1年でJ2優勝!“高校サッカーの名将”黒田剛監督の巧みなマネジメント術に迫る

NHK
2023年10月31日 午後3:12 公開

今シーズン、悲願のJ2優勝、そしてJ1への昇格を決めた町田ゼルビア。

その立て役者は、監督就任1年目の黒田剛監督53歳です。

去年まで高校サッカーの強豪・青森山田高校で28年に渡り監督を務め、7度の日本一を果たした“高校サッカーの名将”として知られています。

初めてのプロサッカーの舞台で、昨シーズン15位だったチームをどのようにJ2優勝まで導いたのか。卓越した“黒田流チームマネジメント術”に迫ります。

(おはよう日本 ディレクター 島津 和)

チーム作りで“悲劇”を想定させる!?

就任会見で、いきなり「J2優勝」を掲げた黒田監督。

しかしチームは昨シーズン42試合で50失点と、守備の立て直しが大きな課題でした。

黒田監督

正直、言い方は悪いかもしれないけれども、高校生でもしないような失点が多々あった。基本に忠実でなかったり、または守備のいろはの“い”であったり、そういった原理原則がかなり散漫になっていた

そのために取り組んだのが、選手たちに“悲劇”を想定させることです。

例えば、勝った試合の後に「5m戻ってこなかったために失点をしたら、みんなの頑張りがむだになるぞ」「次負けたら、2位のチームに1試合差までつめられるぞ」と、選手たちに起こってほしくない“悲劇”を想定させる声かけを意図的に行ってきました。

そうした意識づけを徹底することで、守備の基本戦術をチームに浸透しやすくしようとしていたのです。

黒田監督

感動を得るために奮起するよりは、負けたときの“悲劇”を感じながら試合をするほうがパワーは出ると思っているんです。自分の限界値を超えたときっていうのは、もう感動とか、または喜びはいらないから、早く解放されたいっていうふうに思う人間の心理があって。人はやっぱり失うことに対してすごくストレスを感じるので、そこをうまく利用しながら、彼らには落とし込みをしているし、自分の中で意図してやっています

そしてこの“悲劇”を選手たちに意識させるために黒田監督が大切にしているのが「言葉の伝え方」でした。どんな言葉を、どのように伝えるのか、日々意識してきたという黒田監督。電車の中でみつけた広告のキャッチフレーズや、本の一節など、良い言葉を目にするとスマートフォンにメモをして、コミュニケーションに生かしてきました。

黒田監督

私の仕事は、彼らをその気にさせること、彼らの心に火をつけること。しゃべって伝えたその瞬間から、彼らに実践されること。要するに“なるほど”と思って、自分たちの判断が変わって行動に出なければ監督の存在意義はないんです。それができなかったときは多くの反省を持ち、やっぱり自分の言語に力がなかった、またはいい言葉をチョイスすることができなかったというふうに、自分自身をとがめていくことしかないだろうし、日々、そんな格闘かな

「高校サッカーで勝ったくらいで何ができるんだ」

町田ゼルビアから熱烈なオファーを受け、今年就任した黒田監督。

大阪体育大学を卒業後にホテル勤務などを経て、1994年に青森山田高校のコーチとなり、翌年から監督に就任。当時はまったくの無名チームだったところから、全国屈指の強豪に育て上げました。

(青森山田高校時代の黒田監督)

7度の日本一、2021年には高校サッカーでタイトルを総なめに。育成にも手腕を発揮し、50人以上ものJリーガーを送り出してきました。

華々しいキャリアがありながら、なぜ52歳(当時)で新たな挑戦に踏み切ったのでしょうか。

黒田監督

退職まで13年っていう年月を残し、毎年全国の常連校として、ある程度自分の地位とか立場っていうのが確立された中で、2021年に全国3冠をしてすべてを取ったときに、ちょっと自分の中で空白ができて、心の中に。いろいろ考えたときに、また新たなチャレンジをしていくほうが自分らしいだろうなというような結論に至ったわけです

しかし就任当初に届いたのは、「高校とプロではレベルが違う」「Jリーグを甘くみている」といった批判的な声でした。

黒田監督

ずっとプロサッカーをみてきた人たちにとってみれば、“高校サッカーでちょっと勝ったぐらいで何ができるんだ”なんて思うのが当たり前であって。でも、そういうプレッシャーとか、屈辱的な発言も受けて奮起していくのが自分の生き方でもあったし。過去に“青森の田舎の雪国のチームが全国優勝なんか無理だ”って言われているところから、22年かけて全国優勝したわけなんで、絶対やれないということもないし、逆に言うと、そういったマイナスの声をプラスに変えていくっていうのも自分のモチベーションになった

人の“上に立たない”マネジメント

とはいえ、接することになるのは高校生ではなく、さまざまなキャリアを歩んできたプロの選手たち。28年の経験では通用しない部分にも直面しました。

黒田監督

高校生っていうのは純粋だし、素直だし、迷いなくやってくれるっていう、スポンジのような柔軟性があるのに対して、プロはやっぱりある程度のキャリアがあって、自分の経験があって、プライドがあって。自分の生活を抱え、これを職業とし、奥さんがいたり、子どもがいたり、そうやって守るべき人たちがいる。そういう人たちの気持ち、または取り組みっていうものと、高校生とはやっぱり違う

その違いを受け止め、選手へのアプローチの方法を変えていきました。

(練習をみつめる黒田監督)

黒田監督

どっちかっていうと“上から引き上げる”という高校生に対して、“下から見守る”のがプロっていう、指導者としての立ち位置が大きく変わるんではないかなというような感じはします。選手にしっかりとリスペクトをする、そういう気持ちでサッカーっていう仕事を彼らが志向しているんだということを、きちっと尊敬の念を持ちながら、彼らと対話していく

選手たちを“下から見守る”ように心がけた一方で、コーチをはじめとするスタッフ陣との関係性においては、フラットな立ち位置を心がけた黒田監督。練習では、コーチ陣に指導を任せ、黒田監督は決して多くを語らず、選手一人ひとりを見つめていました。

また練習後は、決まってコーチたちと横に並び、会話をしながらランニング。

そこには、黒田監督流の“チーム作りのモットー”がありました。

黒田監督

勝つこと、勝ち切ること、またはクラブとして、それからチーム組織としてっていうことを考えたときには、やっぱりワンチームをつくっていく、みんながこのチームを支えようっていうようなベクトルをみんながそこに向けていくことによって、強固な組織ができてくると思うんですよ。だから、一人一役じゃないんですけど、みんなが自分の仕事に対して100%気持ちを注ぎ、100%の仕事ができる、そこに何よりの時間をかけ本当に命をかけてやっていく。だからこそ負けたときには悔しさも人一倍あり、勝ったときはみんなで肩を組んで喜べるという、やっぱりそういう一体感というものを生み出していかなければだめだと思う

(練習後、コーチと走りながらコミュニケーションをとる黒田監督)

黒田監督の理想のリーダー像は?

周囲の冷ややかな声をはねのけて快進撃を続けた町田ゼルビア。第40節を終えた時点で、昨シーズンは50だった失点が34に。第10節以降、一度も首位を譲ることなく2位と勝ち点差11をつけ、就任時に目標としたJ2優勝を決めました。

改めて「監督」の役割とは何なのか。黒田監督のリーダー論をたずねると…

黒田監督

監督が頭でっかちになったり、または自分の策におぼれて、何か人の話に耳を傾けないで自分が率先的に何かをやっていくという組織は、全くつくろうと思ってなくて。監督というのはリーダーではあるけども、その取りまとめであったりとか、またはそういうみんなのモチベーションというものを、本当に引き出していったり、そういうことをするための仕事だと思ってるので。自分がこのサッカーチームを変えるとか、自分で何から何まで監督ができるとも思ってないし、いまだにコーチから学ぶこともいっぱいあるので、そういった柔軟性を持ちながら、やっぱり戦っていくことはすごく大切なことだと思います

(取材後記)

黒田監督へのインタビューでは、すぐに言語化能力の高さに圧倒されました。

どんな質問に対しても、言葉を選びながらも的確で具体的、そして納得感のある答えが返ってくる。ふだんだったら「それってどういうこと?」と追加で聞きたくなるところが、ほとんどない。

選手への指導でも、的確な声がけをしていることが容易に想像できました。

その一方でプロの監督として、妥協を許さない勝負にかける思いも、言葉の一つ一つから垣間見えました。

そんな黒田監督率いる町田ゼルビアが次なるステージ、J1でどのような戦いをするのか楽しみです。