3月7日はサウナの日!”ととのう”って何?ダイエットや健康効果は…

NHK
2023年3月6日 午後1:06 公開

「朝の番組で起きるの大変じゃないですか?」

この1年、何度も同じ質問をされてきた。

結論は「大変じゃない。なぜならサウナがあるから」

僕はサウナを溺愛している。

NO SAUNA NO LIFEだ。

「初心者がどうやってサウナ沼にはまっていったの?」

「よく聞く”ととのう”ってどんな状態なの?」

「サウナでやせることはあるの?」

全国100近くのサウナに入った“アナサウナー”伊藤海彦が、熱く語り尽くしたいと思う。

サウナだけに。

(おはよう日本キャスター 伊藤海彦)

苦手だったサウナ… ”聖地”との出会いが人生を変えた

5年前まで、僕はサウナが嫌いだった。

「なんでこんな熱いところにわざわざ入るの?汗をかきたいなら運動の方が健康的だよ?」

サウナは“昭和のおじさんの楽しみ”で、若者が楽しむものではないとさえ思っていた。

大学生の頃、旅行先でホテル併設のサウナに入ってみたが、3分もたたないうちにサウナ室を飛び出していた。

汗だくのおじさんたちを見ながら「意味が分からない・・・」と心の中でつぶやいて以来、サウナ室の扉を開くことはなかった。

それから10年以上経過した2018年3月24日。忘れもしない、サウナに目覚めた日である。

僕は車の助手席に大学時代の友人を乗せ、静岡に住む友人に会いに東名高速道路を走っていた。

その道中、友人が突然誘ってきた。

「結構早く静岡に着きそうだからさ、海彦サウナ行かない?」

「なんで?サウナ好きじゃない」

「最近サウナにハマっていてさ、静岡にはサウナの”聖地”と呼ばれているところがあるのよ。とにかくととのうらしいんだよね」

「ととのう?よくわからないけど、サウナは行かないよ」

<私をサウナ沼に引きずり込んだ友人(写真中央)>

提案を断ろうと必死な僕に、友人は熱く語り続けた。

「そもそも海彦、サウナの”正しい入り方”知らないでしょ?正しく入ることができれば、これまで感じたことのない幸福感得られるから!だまされたと思って一回付き合って」

最後はその熱量におされる形で、「今回だけは付き合うよ」と僕が折れた。

友人が“聖地”というサウナは、静岡市の中心部から車で15分ほどのところにあった。

かつて静岡局に2年間勤務していた経験はあるが、サウナの聖地なんて聞いたことがなかった。

「おおおお!ここがサウナの聖地かぁ!!!」と友人は妙にテンションが高い。

僕との温度差は、サウナと水風呂くらいあった。

彼のノリにまったくついていけないまま身体を洗い、薬草たっぷりの風呂に浸かり、水分補給をしてからいざサウナへ。

<イラスト:森下絵理香アナウンサー>

左側にフィンランドサウナ、右側に薬草サウナと2つのサウナがある。

まずはフィンランドサウナへ。

扉を開けた瞬間、これまで感じたことのない熱波が襲ってきた。

「え?熱すぎない?聖地熱すぎない?」

焦りからか声が上擦る。

温度計を見ると110度。人間が耐えられる温度とは到底思えない。

「110度は強烈だね。これこそ聖地だよ!いやー感動するわ」

友人は、少年がカブトムシを見つけた時のようなキラキラした表情をしている。

一番熱い最上段に2人で座ると、滝のように出るとはまさにこのことではないかというほど、汗が全身から噴き出る。

友人は「温度と湿度のバランスが最高だわ!」とまたしても理解不能なことを言っている。

「熱い。熱い。本当に熱い。早く出たい」

それでも友人からサウナの”正しい入り方”を聞いていた僕は、この日は耐えた。

その入り方とは、「サウナ10分、水風呂2分、休憩10分」という時間配分だ。

(※個人差があるのであくまでも目安)

1分、2分…放送だとあっという間の時間が、とにかく長く感じる。

そしてついに10分が経過。夏の高校野球千葉大会4回戦で9回を投げ切ったときくらいの汗が出ていたのではないか。

110度から15度へのフォークボール 人生初の"ととのい体験"

次の関門は、人生初の水風呂だ。

身体はサウナで熱せられ、いますぐ冷ましたいと思っているはずなのに、いざ水風呂を前にすると足がすくむ。

見えているのは、15度を示している温度計。

「110度から15度って…。この落差はスワローズのかつての中継ぎエース五十嵐亮太投手のフォークボールをほうふつとさせるよ…」

ためらってはいたが、110度のサウナに耐えたからには入るしかないと、まずは水風呂の水を桶に入れて、汗を流す。

そしてゆっくり右足から水風呂に入る。

「くううううううううううう」

腹の底から、うなるような声が出る。

「出たい…出たい…出たい…」

「海彦!しばらく入ったまま動かないで!”羽衣”に包まれるから!」

「羽衣?天女なの?」

<羽衣って…(海彦キャスターの脳内イメージ)>

しばらくすると、不思議なことに水の冷たさを感じなくなった。

「なんだこれは。これが羽衣?確かに何かに包まれているかのようだ」

熱い身体と冷たい水の間に薄い膜ができたようで、熱さを感じなくなる。

これこそが羽衣なのだと友人は言う。

本当に不思議だ。あれだけ嫌だった水風呂にずっと入っていられる。

そして喉のあたりがスースーし、頭がボーっとしてきた。

「なんだこの感覚は…」

2分が経過し、おぼつかない足どりで”ととのい椅子”と呼ばれる椅子に移動。

目をつむって座る。

その瞬間…頭の中がぐわんぐわん回りはじめ、まるで世界全体が回っているようだ。

肌がピリピリとし始めたが、不思議なことに寒さは全く感じない。

しばらくすると、頭の中がクリアになり、何とも言えない幸せな感情が生まれてきた。

日ごろの疲れで頭を覆っていた霧が、一気に晴れたような感覚だ。

<初めての”ととのい”に放心状態>

しばらくその感覚を楽しんでいた私に、友人が「ととのった?」と聞いてきた。

返事もできないくらいの放心状態だった。

「すごい気持ちがよくて、幸せな気持ちになっているんだけど。今ならどんな悪口を言われても許せるような気がするよ」

「すごいでしょ?サウナってこうやって入るんだよ。ばっちりととのったわぁ」

友人は、まるで付き合いたてのカップルのような幸せな顔をしていた。

"ととのう"とは「リラックスしながら意識が晴れた特殊状態」

友人がたびたび言っていた“ととのう”とは何なのか。

サウナを医学的視点で研究をしている、日本サウナ学会代表理事の加藤容崇医師に話を聞いてみた。

加藤医師は毎日サウナに入る、いわば日本一ととのっている医師だ。

加藤容崇医師

「例えるならジェットコースターを降りた後の気持ち良さですかね。緊張から一気に緩和された状態。サウナ→水風呂の流れにより、これまで体験したことのないような過酷な状況に適応しようと『交感神経』が活発になり、アドレナリンを出します。水風呂を出てととのい椅子で休憩をすると、危険な状態を脱したと身体が判断して『副交感神経』が優位になります。いわゆるリラックス状態ですね。ただ血中にはアドレナリンが残っているので、アドレナリンが残りながらもリラックスしている状態なんです。リラックスはしているけれど眠いわけではなくむしろ意識は晴れているんですよね。それがいわゆる”ととのう”という特殊な状態ですね」

―ととのった時に訪れる、あの幸せな感覚は何なんですか?

「それは快楽物質が脳内に出ているからですね。サウナ→水風呂のようないわゆる極限状態に身を置くことで、自分の身を守ろうとドーパミンやエンドルフィンなどの快楽物質が脳内に出るんです。それが幸せな感覚にしてくれるんですよ」

僕が感じていたあの幸せな感覚には根拠があったのだ。

サウナにはどのくらいの時間入ればいいのかも聞いてみた。

「もちろん日常的にサウナに入っているかいないかなど人によって違いはありますが、『軽い運動をしている時の心拍数』まで達したら出るのがベストです。サウナにもよりますが大体7分くらい。水風呂は30秒くらいが良いですね。ただ高齢の方やサウナに入り慣れていない人は、温度が低いサウナの下段に座り、短い時間にするなど、無理をしないことが大切です」

―ではサウナにダイエットやデトックス効果、お酒を抜く効果はあるのでしょうか?

「すべてありませんね。まずデトックスについてですが、排出されるのは汗で、汗のほとんどは水分なんです。そもそも汗は体温調整をするものであり、解毒するものではない。それと同じ理屈でお酒が抜けることもないです。むしろ汗として水分が出てしまうので、脱水症状になる危険性があるのでやめたほうがいいです」

「ダイエット効果については汗が出ることで一時的に体重が減ることはありますが、直接的にやせる効果はありません。ただ継続してサウナに通えば代謝は上がるので、やせやすい身体になる可能性はあります。といってもサウナに行くと食欲も増しますし、サウナ後のビールは最高なので結局、摂取カロリーが増えますけどね(笑)」

確かにととのった状態になると意識が鮮明になるからか、ふだんはあまり気にしない音やにおいなどを感じることができ、サウナ後のご飯は特別おいしくも感じるものだ。

<各地でサウナ後に食べた『サウナ飯』>

「効果が期待できるものとしては『美肌効果』。サウナに入ると毛細血管が増えるので、血液中の酸素が増えきれいな肌に見えるようになります。

もう一つは『疲労回復効果』。血流が増えることで、疲れの原因となる乳酸の値が10倍くらい早く下がるんです。なので疲労回復だけでなく、筋肉痛にもなりにくくなります」

そしておはよう日本を担当するようになり、最も気になっていることを聞いてみた。

―サウナに入った日は、眠りも深くて目覚めもいいのですが、なぜなんですか?

「それは体の中心部の深部体温と体の表面の温度の差が関係しています。例えば、よく眠っている赤ちゃんの体の表面はすごく温かい。表面の温度が高くて深部体温が低い、眠るのに最適な状態です。実はサウナに入ると深部体温がものすごく高くなり、そのあとの水風呂で体の表面の温度がものすごく低くなります。それは赤ちゃんと逆なので眠れない状態なんです。ただこの状態を体が調整しようとする結果、逆に深部体温が大幅に下がり、体の表面の温度が一気に高くなるんですよ。そうするとものすごく眠くなるんですね。深い眠りにつくことができるので、目覚めもいいわけです。ちなみに眠る2時間前にサウナに入るとベストです」

あなたの"ととのい"は何ですか?

5年前の衝撃的なサウナ体験以降、僕の生活は一変した。

スポーツジムはサウナ付きのところを選ぶようになったり、友人とサウナを何か所も巡る旅行「サ旅」をするようになったりと、まさにサウナ中心の生活が始まったのだ。

南は熊本、北は北海道まで、入ったサウナはすでに全国各地100近くに上る。

思えば”ととのう”というのは素敵な言葉だ。

これまで身体をととのえるためにスポーツジムに通い、大好きなヤクルトスワローズの応援をすることでメンタル面もととのえてきた(ただし負けた時は不安定)。

日々の生放送に対応するためには身だしなみをととのえ、適切なコメントを発するための準備もととのえている。

おいしいラーメンを食べたり、大好きなアイドルの推し活だったり、人はみなそれぞれの方法で心身を落ち着かせ、ととのえているのではないだろうか。

僕はサウナに出会ったことで、心身ともにととのい、仲間もでき、人生が豊かになったと感じている。

まさにNO SAUNA NO LIFE。

さあきょうもサウナに行こう。