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“あなたを1人にしない” コロナ禍の生きる支援

NHK
2021年6月27日 午前10:00 公開

去年(2020年)、全国の自殺者は2万1081人(2021年3月時点の確定値)。
11年ぶりに前年を上回りました。特に深刻なのが若い世代です。小中学生と高校生は合わせて499人。これまでの国の調査において過去最多となりました。

前の年と比べると、10代以下は116%、20代は119%と他の年代に比べて大きく増加しています。
こうした中、長年自殺率が高く、対策に取り組んできた秋田県で若い世代の命を守るための新たな取り組みが始まっています。

LINE相談 必要な支援につなぐ“伴走者”

秋田市のNPO「蜘蛛の糸」が去年8月、新たに「LINE」による相談を始めました。対象は、秋田県内に住む30代以下の若い世代です。対面や電話で話すことに抵抗を感じる人も多いため、SNSを使うことで相談しやすくするねらいです。

“自粛生活で、気持ちが落ち込む” “派遣社員のため、今後が不安” “自殺から頭が離れません”

仕事や人間関係などに悩み、追い詰められた人たちからの切実な声が次々と届きます。

相談時間は毎日午後4時から9時まで。対応するスタッフは、臨床心理士や社会福祉士など、専門の研修を受けた20人です。寄せられた相談には、遅くともその日のうちに返信するようにしています。

NPOは相手の気持ちを受け止めたうえで、借金など相談内容に応じて行政や医療機関、弁護士などさまざまな専門機関につなぎ、解決の糸口をともに探っていきます。

ある女性から寄せられた相談です。

“コロナの影響で生活苦になり、頼れる人もいないので、どうしたらいいかわかりません”

スタッフが同居する家族はいるかなど、女性の置かれた状況を尋ねたところ、「生活費はほとんどありません。同居はいません」との返信が。そこでNPOは、必要な支援が受けられるよう、自治体の窓口を紹介。併せて、本人の同意を得て自治体の担当者に女性の状況を伝えました。その後、女性は生活保護を受給することになったのです。女性からは「ありがたくて、涙が出た」とメッセージがありました。

NPO法人『蜘蛛の糸』相談員 鎌田悠香子さん 「疲れてるときって調べられないじゃないですか。調べてもいっぱい情報出てきて取捨選択できない状態だと思うので、いったんわれわれが間に入って『こういう人がいます。今から行きます』と伝えておくと、向こうとしても対応しやすいのかなと」

きめこまかな連携を可能にしたのが、長年にわたる活動の蓄積です。
このNPOはもともと、経営者の自殺を防ぐ相談活動を20年近く続け、秋田県の自殺対策の牽引役となってきました。

県内およそ60の民間団体、自治体、医療機関や研究機関も連携した活動は「秋田モデル」と呼ばれ、自殺対策の先進例として全国で注目されています。

NPO法人『蜘蛛の糸』理事長 佐藤久男さん 「全県にわたって組織ができているんですね。自分1人でやらない。どういうふうにして連携させて県民の命を守るかってことが、このコロナの時期に問われてくる」

学生×高齢者マッチング 住民同士の支え合い

NPOと連携して、自殺対策を進めてきた地元の秋田大学も、学生の命を守ろうと、新たな取り組みを始めています。きっかけは、去年5・6月に全学生を対象に行った調査です。

コロナ禍による自粛の影響を調べるため、精神状態を尋ねたところ、およそ1割、300人近い学生にうつの症状がみられたのです。授業がオンラインになり、人に会う機会が極端に減少。アルバイトや、帰省して家族と過ごすことも難しくなった学生たちの苦境が、浮き彫りになりました。
そこで、秋田大学は孤立しやすい学生を高齢者に引き合わせ、定期的にビデオ通話をすることで支え合ってもらうことにしました。

秋田大学大学院 医学系研究科 准教授 佐々木久長さん 「本当に死にたくなったときに、相談しましょうと言われてもなかなかできませんね。ですからふだん相談していると、本当に死にたくなったときも相談できる。そういうつながりをつくっていきたいなと思います」

参加した学生の1人、片山さんは秋田県外出身で、一人暮らしをしながら保健師を目指して学んでいます。

参加学生 片山さん 「授業がオンラインになって、友達と会うのがもう週一の1時間だけとか、本当にしゃべる機会がないという感じです」

パートナーは、94歳の女性。コロナ禍で、成長を楽しみにしているひ孫たちには会えていません。2人は週に3回、30分間のビデオ通話をすることになりました。

去年のクリスマスイブの夜。

片山さん「こんばんは」 鈴木さん「こんばんは、またいろいろ(端末の使い方で)迷っちゃった、ごめんなさい」 片山さん「いや大丈夫ですよ。クリスマスっぽい何かごちそうとか食べました?」 鈴木さん「ケーキじゃなくてイチゴ大福を食べました。クリスマスイブだからあなたは誰かと会食の約束あるのかなって思ったりして」 片山さん「ないですね、残念ながら」 鈴木さん「あらあら。別にクリスマスイブだからって、何かしなくちゃならいことはないから。大丈夫」 片山さん「すごい慰められている」

この日もお互いの元気な姿を確認できました。

鈴木昭子さん 「若い人とも、多少なりともお話できるっていうのは、私もよかったなと思ってます」

参加学生 片山さん 「話せてうれしいって直接言われることって、なかなかないじゃないですか。すごいうれしいな、その言葉って思いましたし、ちょっと心が休まる感じです」

この取り組みには、これまでに10組の学生と高齢者が参加。秋田大学によると、学生たちには誰かの役に立っているという充実感と、何気ない会話ができる安心感が生まれているということです。

高校生が支え手 「ゲートキーパー」に!

自殺を防ぐために身近な人と支え合うスキルを、10代のうちから育もうとする取り組みも始まっています。
北秋田市の秋田北鷹(ほくよう)高校では、地域の課題を考える選択式の授業の1つで、「自殺対策」をテーマにしています。生徒たちは週に1度、2年間かけて秋田県の自殺の現状を学び、どうすれば身近な人同士で支え合うことができるのか考えます。
地域の保健センターを訪れ、自殺対策に取り組む保健師から、相手の悩みを聞き出すコツを教わったところ…

保健師「学校生活とか、ふだんの生活でもいいけど(あなたの)ストレスって何?」 生徒「休みがない」 保健師「おお、そういうことを聞き出せるようにしないとね」

さらに、秋田県が実施する、「ゲートキーパー養成講座」も受講しました。「ゲートキーパー」とは、悩みを持つ人に気づき、声をかけ、必要な支援につなぐ支え手のこと。そのスキルを学びました。

自殺対策の授業を選択した生徒 「つながった人を大切にして、もしその人が悩んでいたりしたら自分が相談に乗ってあげたいなとも思います」

コロナ禍 お互いに“生きる支援”できる環境をつくる機会に

国や全国の自治体、民間団体などと連携して、自殺対策に取り組む専門家は次のように指摘しています。

NPO法人ライフリンク 代表 清水康之さん 「コロナの影響で、多くの人が不安の中で生活せざるを得ない。さまざまな悩みや課題を多くの人が抱えている。こういう状況だからこそ、お互いに支え合う。お互いに生きる支援をできるような環境をつくっていく。その機会にしなければならないと考えます」

秋田で行われている、自殺対策の取り組みについて清水さんは、「コロナ禍を逆手に取りITツールで新しいつながりをつくるなど画期的。『さまざまな機関が連携して支援につなげる』『身近な人同士で支え合う』といった方法はほかの地域でも参考になる」と話しています。

そして、いま苦しい思いをしている皆さんに、清水さんからメッセージがあります。

NPO法人ライフリンク 代表 清水康之さん 「窓口に相談の電話をかけてもなかなかつながらない、あるいは誰かに相談をする気持ちになれないという方へ。自分の気持ちを言葉に書き出してみるだけでも、悩みが少し整理されて気が楽になることもある。つらい気持ちを1人で抱えず、自分のやりやすい方法で外に出してほしい」

(秋田放送局 ディレクター 田中かな)
【2021年2月28日放送】

ご紹介した秋田県のほか、全国の相談窓口や新型ウイルス対策のさまざまな支援制度についての情報をNHKのホームページにまとめています。

コロナ禍の生きる支援・相談窓口