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景気回復のアメリカ 人手不足の“意外な背景”
NHK
2021年6月3日 午後12:45 公開

アメリカではワクチンの普及などで経済の勢いが増し、業種によって人手不足になっています。その“意外な背景”とは?

客足は回復したけれど・・・人手不足でフル営業できず

サウスカロライナ州にある肉料理のレストラン。4月の売り上げは1年前よりおよそ50%増え、活気が戻ってきました。

しかし、この店は通常、週7日とも営業していますが、従業員が足りず、5月は月曜と火曜を休むことにしました。店の前には「NOW HIRING(従業員募集中)」と書かれた看板が掲げられています。オーナーのジェフ・キャッツさんは「これほどの人手不足は経験したことがない。とても困難な事態だ」と話し、コロナ禍の打撃から立ち直ろうという矢先に思わぬ壁に直面しています。

人手不足で物価も上昇

またジョージア州にある運送会社は十分なドライバーを確保できず、注文の4割を断らざるをえない状況です。人手確保に向けて従業員の給与を20%以上引き上げたほか、そのコストをまかなうため、運送料も2020年より2割程度値上げしました。深刻な人手不足が、物価の上昇にもつながっています。

この会社は、人手不足がこのまま続けば事業が成り立たなくなると懸念しています。オーナーのクリス・ニューさんは「ストレスがたまる。このまま放置すれば、壊滅的な打撃になる」と語りました。

失業保険の特別給付が「職場復帰の妨げ」に?

なぜ、深刻な人手不足が広がっているのか。全米商工会議所が原因の一つに挙げるのが、新型コロナ対策として導入されている、失業保険の特別給付です。

バイデン政権は21年3月に実施した200兆円規模の経済対策の中で、特別給付を9月まで半年間延長しました。通常の失業保険に加え、週3万円余りが一律で上乗せされるため、受給者の4人に1人が、働くよりも多くの手当を受け取っていると分析されています。

こうした分析を踏まえ、野党・共和党の知事が率いる24の州政府が、特別給付を前倒しで打ち切ると発表。連邦政府の方針にあらがう動きが出ています。特別給付を打ち切るアーカンソー州のハッチンソン知事は「景気が悪い時には重要な役割を果たしていたが、多くの仕事がある今では、人々の職場復帰の妨げになっている」と述べました。

一方、バイデン大統領は「感染拡大前と比べて、アメリカは依然800万人の雇用を失っている」と述べています。

失業者を守る手厚い政策が、せっかくの景気回復の勢いをそぐことにならないか。アメリカでの人手不足は、コロナ禍から経済の正常化を図る難しさの一面を示しています。

日本でもコロナ後に人手不足のおそれ 神子田キャスターが解説

労働力の需要に対し供給が足りないことを「供給制約」といいます。日本でも将来、この問題に直面するおそれがあります。

その背景はアメリカよりも深刻です。新型コロナの影響で日本では、飲食・宿泊といった対面型サービス産業で業績が悪化し、人を雇えなくなる企業が増えてきています。すると、従業員は別の業種に流出します。

問題は、将来新型コロナが収束して飲食・宿泊の客足が回復した時、ほかの業種に流れた人材が従業員として戻ってくるかどうかです。日本はコロナ前から人手不足と言われていたこともあり、十分な働き手が確保できないおそれがあります。アメリカとは背景が違いますが、業績回復のチャンスを逃し、日本経済全体でも景気回復の勢いがそがれるおそれも出てきます。

日本の場合は、苦境に陥っている飲食などの業種に対する支援策を、いま一度考える必要があるのではないでしょうか。

(ワシントン支局 記者 吉武洋輔)

【2021年6月3日放送】

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