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変革迫られる“地銀” 業務提携の舞台裏

NHK
2021年6月15日 午後2:34 公開

地域経済の低迷で厳しい経営環境が続いてきた地方銀行が、コロナ禍でいま、さらなる苦境に立たされています。野村証券のまとめによると、株式を上場している地方銀行の昨年度の最終損益は、全国78ある銀行のうち、「赤字」と「減益」をあわせると36。全体の46%に上りました。
そうした中、生き残りをかけて、静岡銀行と山梨中央銀行が業務提携に踏み切りました。
いま、地銀がどのように変わろうとしているのか、提携の舞台裏を取材しました。

新型コロナで本来業務が立ちゆかない 危機感増す“地銀”

去年10月に業務提携した静岡銀行と山梨中央銀行。両行が手を組んだ背景には、全国の地銀が直面する共通の課題があります。それは、「お金を貸して地域を支える」という地銀本来の業務が、立ちゆかなくなりつつあるということです。

取材を行った日、山梨中央銀行の行員は宝石や貴金属を扱う仲卸会社を訪ねました。この会社は、加工業など、宝石関連の取引先を県内に30件ほど抱え、地域を支える産業を担ってきました。しかし、新型コロナの影響で、売上げは例年の半分にまで激減し、融資が必要な状況が続いていました。

しかしいま、銀行が融資を通じて得られる金利の収入は減り続けています。地方の人口減少や、長引く低金利。さらに、新型コロナによる経済の低迷も加わり、融資した金が将来的に返ってこない「貸し倒れ」のリスクも高まっています。

山梨中央銀行 融資担当者 「金融機関として、債務者として(顧客の)将来性というのも見ながら対応もしますし、会社さんの財務内容で、これ以上借り入れをすることはどうなのかなというふうに思うケースもあります。なかなか難しい」

求められる改革 体力強化の「証券ビジネス」

そうした中で決まった今回の提携。両行が力を入れたのは新たな収益モデルの構築でした。
柱の1つに据えたのが、株などの金融商品を提案、顧客が購入すれば手数料を得られる「証券ビジネス」です。地方の経済に左右されない稼ぎ口を増やすことで、本来業務の安定にもつなげたいと考えました。

静岡銀行 柴田久 頭取 「従来の預金をお預かりして貸出金を作って利ざやで儲ける、伝統的な手数料で収益を上げるといったビジネスモデルそのものが、やはり成り立たない。そういう時代になってきている」

静岡銀行はグループに「静銀ティーエム証券」という証券会社を持っていて、提携では、この証券会社の新しい店舗を山梨中央銀行の中に開設します。静岡側は、新たな顧客を山梨県内で獲得することができるのです。一方、山梨側も、これまでにない証券ビジネスのノウハウを静岡側から手に入れることで、収益の強化を狙えます。

 新たな収益モデル構築へ 立ちはだかる課題

しかし店舗の開設を前に行われた会議では、いくつかの課題も見えてきました。証券会社の新たな店舗では、静岡と山梨の社員がともに働くことになります。そこで得た利益をどう配分するか、両者は互いの立場を主張しました。

静銀ティーエム証券 望月豊 部長 「収益がお互いに何対何が妥当なんだというのももう少し、お互いに議論する必要があるんじゃないかなって。ちょっと気を悪くしないで聞いてください。万が一これが我々うまくいかなかったという時には、山梨中央さんは人を引き上げることで、まあ清算できるんですけど、我が社は一応、(県外に)出店するっていうのは会社としてもリスクをとってるんですよね」

山梨中央銀行 齋藤亮 部長 「金銭的なお話ですよね。もし仮に計画通り進まなかったらご撤退をすると、そのダメージが大きいという風におっしゃっている」

静銀ティーエム証券 望月豊 部長 「まあまあ、撤退は考えてないですけどね」

山梨中央銀行 齋藤亮 部長 「あ、気を悪くしないで聞いてください」

さらに“顧客の信頼”に関わる課題も浮かび上がりました。新たな店舗では、山梨中央銀行が地元の顧客を、静岡に紹介することになります。万が一、その客が株の取引などで損失を受けると、“自分たちの信頼が損なわれる”リスクがあるというのです。

山梨中央銀行 齋藤亮 部長 「当然にもう(紹介する)お客様は我々のお客様ですので、そのお客様に意図しない、そのお客様に合わないような商品をお売りするとかそういうことも…」

静銀ティーエム証券 望月豊 部長 「ご心配のところ良く分かるんですけど。当然ご相談というかですね、そういうこともしていくシーンがいっぱいあると思うんですよね。こっちで勝手に突っ走って『やっちゃったの?』ということのないように」

新たな利益をあげながら、いかに顧客の信頼を維持できるか。話し合いは、20回以上重ねられました。

静銀ティーエム証券 望月豊 部長 「(両行の考えは)まったくイコールではないですけど、微妙な違いはあるかもしれないですけど、目指す方向だったり考えていることは一緒なので、より良いアライアンス(提携)になるように頑張りたいと思います」

問われる地域への向き合い方

そして4月、証言会社の新たな店舗が開設。静岡と山梨の社員がペアを組んで、新規の顧客獲得を始めています。課題を克服しながら、地域再生の足がかりにできるか。新たな事業が、その試金石となります。

静岡銀行 柴田久 頭取 「コロナ禍でそれぞれの金融機関、地域金融機関がやらなきゃいけないことは結構明確になってきたと思うんですね。いっぱい抱えている課題を1つずつ(地域に)寄り添いながら一緒になって解決していく。われわれは絶対に逃げないのでしっかりと支えていきたい」

取材を通して、何とか経営を成り立たせようとする両行の必死さが伝わってきました。その背景には、地域にとっての地方銀行の存在の大きさがあります。日本の企業の半数以上が地銀を主な取り引き銀行にしていて、その数は、メガバンクの倍以上です。地銀がいかに生き残るか。そのことは、地域経済や雇用を支えていく上で重要な課題と感じました。

(静岡放送局 記者 小尾洋貴)
(静岡放送局 ディレクター 品田拓真)

【2021年6月7日放送】