東京ヴェルディ 城福浩監督 “ことば”の力でJ1に挑む

NHK
2024年2月24日 午後4:10 公開

2月23日に開幕するJリーグ。

今季注目チームの1つが、J1に昇格してきた東京ヴェルディです。

かつてJリーグの初代王者として黄金期を築き上げたチームが16年ぶりにJ1で戦います。

若手主体のチームを昇格に導き、今季も指揮をとるのが城福浩監督(62)です。

これまでリーグ戦で通算400試合以上の経験を持つベテラン監督。実は、プロの指導者になる前にサラリーマンも経験している異色の経歴の持ち主です。

そのサラリーマン時代に培った“ことば”の力でチームを成長させ、J1に挑もうとしています。

(おはよう日本 スポーツキャスター 西阪太志)

「絶対に聞き流させない」 “ことば”へのこだわり

2008年以来、16年ぶりにJ1に帰ってきた東京ヴェルディ。選手の平均年齢は24.1歳と、J1で最も若いチームです。

若いチームを率いてJ1に挑む城福浩監督。リーグ戦で通算400試合以上の経験を持つベテラン監督がカギと考えている“ことば”があります。

練習を取材していると、早速その“ことば”が使われていました。

城福監督

取られたときの“リカバリーパワー”」「“リカバリーパワー”ね!これも練習だよ!

この「リカバリーパワー」という言葉は、城福監督がヴェルディの監督就任時に独自に作り出したものです。ほかのチームでは使われていません。

練習の中では、ほかにも色々な城福監督の“ことば”が聞こえてきます。

西阪太志キャスター

―監督独自の“ことば”で指導をされることにはかなりこだわりがあるんですか?

城福浩監督

Jリーガーになるような選手はしっかり指導をされているので、聞き慣れていることばがたくさんあります。“このことばは何万回も聞いたな”という単語を使って果たして(選手たちの)耳に残るか(というと残らないので)だからこそ“絶対聞き流させないぞ”という思いがあります

16年ぶりのJ1を戦うカギ リカバリーパワーとは?

この「リカバリーパワー」という“ことば”の意味は、自分たちがボールを取られたあとに奪い返しにいく力のことです。

守備の意味合いが強そうに聞こえますが、城福監督の狙いは、攻撃で積極的なプレーを生み出すことにあります。

その狙いが早速紅白戦で、生かされていました。

黄色いゼッケンのチームがゴール前に出した縦パスを相手の守備に取られます。

すると、ボールを取られた黄色いゼッケンのチームがすぐに相手を囲みます。

ボールを奪い返すと、再度攻め込み、シュートにつなげました。

ミスをしても即座に奪い返す力を高めることで、攻撃で積極的なプレーを促すのがリカバリーパワーの神髄です。

城福監督

リカバリーパワーという“ことば”には『ボールをもっと前に運びたい』という思いがあります。ボールを前に運ぶと、どうなるか。相手の守備が強固なところなので、ボールを失うんですよ。だから、みんなでリカバーするんだよという意味があったんですよね。『お前たちの思うとおりにゴールを目指せ、ボールを失うことは恐れるな』と。リカバリーという単語だけだと、世の中によくあることばなので。奪い返すエネルギーを一番Jリーグの中で感じさせるチームになりたいということで、パッと思いついたのがリカバリーパワーだったということですね

リカバリーパワーは、昨シーズンのJ1昇格でも決定的な働きをします。

プレーオフ決勝の試合終了間際、ヴェルディは、ペナルティーキックで昇格を決める得点をあげました。

実はこのペナルティーキックは、リカバリーパワーによってつかんだものでした。

得点の直前、ボールを取られたヴェルディはリカバリーパワーを発揮。

3人で相手を囲んでボールを奪い返すと、すぐさま前にパスを送ります。

このプレーを起点にペナルティーキックを獲得し、J1への切符を手繰り寄せたのです。

城福監督

われわれらしい守備でボールを奪って、ペナルティーキックをとった。きれいな得点ではないんですけど、自分たちがやってきたことが、あの舞台で表現できたと思います

この昇格に至るまで、城福監督は他にもさまざまな“ことば”を使ってチームの変化を促してきました。

その一部がこちらです。

「靴一足分の寄せ」…“ボールにアプローチ”というようなよく使われる用語は使わず、靴一足分相手に近づく間合いを表現。昨季J2で最少失点(42試合で31)という堅い守りを作り上げた。

「バトンを渡す」…試合開始から全力を出し切り、交代選手につなぐこと。

「ボックスアウト」…相手をペナルティーエリアに入れさせないこと。そのために「前」でプレーすることを意識させる。

城福監督の“ことば”を選手たちはどう感じているか聞いてみました。

齋藤 功佑選手

リカバリーパワーは自分の中で印象に残っている(ことば)。攻撃もトライしやすくなる

平 智広選手

靴一足分の寄せということばは見ている人にはあまり伝わらないと思うが、その小さな部分の積み重ねでJ1に上がることができたと思う。チームで大事にしている部分

深澤 大輝選手

バトンを渡すということばは毎試合おっしゃっていますし、先発で出た選手はそう言われたら毎試合やらなくてはいけないと思う。全員で戦うことを強調していると感じる。そこを変えずにやっていければいい結果が出るのではないか

選手やチームの背景まで考えて伝える

選手をうならせる城福監督の“ことば”。生み出す秘訣を伺うと、あるきっかけを教えてくれました。

城福監督

私はサラリーマンの経験もさせてもらっています。サッカーとは全く違う世界じゃないですか。そういう社会人の経験をさせてもらったというのは、得難いものだったと思いますね

城福監督は、プロの指導者になる前に企業チームで選手・指導者として活動していましたが、一時はサッカーの世界を完全に離れ、サラリーマン生活もおよそ5年間経験。

地方への赴任なども経験した、Jリーグの監督としては異色のキャリアです。

城福監督

地方の工場にマネージャーとして赴任したときに、自分の席から職員の顔が30人、40人見えたときに、おのおの違う表情をしているじゃないですか。顔の表情を読み取りながら、自分を認めてもらったり、お互いを分かりあったりするために、どういう話をすればいいのかなとかいうところを日々探っていました。そういう時代の模索っていうのは、自分の中で少し生きているのかなと思いますね

選手やチームに対してどう話をすればいいか。サラリーマン時代の経験も生かして心がけているのは、その選手やチームの背景まで考えたうえで“ことば”を選ぶことだといいます。

去年からキャプテンをつとめる森田選手に監督の声かけについて聞いてみました。

森田晃樹主将

僕の性格をしっかり考えてアドバイスしてくれることが多いです。チームとしてミーティングで話しているときも、話し方はとてもうまいなと思います。言うところは厳しく言うけど、そのタイミングもしっかり考えておっしゃっているなと思います。選手への要求の仕方も、選手を意欲的にさせるような言い回しがうまいなと思いますね

城福監督

一人一人のバックボーンは違います。例えばものすごく厳しい高校の先生、大学の先生に教わってプロになった選手もいれば、ものすごく才能があって、大事に育てられてプロになった選手もいる。その選手の背景を感じ取りながら、おそらくこの選手はこういうことを言われていただろうけど、こういう角度では言われたことはないだろうなとか。もっというとヴェルディというチームのバックボーンも、ここ何年か苦しんだのはなぜなのかとか。そういうふうに考えながら伝えないと、伝わるものも伝わらないかなと考えています

独自の“ことば”でチーム力を高め16年ぶりのJ1に挑む今シーズン。

チームの最初の目標はJ1に残留すること。(20チーム中17位までが残留)

ただ、城福監督はそれで終わるつもりはありません。

城福監督

今まで以上のリカバリーパワーを出す。すべてを研ぎ澄ませて、われわれのスタイルを見せつけてしっかり(J1に)定着させることが大事。17位が目標ではなくて自分たちは驚きを見せるつもりでやっていますし、腰のひけたサッカーだけは絶対にしないと思っています