山縣亮太さんの筋肉に学ぶ!おはSPO筋肉体操~堀菜保子のきょうもねホリはホリ~

NHK
2022年9月5日 午後5:17 公開

堀菜保子です。

今月の筋肉体操に登場いただくのは「日本最速の筋肉」、陸上の山縣亮太選手です。

去年6月に、100mのレースで9秒95の日本新記録をマーク。

一躍“時の人”になりましたよね。

山縣選手といえば、これまで「走る哲学者」というイメージがありました。

専属のコーチをつけずに自分で動画を見て分析し、自分で最適な走り方を追求していく。

そんな姿が長年印象的でしたが、去年のおはスポで伝えたように、陸上女子100mハードルの寺田明日香選手も指導する高野大樹さんを専属コーチに迎え、客観的な視点も取り入れながらさらに自身を高めてきました。

そしてたどりついたのがあの日本新記録でした。

そんな山縣選手の、自身の体や走りの分析や「筋肉哲学」。谷本先生との対談でも存分に披露していましたよ。必見です!

今月も筋肉体操、一緒に頑張りましょう!

【NEW!】第4回三角筋を鍛えて美しいシルエットを

谷本道哉さん

地面に力を与えるのはもちろん足なんですけど、強く蹴り出して速やかに振り戻す時に上体がまっすぐでぶれないでいられるのは「腕の振り」なんですよね。腕の振りで足の回転と反対方向の運動量を作ることで、体がずっとまっすぐ向いていられるし、なんなら腕の振りを強くすればするほどその反作用が強くなるので、キックも強くなるんですよね。山縣選手の腕の振りはもうサイボーグのようで全く乱れない。レースでみんなが走ってる中で一人「ロボコップ」が混じっている。

山縣選手

ロボコップ(笑)。ありがとうございます。

谷本さん

腕の振りにこだわりはありますか?

山縣選手

そうですね。やっぱりわきをしっかり落として締めて腕を振る、肩が上がらないというのと、走っていると左右のブレがどうしても出てきてしまうので、それを反対の力をかけて押さえて。できるだけロスをなくして、もう100分の1秒を削り出すような意識で日頃走ってるんで、結構こだわりはあります。

谷本さん

スタートからゴールまで腕の振りが一緒の選手ってあんまりないと思うんですよ。その辺はご自覚されています?

山縣選手

どうですかね、最後まで走りきる、ちゃんと自分の走りをできるだけ崩さずにロスなく走りきるということは常に意識をしているので、できる時できないときはどうしてもあるんですけど、やっぱりレースを通して最初から最後まで安定して走りきることは常に意識はしています。

谷本さん

僕らが見て感じるのは、脇を締めるためなのかちょっと手が上に向いている感じに見えるんですよね。「汽車ぽっぽ」よりも少し上向け気味ぐらいに見えるんですけど。

山縣選手

そうですね。いろんな人にアドバイスを日頃からもらいながら、しっかり肩を落とせるポジションっていうところで手を少し上に向けるような感じ。「小指から振る」みたいな。親指に意識がいくことが多いんですけど、小指を少し意識して走るといい腕振りができるよとアドバイス頂いたこともあったので、そういうのは意識してます。

谷本さん

腕を振るにはもちろん筋肉をいっぱい使うんですよね。大胸筋、広背筋も使うし、二頭、三頭も使いますけど、腕を振るのに使う筋肉で山縣さんを見て目立つなと思うのは、このザクの肩みたいな…。

山縣選手

ザクの肩。ガンダムですか。

谷本さん

ガンダム。ザクの肩みたいな三角筋ですよね。ものすごくかっこいい三角筋なので、観戦するときはその辺りも見ていただければと思います。

三角筋は日常そんな使うところ、大事なところというわけでもないんですけれど、かっこいいですからね。なので、山縣さんのように三角筋で逆三角形の体を作ってみましょう。

第3回 ひ腹筋ウォークで歩く速さキープ

谷本道哉さん

スプリンターの方は地面を蹴るときに「足首を固めてパンッと弾く」よう、アキレス腱の跳ねで走られるんですけれど、一般の方はスプリンターがかかとつかずにつま先で弾くっていうのをほとんど知らないんですよ。

山縣亮太選手

そうなんですか。でもやっぱり走っていたらやっぱり自然にかかとが浮いてくるというか…。

谷本さん

それは天性の感覚ですよ。大リーグの大谷選手もめっちゃ速いけれど、かかとからきれいについて走っています。やっぱりスプリントの練習をしてる人は勝手にできる人も確かにいて、うちの娘4歳なんですけど、かかと使わずに弾いて走るんです。

山縣選手

もうじゃあスプリンターですね。

谷本さん

スプリンターかもしれない。でも基本はやっぱり、かかとからつくもんだっていう頭もあって、足首のバネでアキレス腱でパンッと弾くっていう感覚っていうのを皆さんご存じない。しっかり踏んで長い時間地面にエネルギーを与えてという感覚なんですよね。足関節のバネ使えるようになると、走るっていうより飛ぶ感覚になるじゃないですか。

山縣選手

そうですね。あんまり自覚したことがないのでうまく言えるか分からないですけど、確かに走っていても100mでスタート直後はわりと接地時間が長いんですよね。その時は地面を押している感覚がやっぱり多少は出るんですけど、中間疾走でスピードに乗ってから60mぐらいで大体トップスピード来るんですけど、その時ぐらいからもう本当に何かこのまま飛んでいくんじゃないかみたいな、飛行機でいうと、この離陸する瞬間。そういう感覚はやっぱりありますね。

谷本さん

何か浮いている感じじゃないですか。

山縣選手

浮いている感じです。地面を歩いてるのとは全く違いますね。スーッとそのままゴールまで進んでいくような感覚ですね。

谷本さん

一般の方がそれをすると多分アキレス腱が切れたりとかしてしまいますけれども、スプリンターの方がかかとをつかずに走るというのをちょっとまねをして、歩く時かかとをつかずに歩いてみるというようなことをすると、足首のスナップ力が強くなりますので、ちょっとそういうところ真似されて歩くのを早くというのを目指してもいいと思います。

第2回大殿筋を鍛えて「かっこいいお尻」を

谷本道哉さん

山縣選手がスプリントする上で「特にここは」というこだわりの筋肉ってありますか。

山縣亮太選手

自分は大きいお尻、殿筋がすごくこだわりがあります。スプリンターが走るというと、もちろん足で走るようなイメージを持たれることが多いんですけど、僕としては足ではなくお尻で走る。そういうイメージで日頃から走ってます。

谷本さん

根本から振っていくという感じですかね。

山縣選手

そうですね。やっぱり大きい筋肉でより大きい力を出せる場所だし、ここでどれだけの力を地面に加えられるかによって本当にタイムが大きく変わるので、すごくこだわりがあります。

谷本さん

スプリント、特に中間以降トップスピードからは股関節の伸展ですよね。足をぐんと強く速く振っていくというのがあるんで、お尻はものすごく大事だと思いますね。

お尻の大殿筋ですか。

山縣選手

そうですね。大きい力を生み出す大殿筋と、あとは関節の安定性を守ってくれる中殿筋と両方大事かなと思っています。

谷本さん

中殿筋って前からも見えるんですよ。お尻の横の部分がこう「もりっ」と出ている感じって、あれ中殿筋なんですよね。ランナーで一番中殿筋がはっきり出ているのは、グリコのポーズの人です。お尻全体もすごく大きいんで、あれは完全なスプリンター。

山縣選手

あれ誰かモデルなんですか。

谷本さん

僕、ずっとあのグリコはお尻周りが105センチもあるって言っていた伊東浩司さんだと思っていたんですけど、やっぱり山縣選手の体見て、今グリコは山縣さんだと(笑)。

(注:正式には「特定のモデルはなく、時代に合わせて変わってきている」とのことです)

山縣選手

僕そういうことにしてもらっていいですか。

谷本さん

実写版になったら山縣さんにぜひやってていただきたいなと思います。

お尻の筋肉ってスプリントにものすごく大事なんですけど、日常生活の中で一番力がかかる動きって椅子から立つ動きなんですよね。立つ時は前傾してから立つので、実は「もも前でひざを伸ばす力」と「お尻で体を起こす股関節伸展」だと、お尻の方が強いぐらいなんですよ。なので、山縣さんのお尻を目指して皆さんもしっかり鍛えていただけると力強く立てる、体を支えられる、そういった強い体を作ることができます。

第1回 山縣選手おすすめ!「ランジ」で鍛える腸腰筋

谷本道哉さん

僕が山縣さんの走りを見て思うのはオリジナリティーが高いというか、ほかの人がやらないことをする。1つがスタートで下を向かない、多分世界中のスプリンター見ても、スタートで前向いてるのって…

山縣亮太選手

あんまりいないですね。

谷本さん

山縣さんぐらいだと思うんですよね。一般的なセオリーはできるだけスタートダッシュは体を起こさずに、大腿四頭筋なんかを使って押し出すように走っていく我慢して下を向くというのを恐らくずっと教えられてこられたと思うんですよね。下を向いてスタートしろよと。8歩までとか10歩まで顔は動くなよっていうのがセオリーの中で、山縣さんは前見てるんですよね。

山縣選手

自分の中でやっぱりいろいろ試していく中で、感覚のいいものを常に積み上げていこうと日頃意識しているので、スタートという局面においてちょっと目線を前に送ることのほうが、自分は結構猫背とかになりやすく背筋が丸まることがとても多かったので、あえてその目線を前に送ることで少し背筋を伸ばして。

谷本さん

そうすると骨盤が前傾する。股関節伸展が強くできますよね。

山縣選手

そうなんですよ。というのが今自分には合っていたっていうのもありますかね。目線とか気持ち自体をゴールの方に向けてあげると少し背筋が伸びていく感じがあったので、それ以来ずっとそういうのを意識してやっています。

谷本さん

そういうのをずっと探求していくのってやっぱり楽しいですか。

山縣選手

楽しいですね。技術的なことでいえば100個ぐらい思いついてもたぶん生きるのって1個2個みたいなトライアンドエラーを繰り返してるんですけど、その中ですごくはまるもの、自分にとっていいものが1個見つかるとすごく楽しいですね。走りもどんどん自分だけの走りになっていくし、やっいてて楽しいなと思います。

谷本さん

前に進むには推進力がいるんで、もちろん足を蹴っていくわけですけど、その蹴りを十分に速く「振り戻していく」っていうのもすごく大事ですよね。蹴った脚を前に振り戻すのに使うのが、下腹部の奥にある「腸腰筋」です。振り戻しはやっぱり意識されます?

山縣選手

そうですね。やっぱり僕らその切り返しの速さっていうのは、ピッチ、回転の速さにつながっていくところがあるのでかなり意識しています。

谷本さん

降り戻しで圧倒的にカッコイイのはカール・ルイス。戻しの上がり方がすごいですよね。

山縣選手

もう世界の屈指の名ランナー。

谷本さん

多分みなさんは蹴る方ばかり鍛えてると思ってる人が多いと思うんですけど、戻す方がものすごく大事っていうので、山縣さんはどんなトレーニングされていますか?

山縣選手

自分は腸腰筋を鍛えるのはやっぱりダンベルとかを持って「ランジ」をやってますね。

谷本さん

前脚のトレーニングだと思いがちなんですけど、結構大事なのは後ろの戻しなんですよね。踏み込んで力を入れて振り戻す。引く方の足を意識する。

山縣選手

腸腰筋にはランジです。