかコミュニティーを作って新しく頑張ろうという経営者のコミュニティーをつくって助けるということで、なんでそういうことに情熱があったか?そういう方だったとしかいいようがないですすね。

多分この国にもっと色々な新しいビジネス、シーズ、技術、ビジネスのアイデアで日本発で色々なものが生まれていって欲しいという気持ちがあったのではないでしょうか。知識というよりはどういう視点や視座を持つべきかとか、そういうことを教えてくれたと思います。

ご自身のためとかなくて日本のためであり、若い世代のためでありそういうベクトルですよね。ナチュラルにそれが好きだけどそれについて偉そうなところもなく、でもかっこつけていておちゃめで実は恥ずかしがり屋。そんな感じですね。

ーーありがとうございました。

※インタビューは6月7日に行われ、読みやすいように一部修正しています。