「一度はつらくてサッカーに向き合えない時期もあった」
サッカー日本代表、ドイツ戦勝利の立役者の1人・ゴールキーパーの権田修一選手の言葉です。
実は権田選手、私が5年前の新人時代から取材をしている選手です。
当時は一度目の海外挑戦から帰国し、日本代表からも離れざるをえなかった時期でした。
「努力は実を結ぶ」
権田選手ほど、この言葉が似合う人はいないと感じています。
(おはよう日本 堀菜保子キャスター)
10代から頭角を現すも、つらくて「サッカーに向き合えない時期も」
現在、33歳の権田選手(清水エスパルス)。
10代のころから年代別の代表に選ばれるなど早くから頭角を現し、2012年のロンドンオリンピックでは、4試合連続無失点などを記録し、日本のベスト4に貢献しました。
しかし、その後の道のりは順調なものではありませんでした。
実は8年前のワールドカップで日本代表に選ばれましたが、出場機会はゼロ。
その後、代表でのしれつなポジション争いの中、過剰なまでの練習をした結果、極度の疲労からくる心身の不調「オーバートレーニング症候群」を発症します。
当時の心境を、取材の中でこう語ってくれたことがあります。
「食事もサッカーのため、睡眠もサッカーのため、プライベートもサッカーのため。すべてサッカーのためってなっていた、そのサッカーっていうものに向き合えなくなった時間だったので、あのときは本当につらかったっていう言葉でいいのかっていうぐらい、どうしようもなかった」
およそ半年間サッカーから離れて療養したのち、復帰します。
しかし日本代表からは遠ざかり、その後ヨーロッパでのプレーにも挑戦をしたものの、思うような結果を残せずにいました。
「目の前にある自分のやるべきことをやるだけです」
その後、帰国し、慣れ親しんだFC東京ではなく、新天地・サガン鳥栖に加入します。
私がNHKに入局し取材をし始めたのは、ちょうどこの頃です。
当時、チームはJ2降格の可能性が見えてくるなど、危機的な状況になったときもありましたが、
常に権田選手がチームを鼓舞。好セーブとリーダーシップでチームを救っていました。
そんな権田選手、いつ練習の取材に行っても印象的だった姿があります。
それは、チームの誰よりも早く練習に来て入念に準備を行い、練習後も黙々と自主練習。帰るのもいつも一番最後でした。
そんな練習後、取材に答えてくれたときの言葉が今でも心に深く残っています。
「周りの状況がどうであれ、今、目の前にある自分のやるべきことをやるだけです」
そうした気持ちから毎日努力を淡々と積み重ねている姿に、心から尊敬の念を覚えました。
この言葉、今も私の人生訓としています。
自分と向き合い続けたことで、権田選手は30歳手前で日本代表へ返り咲きます。
その後、もう一度海外挑戦を決意。ポルトガルに渡りますが、そこでも多くの出場機会は得られず、2020年12月に清水エスパルスに加入。約2年ぶりにJリーグに復帰しました。
清水エスパルスに所属したあとも、毎朝誰よりも早く練習に行って準備を行い、練習後は1人黙々と、キャッチング、キックのフィード…自主練習を重ねてきました。
私も東京から取材に行くと、かつてと変わらずに自分と向き合い続ける姿を目の当たりにしました。
そして33歳の今、こうして日本代表としてW杯のピッチに立ち、世界最高のGKの1人、ノイアー選手と対峙。
26本という日本の倍以上のシュートを打ったドイツを1点に抑え、試合のMVPに輝いたのです。
「努力は実を結ぶ」という言葉がこの人ほど似合う人はいない。
ドイツを破った昨日の試合を見て、心を震わせながらそう感じました。
この1次リーグを突破して、日本がどれだけ盛り上がるのか楽しみ
ドイツ、スペインといった強豪チームと同じグループと決まった直後(ことし5月)に話を聞いたときにも、権田選手らしい言葉が返ってきました。
―W杯本番までおよそ半年となりましたが、心境はどうですか?
「気付いたら1週間前になってるんだろうなっていう感じです。やっぱり、僕自身ずっと今までもやって来たのが、先のことを見て何かってよりも、いま目の前のことを見ること」
―やっぱり、目の前の1つに集中するっていうのは、変わらずに自身で一番大切にされてることなんですね。
「そうですね。そこはやっぱり、変わらないですね。何か目の前、じゃあ2つ先にすごい大事だって言われてるような試合があったとしても、その1つ先の試合でけがしないように中途半端でやることをしたら、2つ先の大事だといわれる試合で、逆にいいパフォーマンスできないですよね。常に、ふだんの練習もそうですけど、100%出す習慣をつけとかないと、本当に大事なときに100%出せなくなってしまう。だからそこは、年を重ねて長くやっていても、逆に裏付けされていくというか。そんな感覚はあります」
―1次リーグはドイツやスペインと一緒になりましたけど、そこについては?
「すごいグループ。でも、いいグループに入ったなって思いました。」
―いいグループ?
「この1次リーグを突破したときに、日本サッカーがどうなるんだろうなって思ったらすごい楽しみで。たぶん今ほぼ世界中の人たちが、あ、このグループはドイツとスペインがたぶん上がってくるねって、みんな思ってるんですよね。やっぱそれを、僕らはこう変えるチャンスがまずあるわけで。それを僕らが起こして、当たり前のように『俺ら突破したよ』ってなった時の、じゃあ日本がどれだけ盛り上がってるのかっていうのは楽しみですし、それを見た子どもたちとかが『わあ、サッカーおもしろい』、サッカーやったことない子が『わあ、サッカーっていいな』とか、街で公園で見た時に『ねえ、きのうの試合見た?』っていう会話がどんどん出ているとか。やっぱ、そういうのが起こせる可能性があるっていうのは、すごい楽しみだなと思いました」
―GKとしては求められる役割が大きいと思われる。その舞台に立つことについては?
「当然責任はありますけれども、やっぱりやりがいがある仕事の方が、自分の中で挑戦する意義だったりとか、楽しみが大きくなると思う」
―例えば初戦、ドイツのノイアー選手が向こう側にいる。そのピッチに立つご自身、想像するとどうですか。
「今はあんまり想像できないですけど。でもどうですかね。その場になったら『絶対負けねえ』って思ってると思います。どんな相手であっても、どんな状況であっても、その試合で、じゃあ相手の上に自分たちが絶対立つんだって気持ちでそこにいないと、ほんとにいけないので」
半年前にはこう話してくれた権田選手。
このW杯のあとには、どんな言葉を聞かせてくれるでしょうか。