言論統制が続く祖国へ 在日ロシア人の複雑な思い 井上二郎キャスターが聞く

NHK
2022年4月28日 午後5:35 公開

プーチン政権は、ロシア国内でウクライナへの軍事侵攻に反対する声が広がらないよう厳しい言論統制を行っています。こうしたなかで、日本に住むロシアの人たちは今回の軍事侵攻をどう受け止めているのか。 

ある女性に、井上二郎アナウンサーが話を聞きました。女性や家族の安全に配慮して匿名で取材させていただきました。 

ロシアの軍事侵攻 どう受け止めているか 

取材を受けてくれたのは、ロシアで生まれ育ち、10年前から日本で暮らしている36歳のアンナ(仮名)さんです。父親の仕事の関係で、長く海外で生活してきました。夫はウクライナ人で、3人の娘と5人で暮らしています。 

井上: 今回のロシアによるウクライナへの軍事侵攻を最初に聞いたときに、まずどのように思いましたか? 

アンナさん: 私にとってウクライナは身近な国、文化、民族だから、ショックを受けました。ウクライナで起こっている戦争は私にとって、とても苦しい出来事、とても残酷な戦争で、あってはならないことだと思います。今までの人生が、2月24日までの人生と戦争が始まってからの人生にわかれてしまいました。元通りには戻らないだろうと思います。戦争がいつか終わっても。 

井上: ウクライナ人の夫とはいまの状態について話をすることはありますか? 

アンナさん: あります。もし私がロシアの政府、プーチンを支持していたら、たぶん夫とはけんかになっていたと思います。だけど私も批判しているから夫は私に「あなたが味方になってくれていることに対してすごく感謝しているよ」と言っています。 

井上: お子さんが戦争について聞いてくることはありますか? 

アンナさん: 戦争に関しては、「何で戦争になったの?」と聞いてくる。でも正直言って私はわからない。私から見て、計画も目的も理由もない戦争になっているから、私は子どもに「ロシアの大統領はウクライナを自分の土地にしたいから戦争を始めたと思う」と言います。子どもにとって簡単な言葉で話をして、身近な例えでわかりやすく説明しています。例えば「友だちがおもちゃを持っていて、あなたがそのおもちゃをほしくなった。だけどその友だちはあなたにくれない、どうする、泣いて戦うの?」と聞くと、子どもは、「いやそれはしない」。私が「何でしないの?」と聞くと、子どもからは「それはよくない。自分のものじゃないから」という返事が返ってくる。自分が持てるもの、自分の能力にちゃんと制限があることを意識しないといけないと思います。自分のものじゃないものに、手を出すのはいけないことだと。 

表向きは“政権支持”も 国外にも及ぶ恐怖感 

ロシアの独立系の世論調査機関によると、ロシア国内でのプーチン大統領の支持率は軍事侵攻後の3月に80%を超えるまでに上昇しました。日本で暮らすロシア人の中にも、表向きはプーチン大統領への支持を表明している人がいると言います。 

アンナさん: まず、ロシアの独立系メディアによると、ロシア国内ではすでに密告と脅迫が始まっていて、もし自分がプーチンを支持していないと誰かに知られたら、密告されてしまい、逮捕されるそうです。だから怖くて、「いまの政権を支持していますか、支持していないですか?」と聞かれたときに、「いや支持していません、戦争も支持していません」とは答えられないというのです。危険だから。逮捕されるから。 

さらに海外にいても、その家族がロシアにいる場合、海外にいて「プーチンを支持していない」と言ったら、それがロシア国内でバレて、国内にいる家族が暴力を受けたり、逮捕されたりする可能性があります。 

井上: ロシア国外にいて、海を越えても恐怖感を抱くというのは、恐ろしいことだと思います。 

アンナさん: そうです、とても怖いです。 

井上: アンナさんは、軍事侵攻に賛成する人、反対する人、両方の人たち(在日ロシア人)とつながっていますか? 

アンナさん: 戦争が始まってから、戦争を支持する人とは付き合っていないです。どのように付き合っていけばいいかわからない。私はすごく違和感を抱いているからです。だから何について話していいのかもわからない。立場がまったく逆だから。メールのやりとりとかメッセージのやりとりはしなくなりました。 

井上: 日本にいるロシア人の中でも考え方で分断が起きているということですか? 

アンナさん: そうです。起きています。 

暴挙の背景に“政治的無関心”が 

アンナさんは、プーチン大統領が暴挙に出た背景のひとつに、ロシアの人たちの政治への無関心さがあるのではないかと考えています。 

アンナさん: 私が大統領選挙、モスクワ市長の選挙に参加し始めたときから、私の声はあまりカウントされないだろうと思いながら参加していました。私も戦争が始まる前までは政治にあまり興味を持っていなかったです。詳しくなかったです。ぜんぜん。 

井上: それは、ご自身も「どうせ変わらないだろう」と思っていたから? 

アンナさん: そうです。どうせ変わらないだろうと思って。政治に参加して声を出しても、それを聞いてもらえない。参加してもあまり意味がない、時間の無駄遣い、力の無駄遣いだから、政治は政治の専門家がやるべきことだという考え方もあると思います。 

政治への向き合い方を間違えていたと感じているアンナさん。今は反戦デモに参加するなど、みずからも行動を始めています。 

アンナさん: 自分に何ができるかと考えたら、とにかく声をあげて、デモに参加してみることでした。「戦争に反対している人がたくさんいますよ」ということを見せるために。 いきなり政治に関心を持つことからスタートするのではなく、少しずつ、身の回りにある物事に対して関心を持っていって、その因果関係がわかってくるようになったら、その関心の分野が少しずつ広がっていくのだと思います。身の回りの物事に参加していく、社会参加、それが大事だと思います。自分には関係ないと思っていても、本当は見えない部分では関係がある。もし、どうでもいいという態度だったら、時間がたったときに、それが悪いこととして返ってくる可能性がある。 

長期化する戦闘 いま願うことは 

井上: この状況は、すぐには終わらずにしばらく続いていくと思うんですよね。この状況が続いていくことに対しては、どのように思っていますか? 

アンナさん: とても恐ろしく思います。いちばん恐ろしいのは、人は何があっても精神的に慣れていくことです。戦争がある状態が当たり前の状態になってほしくないです。 

本当にロシア国内でもいろいろ改善すべきところがあるにも関わらず、なんでさらにウクライナの土地を奪わないといけないのか。平和のなかで日常生活を送っていた人がいて、いきなり戦争になって、殺された人がたくさんいます。難民になった人もたくさんいます。今まで築いてきた人生をいきなりなくしてしまいました。 

井上: いまロシアにどのようにあってほしいですか。どんな国であってほしいですか? 

アンナさん: いろんな町の改善をしながら、安全な国になってほしい。豊かな国になってほしいです。ロシアとロシアにいる人々が幸せになれば、周りにいる人、周りの国もロシアと友だちになりたくなるに違いないと思います。 

取材を終えて 

「無関心がこの悲劇を生んだのかもしれない」。アンナさんの言葉が胸に突き刺さりました。「どうせ変わらない」という態度は、何も生み出さないどころか、最悪の結果を生み出すことがあるのだと。翻って、私にもそうした気持ちは少なからずありました。私たちができることはさまざまありますが、まずは身の回りの社会により関心を持つこと、批判的な思考を鍛えようと努力すること。一人一人の力は小さいかもしれませんが、小さな声はやがて大きな力になるのだと信じていきたい、そう強く感じました。 

【おはよう日本 キャスター 井上二郎/ディレクター 長野匠】 

【2022年4月16日放送】 

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