ロシアは、極東地域などで、大規模軍事演習を続けています。

演習の名前は「ボストーク」。ロシア語で「東」を意味しています。

プーチン大統領も現地入りしました。

ねらいは、どこにあるのでしょうか？

大規模軍事演習「ボストーク」

ロシアは極東地域などで４年に１度行われる大規模な軍事演習を実施。「ボストーク」と呼ばれる演習です。軍事演習には各国の軍人も参加しました。

室内にはプーチン大統領の姿が。双眼鏡で演習を視察していました。

日米をけん制か～演習場所に日本海も

９月１日から７日までの日程で行われ、対立するアメリカや日本などをけん制するねらいもあるとみられます。

今回の演習場所には日本海も含まれます。

防衛省は、３日午後、日本海でロシア海軍と中国海軍、合わせて６隻の艦艇が周辺の海域で、機関銃の射撃を実施したとしています。

さらに、ロシアが「第２次世界大戦終結の日」とする３日、北方領土の択捉島ではロシア軍の兵士などがパレードを行い、ロシア国防省は演習の映像を公開しました。

兵力規模は減少も参加国は増加

ロシアがウクライナへの軍事侵攻を続ける中で行われている今回の「ボストーク」。

演習に参加する兵力規模は、前回、４年前が３０万人だったのに対し、今回は５万人以上と、およそ６分の１に縮小。ウクライナへの軍事侵攻が影響しているものとみられます。

一方、演習に参加する国は増えました。

前回、ロシアと演習を行ったのは中国とモンゴルの２か国のみでしたが。今回の演習には、インドやシリアなど１４か国が参加。ロシアとしては、各国との連携を強調し、孤立していないとアピールするねらいもあるとみられます。

大規模な演習で、軍事力に余力があると内外に示したいとみられるロシア。ただ、欧米からは、ロシア軍の疲弊をうかがわせる情報も。

イギリス国防省は、４日、ウクライナに派遣されたロシア軍の部隊について、武器や食料の補給が滞っていることに加えて、「かなりの額にのぼる戦闘手当が支給されていない可能性が高い」として、兵士の士気や規律が低下していると分析。

アメリカの情報機関が開示した情報としてアメリカの有力紙が５日、報じたのは、ロシアが、砲弾やロケット砲を北朝鮮から購入しているというもの。制裁の効果により、軍事物資の供給に深刻な支障が出ているとしています。

アメリカ政府は、ロシアは、イランから無人機＝ドローンを空輸しているとも発表しています。

深刻な兵員不足の可能性も指摘されていて、アメリカ国防総省は、軍事侵攻が始まって以降のロシア軍の戦死者と負傷者の数が合わせて７万人から８万人にのぼるという見方を示しています。

８月２５日には、プーチン大統領が、ロシア軍の兵士の数を１３万７０００人増やし、兵士の総数をおよそ１１５万人にする大統領令に署名。ウクライナへの軍事侵攻が長期化する中、ロシア軍の兵力を増やす方針に転換しています。

大規模軍事演習「ボストーク」のねらい　読み解く

田中キャスター）

ここからは、防衛省防衛研究所の兵頭慎治さんに伺います。

こちらはウクライナの最新の戦況の地図ですが、南部を中心にウクライナが反転攻勢に出ていると言われています。

ロシア軍の補給路などに打撃を与えているとみられますが、現在の戦況をどう見ますか？

兵頭さん）

ロシア軍もですね、兵士不足、それから士気低下という構造的な問題から解放されてないんですね。こうした中、新しい兵器もかなり少なくなってきているということで、先ほどもありましたように、北朝鮮は古い旧ソ連製のですね、砲弾を所有してますので、どうも、ロシア側は軍事支援を求めたのではないかというふうにみられます。

それから南部での反転攻勢でありますが、アメリカから供与された、ハイマース高機動ロケット砲システムなどを使って効果的にロシアの補給拠点を破壊しています。 ですから、ウクライナの南部ではかなりロシアが押され気味のところがあります。

他方でですね、南部全体を奪還していくためにはですね、欧米諸国からさらなる兵器の供与、これが必要になるんではないかというふうに思います。

田中キャスター）

軍事大国と言われるロシアが、兵器が足りず、北朝鮮やイランから支援を受けている、そこまで困っているという見方もありますが、こうした中、開かれているのが、極東地域などで行われている大規模軍事演習「ボストーク」。

きょうはプーチン大統領が視察を行いましたが、どんなねらいがあるとみていますか？

兵頭さん）

はい、ボストーク演習はですね、やっぱり４年に１度行われている極東での大規模な軍事演習でありますが、本来であれば軍改革の進捗状況を確認するなど、軍事的な目的、これが主なんですけども、最近は外国軍をたくさん参加させながら少し政治目的で行ってるところがあると思うんですね。今回のボストーク演習では、明らかに日本・アメリカなどをけん制するねらいがあるんだろうと思います。

今回の参加国でありますけども、なかでもクアッドと呼ばれる日米豪印ですね。枠組みにも入っているインドは、部隊を派遣していまして、欧米、日本も含めた欧米諸国と、そして中ロの対立の構図はこれがさらに浮き彫りになりそうな感じがいたします。

狙いでありますけども、これだけたくさんの国が参加したということで、ロシアはウクライナ侵攻後も国際社会で孤立していないんだというそのメッセージを出すとともに、またウクライナに戦力を投入していますけれども、まだ極東にもロシア軍の余力があるんだというメッセージを合わせて国際社会に出しているんじゃないかというふうに思っています。

青井キャスター）

余力があるという話もありますが、今回の訓練は、前回に比べて兵力の規模がかなり縮小していて、演習地点も減少しているということですが、規模感はどうみますか？

兵頭さん）

極東の部隊も約６割ぐらいウクライナ戦争に投入されているとみられていますので、前回に比べると、このボストーク演習も兵士の数は６分の１に減っています。

そして開会式でロシア軍の行進の様子がありましたが、どちらかとみると、あまり訓練を受けてない新兵などが多くいる印象がありますので、余力があると言いながらもですね、かなり無理してやっている。そこを外国の部隊で穴埋めをしている、そういう印象を受けました。

山内キャスター）

演習地点は今回は減っているということですが、その中に北方領土が含まれています。この点のねらいはどうみていますか？

兵頭さん）

今回の演習場所なんですけれども、当初１３か所で予定していましたが、これが７か所に半減されました。しかしながら、国後島と択捉島が含まれているんですね。

実は４年前は日露関係が今よりも良好だったため、北方領土はこのボストーク演習から除外されていたんですけども、今回は９月３日、この日はロシアは対日戦勝記念日と位置づけておりますけれども、この９月３日に、日本海・北海道沖で、中国の海軍も交えた形で射撃訓練を行っています。

さらに日本は北方領土で（元島民らによる）ビザなし交流をやっているんですけど、ロシア政府は、これまでの日本との合意を一方的に破棄すると指示しました。これも９月３日ということになりますので、軍事的・政治的にも日本をけん制する、そういう動きがかなり強まっているというふうに受けとめられます。 

田中キャスター）

日本にとって気になる動きということですが、今回も中国軍が参加しています。

そして、中国海軍が初めて参加ということですが、中国とロシアの軍事的な協力関係の強化が一段と進んでいるように見えます。この先の協力の行方をどうみますか？

兵頭さん）

最近でも、中国とロシアの軍事的連携というのはどんどん深まっています、中ロの爆撃機が日本周辺に共同飛行訓練を行うとか、あるいは海軍の船が日本周辺を航行する動きが深まっています。

今回のボストーク演習では、中国海軍も初めて参加し、北海道で射撃訓練を行ったということで、今後さらに両国の軍事的な連携が強まっていくのではないかとみられます。

そのねらいでありますけれども、中国側からしますと、先般、アメリカのペロシ下院議長が台湾を訪問して、中国がですね、台湾周辺で大規模な軍事演習をやりました。 この観点からもですね、ロシアとの軍事演習を通じながら、アメリカをさらにけん制していきたいという中国側のねらいもあると思います。

さらに両国ともに、日米の安全保障上の関心を台湾などの南部と、そして北方領土を中心とした北に分散させたいという、こういう意図も、中ロ双方では共有してるんじゃないかと思います。

今後、日本の安全保障を考えるうえでも、中国とロシアの軍事的な連携がどこまで強まっていくのかどうか、このあたり注目していく必要があるんじゃないかというふうに思います。