逆境をプラスに! 1年で急成長したパラ卓球・七野一輝選手

NHK
2023年9月29日 午後11:17 公開

パリパラリンピックまで1年となった2023年8月28日。おはよう日本ではパラアスリートなどを紹介する新コーナー「Paraful」(パラフル)をスタートさせました。

第1回で紹介したのはパラ卓球、車いすのクラスの七野一輝選手、24歳。わずか1年で世界ランキング3位に躍り出た期待の新星です。

特別な思いでパリ大会を目指しています。

(おはよう日本 ディレクター 舘ヶ澤 学)

勝ちたい気持ちが芽生えた中学時代

生まれつき両足に障害がある七野選手。卓球を始めたのは中学1年生のときです。練習を重ねれば重ねるほど上達した卓球に夢中になりました。

実は七野選手、もともとはつえで体を支えながらプレーをする立位のクラスの選手でした。

初めて大会に出場したのは中学2年生の時。当時は健常者の大会に出場すると、他校の生徒から自分の障害を冷やかされるのではないかと思っていましたが、顧問の先生に「1回だけでも出場してみよう」と背中を押され出場。結果は惨敗でしたが、うれしいことがありました。他校の先生などから「すごいね!」と温かい声をかけてもらい、競技の楽しさを体感できたのです。

(画像提供:七野一輝選手 初めて大会に出場したとき)

それと同時に“勝ちたい気持ち”も芽生えたという七野選手は、さらなる成長を目指してクラブチームに所属。健常者の仲間たちと一緒に切磋琢磨しながら練習に励み、実力を付けていきました。

出場できずに悔しかった東京パラリンピック

2021年、七野選手は、東京パラリンピックへの出場をめざし国際大会に出場。決勝まで勝ち進み、勝てば代表が決まる試合で、惜しくも敗れ東京大会への出場はかないませんでした。

七野一輝選手「悔しさとやりきった気持ちが半分半分。次は絶対にパリ大会に出てリベンジしてやろうと思いました」                        

パリパラリンピックに向けて下した大きな決断

しかし、パリ大会に向けて練習に励んでいた矢先の2022年4月、大きな苦難に見舞われました。練習中に転倒し、股関節を負傷。けがの痛みが癒えてから練習を再開しましたが、転倒する回数が以前よりも増えてしまったのです。立位では試合に出られないと考えた七野選手は、大好きな卓球を続けるために車いすのクラスへ転向する決断を下しました。           

七野選手「アスリートとしてリスクを抱えながらプレーをするのは体の状態的にもよくないですし、立位のクラスのまま続けて大事な試合の前にケガをしてしまうことも想定できていたので、リスクを回避して車いすのクラスに切り替えることを決断しました」

クラス変更で1からのスタート

しかし、車いすのクラスへの転向は、新たな試練の始まりでした。慣れない競技用の車いすに加え、立位のときよりも目線が低くなり、ボールとの距離感をつかむことに苦労しました。

七野選手「転向してすぐはパリパラリンピックの舞台を目指せる自信はなかったです。また1から積み上げていかないといけないと思いました

七野選手の1からのスタートに寄り添ってくれたのは、コーチの山岸護さん。中学時代からの卓球仲間でもあり、七野選手が高校3年生のときから指導を受けてきた気心の知れた間柄です。

長年、そばでプレーを見てきた山岸コーチは、七野選手の体のバランス感覚を高く評価していて、車いすのクラスに転向しても、すぐに適応できると確信していました。

山岸護コーチ「けがをしたことは心配でした。ただ、競技をする上では彼のポテンシャルがあればパリ大会を目指すことは難しいとは思わなかったです。これまで車いすの選手を指導した経験はなかったので、車いすにはどういった体の使い方が適しているかいちから学び直しました。2人でならこの試練を乗り越えることができると信じて!」

車いすを操作する練習に加え、得意の利き手側で打つ「フォアハンド」を磨く基礎練習を繰り返した七野選手。徐々に車いすのクラスで戦える手応えを感じるようになります。さらに、立位のときに鍛えたフィジカルも役に立ったのです。杖を使って競技していたことでついたこの筋肉!力強いフォアや、車いすの操作で生かされ、クラスの変更も前向きにとらえることができ、技術も向上していきました。

2023年3月、七野選手は、車いすに転向してわずか10か月で初めて国際大会に臨みました。この時点ではまだ世界ランキングがない七野選手。結果に応じてランキングが与えられる大事な大会です。

順当に勝ち上がり決勝に進出。相手は東京パラリンピックの銅メダリストでした。

これまで積み上げてきた練習の成果を発揮。得意のフォアでポイントを重ねて見事に優勝!この結果に基づき、一気に世界ランキング3位に躍り出たのです。

七野選手「“車いすより立位のほうが強かったよね”と思われるのは絶対にいやでした。自分を超えられるようにと思いプレーをしました。自分たちがやってきたことは間違いではなかったと確信できてうれしかったです」

周りからの応援も力に!

職場のサポートも七野選手の大きな力となっています。七野選手は3年前にオフィス家具メーカーに就職。『仕事』と『卓球』の両立を図っています。

担当する部署は「サステナビリティ推進部 D&I推進室」。障害のある従業員や、介護や育児との両立をめざす従業員が安心して働ける環境づくりを進めています。

七野選手「企業に遠征費の支援や勤務日程の調整など、さまざまな面でサポートしてもらっているので、しっかり結果を残さないといけないと思っています。社内に応援してくださる人たちがたくさんいるので競技をする上で大きな力になります」

上司の望月浩代さんは、七野選手の存在は職場にいい影響をもたらしていると感じています。

望月浩代さん「練習と仕事の両立が大変な中、限られた時間内で仕事の成果を出そうとするアスリート魂は尊敬します。みんなで七野くんを応援することで会社が一丸になっています。パリパラリンピックの代表を目指し、アジアパラ大会では最高のメダルを獲得できると信じています」

アジアパラ大会へ!

優勝すればパリパラリンピックの代表が決まるアジア大会は2023年10月に開幕。

七野選手は、東京大会で果たせなかった夢の大舞台を目指して臨みます。

七野選手「パラリンピックはそう簡単に出場できる甘いものではないと痛感したので、アジアパラ大会で優勝して出場権を獲得したいです。そしてパリ大会では同じ障害がある人たちに卓球ができること、勝てることをアピールできる存在になります!」