大切な財産どうしますか? 増える「遺贈寄付」とは

NHK
2023年1月19日 午後2:18 公開

「自分が生きた証しを遺贈寄付で残したい」。

遺産をどうするか? いま選択する人が増えているのが「遺贈寄付」です。

子どもなど家族に相続するのではなく、自分の死後にNPOなどの団体に寄付するというもの。

独身で相続人がいない人だけでなく、子どもがいる人の中にも遺贈寄付を選ぶ人がいます。

遺贈寄付とはどんなもので、なぜいま注目されているのでしょうか?

(おはよう日本ディレクター 植村優香)

“遺産は社会のために” 「遺贈寄付」という選択

関東地方に住む77歳の女性はいま「遺贈寄付」を考え、その寄付先を探しています。

女性は独身で子どもがいないこともあり、自分が亡くなった後に残る財産を、どこかの団体に寄付できないかと考えました。

女性

「ひとりなので、自分が亡くなったときにどうしたらいいのかなと考え始めて、財産の残った分をどなたかに活用していただきたいなと思いました」

実際にどこにどうやって寄付をしたらよいのか分からなかった女性は、1年前、遺贈寄付についての相談事業を行っている会社に連絡を取り、相談を始めました。

その会社は、本業であるクラウドファンディングを通して主にNPOや公益団体の資金調達を行っていて、そのネットワークを生かして遺贈寄付ができる団体を紹介しています。

これまでの担当者との面談を通して、女性は海外の子どもたちへの支援をしている団体への寄付を決めました。

かつて商社で働いていて仕事で海外と関わることが多く、アフリカの人たちから難民や貧しい子どもたちの話を聞いて気にかけていたのです。

<商社に勤めていた頃の女性>

さらに女性は、新型コロナで日本の若者や子どもたちがさまざまな影響を受けていることにも関心があると相談しました。

女性

「コロナ禍で就職も大変になって、子どもの食料に困る家庭があるとニュースで見まして、そういうお子さんたちの支援ができたらいいなと思うんですけど」

担当者

「ご家庭の経済格差を解消したいと頑張っていらっしゃる団体さんがあります」

会社の担当者は、女性の希望を聞きながら国内の子どもや若者のために活動している団体をいくつか紹介しました。

女性は、海外に向けて支援活動をする3つの団体と、国内の1つの団体に分配する形で遺贈寄付をしたいと考えています。

女性

「社会のために活動する団体に寄付することで、お金が有効に使われるんじゃないかと思います。亡くなってしまったあとなんですけども、少しでも役に立てられるっていうのが、生きていた証しかなと思うんです」

増える遺贈寄付 “おひとりさま”増加やコロナ禍の影響も

国税庁がNHKに開示したデータによると、遺贈寄付の金額は令和2年の1年間で396億円に上り、件数も増加しています。

女性の相談にのった会社には、事業を始めて1年半で、500件以上の問い合わせがありました。

遺贈寄付は大きな決断を伴うこともあり、相談を始めてから決定までに時間がかかるケースが多いですが、すでにおよそ30人が、実際に寄付先を決めました。

遺贈寄付が注目される背景には、生涯独身で相続人がいない人の増加に加え、コロナ禍などによる社会問題への関心の高まりがあるといいます。

遺贈寄付の相談事業を手がける READYFOR 湊 幹さん

「社会課題がすごく多様化している中で、遺贈寄付というのは、自分の「何かしたい」という思いを叶えられる手段として有効なので、関心が高まっているのかなと思います。一生かけて大切にしてきたお金は、自分自身でやっぱり行方を決めたいっていうのがあると思うんですね。この分野を応援したい、よりよくしたいという気持ちをもって、自分の財産がそこで活動する人たちの力になるんだと思うと、前向きな気持ちになれるんだと思います」

“遺産で地域に貢献” 地方銀行も支援

さらにいま遺贈寄付を地域振興につなげようと、地方の銀行が支援に乗り出すケースが増えています。

名古屋市のこの銀行では去年、自治体や学校など16の組織と協定を締結。そこへの寄付を希望する人の相談に乗る事業を始めました。

名古屋銀行 藤原一朗頭取

「自分が残したお金で何らかの形で地元に貢献したいということを思っているお客様は結構多くいらっしゃると思うんですね。そういう気持ちを私どもが仲介する形で受け止めて、その地域でお金がぐるぐるっと、地域に役に立つ形で生かされていくということが、いちばん大きいのではないかと思っております」。

提携先のひとつが、名古屋市にある動物園です。

この動物園では近年、遺贈寄付の申し出が相次ぎ、実際に人気を集めるレッサーパンダの飼育施設の建設にも使われました。

<遺贈寄付を活用して作られたレッサーパンダの飼育施設>

ただ遺贈寄付は、その意思を遺言書に記すなど、死後、確実に実行されるよう手続きをする必要があるため、これまで必ずしも申し出が実際の寄付につながるわけではありませんでした。

そこで去年2月、銀行と協定を締結。寄付の希望者を銀行に紹介し、銀行がその手続きを支援することでスムーズに寄付を進めようとしています。

東山動植物園 梅村友子さん

「遺贈寄付をするにはどうしたらいいかという問い合わせをいただくことが増えています。この提携によって的確なアドバイスをできる態勢ができたので、遺贈寄付をいただいた際には、より魅力的な動植物園にしていけるように活用させていただきたいです」

次の世代への思いを託す遺贈寄付。今後も、選択肢のひとつとして注目度が高まりそうです。

手続きや注意点は?

実際に遺贈寄付を検討する場合に気になる手続きや考え方について、相続・遺言に関して20年近くの相談経験がある北山陽一さんに聞きました。

Q.どうすれば遺贈寄付ができますか?

A.自分の遺産を特定の団体に寄付するには、自筆の遺言、または公正証書遺言を作成する必要があります。書き方には法律上の決まりがあり、また団体によっては受け入れられる財産の種類(現金や不動産など)に制限がありますので注意が必要です。

Q.財産が多くあるわけではないのですが、遺贈寄付の金額に決まりはありますか?

A.一般的には、遺贈寄付の金額に下限はありません。一部の富裕層だけが行うものではありませんし、自分の生活を優先したうえで、死後に残った財産を寄付することができます。

Q.子どもなど相続人がいる場合も、遺贈寄付をすることができますか?

A.自分の財産ですので遺贈寄付の指定は自由にできますが、子どもなど相続人の遺留分に配慮した慎重な配分が必要です。詳しくは専門家に相談すると安心です。

※遺留分=法律で守られた相続財産の最低保証額

【2022年12月5日放送】