EVシフトのジレンマ

NHK
2022年1月13日 午後2:11 公開

脱炭素の流れで加速する世界的なEV(電気自動車)シフト。ただ、生産過程によっては二酸化炭素(CO2)の排出量が増えてしまうかもしれないというジレンマも・・・。国を挙げてEVの生産拠点化を目指すインドネシアが直面しているのは?

生産拠点化を目指すインドネシア

EVのバスが走り、充電設備が設置されるようになったインドネシアの首都・ジャカルタ。インドネシア政府は、拡大が見込まれるEVの関連産業を集めて経済成長につなげる戦略を打ち出しています。

インドネシア側の誘致を受け、韓国のヒョンデ自動車は2022年からEVの現地生産を始めると表明しました。

ヒョンデ自動車インドネシアのマクムールCOOは「今や電動化の時代は始まっている。インドネシア政府は非常に協力的だ」と話します。

なぜ、インドネシアでEVなのか。そこには国内で豊富にとれる希少金属・ニッケルの存在があります。ニッケルは、バッテリーに欠かせないプラスの電極をつくる「正極材」の原材料で、インドネシアは世界最大の埋蔵量を誇っているのです。

生産過程で大量の電力が必要に

しかし、この国家プロジェクトには“落とし穴”があると指摘されています。エネルギー政策を監視するNGOのマミット・スティアワンさんは「政府はEVの宣伝に忙しく、その電気がどこから来るかは話さない。結局(環境の問題は)何も変わらずそのままだ」と話します。

ニッケルの加工には大量の電力が必要となります。産地のスラウェシ島にある加工会社は今後、バッテリー事業への参入を検討していますが、生産量は年々増えていて、電力会社に追加供給を要請しているといいます。

加工会社のアミル・ジャオCEOは「(必要な電力量は)大きい。今後5~6年で合計1000メガワットは使用する予定。さらに(加工所を)4か所追加する見通しだ」としています。

発電の6割は石炭火力

その電力をどう賄うか。インドネシアでは発電の6割を石炭火力が占めています。もしEVに関わる電力を石炭火力から供給すれば、CO2の排出が増えてしまうことになるのです。

EVの生産拠点化はエネルギー戦略とセットで進める必要があると専門家は指摘します。

シンクタンクでEVを専門に研究するイドアン・マルシアノさんは「EVはできるだけ早く導入する必要があるが、電源構成も同じように追従しなければならない。再生エネルギーの導入を加速させるということだ」と指摘しました。

インドネシア政府は再生可能エネルギーの割合を高めていく方針ですが、猛スピードで進むEVシフトにエネルギーの脱炭素化がどこまで追いついてくるか。難しい課題が突きつけられています。

さらにEVを充電する際の電気をどうつくるかなど、EVシフトに伴って必要となる電力をどう賄うかは、インドネシアに限らず世界共通の課題です。走行中はもとより生産から廃棄に至るまで、CO2の排出量をトータルでみていく。そうした議論を今後深めていく必要がありそうです。

(ジャカルタ支局長 伊藤麗)

【2022年1月13日放送】

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