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“自分は何者?” 中国からの養子たちの葛藤

NHK
2021年5月20日 午後0:32 公開

アメリカは、世界有数の国際養子の受け入れ大国です。最も多いのは中国からの養子で、その数8万人以上。その養子たちの多くは「自分は何者で、どこから来たのか」という疑問を抱えているといいます。自らのルーツと向き合う養子と、その家族を取材しました。

養子たちの多くが 中国の孤児院から

メリーランド州に住むマッカーサーさん夫婦は、23年前に中国から養子を迎えました。晩婚で子どもに恵まれなかった2人が、中国からの養子を選んだのは、アメリカでは年齢制限があり、国内で養子を迎えるのが難しかったからです。娘のリューリンさんは25歳となり、今は独立して離れて暮らしています。

リューリンさんは、3歳まで、中国の孤児院で暮らしていました。当時、中国では、孤児が海外に養子として送り出されるケースが急激に増えていました。2005年には、アメリカだけで、年間8000人近い養子を中国から受け入れましたが、その90%以上が女の子で、多くが孤児院から迎えられています。多くの孤児を養子として送り出した中国の背景には、2015年まで続いた一人っ子政策や、男の子を望む伝統的な価値観がありました。

白人の両親とは、見かけもルーツも異なるリューリンさん。いまは、自身の生い立ちに自信を持って向き合えていますが、戸惑っていた時期もあったといいます。リューリンさんが高校生の時に書いた作文には、自分のルーツへの葛藤がつづられています。母に連れられ、かつて暮らした中国の孤児院を訪れた時のことです。居心地の悪さしか感じられず、施設の職員と目を合わせないよう下を向き続けていたと記されています。

<私たちは16年前にも、マッカーサーさん親子を取材していた。右側にうつっているのが、リューリンさん(当時9歳)。週に1回、中国語や中国文化を習いに特別な学校に通っていた>

リューリン・マッカーサーさん 「中国、アメリカどちらの側にも属さないはざまにいて、どちらも受け入れてくれないという感覚がありました。(中国とアメリカの)どちらかに自分を合わせようとする必要はありません。自分自身であればいいのです」

孤児院の主張と違う!? 明らかになる養子たちの出自

自らの生い立ちに疑問を持ち続ける養子も少なくない中、ユタ州のブライアン・スタイさんは、養子やその家族の要請にこたえ、DNA鑑定を通じて生みの親を探すなどの活動を続けています。これまでに100組近い生みの親を特定してきました。

その手がかりにしているのが、中国に何度も通って手に入れた現地の新聞です。紙面には、子どもの顔写真とともに、性別、健康状態、保護された孤児院などが記されています。中国では、保護された乳幼児に関する情報が自治体などによって新聞に「公告」として掲載され、一定期間内に親が名乗り出なければ養子に出されてきました。スタイさんが20年かけてデータベース化した情報は、およそ7万人分に及びます。

こうした取り組みを始めるきっかけは、スタイさん自身が中国から迎えていた3人の養子から「自分はなぜ捨てられたのか。生みの親は誰なのか」などといった生い立ちを繰り返し聞かれたことでした。さらに偶然目にしたニュースにも突き動かされます。中国湖南省の孤児院が乳幼児を集めるため、届け出た人にお金を払っていたという組織的な事件です。海外に養子に出せば、孤児院にお金が入るからでした。

娘は売られていたのではないか。不安を感じたスタイさんが中国出身の妻・ロンランさんとともに孤児院に改めて事情を聞くと、「捨てられ保護された」という当初の説明が作り話だったことがわかったのです。自分たちのようなケースはほかにもあるかもしれない。特定した生みの親に聞き取りを行ったところ、その多くが孤児院の説明とは違っていました。子どもは捨てられたのではなく、実際には厳しい一人っ子政策のもとで、親が泣く泣く手放したり、当局者が親から子どもを取り上げたりするケースが少なくなかったのです。

ロンラン・スタイさん 「一人っ子政策の圧力が強かったのです。(孤児院が主張する)『親に捨てられていたという子ども』は100人のうち1人しかいませんでした」

中国の政策によって大きな影響を受けてきた国際養子縁組み。関係する誰もが不幸にならないためようにする必要があるとスタイさんは考えています。

ブライアン・スタイさん 「私たちが生みの親を探し続けるのは、私やほかの家族の痛みを和らげ、平穏に暮らせる日を取り戻したいからです」

国際養子縁組み 求められる“透明性”

スタイさんの娘たちが孤児院に預けられた経緯は、いまもわかっていません。“実際の出生は説明と違っていた”というケースは、どのくらいあるのか。はっきりとした数はわかっていませんが、孤児院に保護された子どもが金銭を通じてやりとりされていたなどの事件は中国各地で報じられています。自分の養子が孤児院に売られていたことが分かったアメリカ人からは、再発防止に向けて何らかの措置を取るよう、アメリカ議会に求める動きも出ています。

中国からアメリカに来る養子の数は、今ではピーク時と比べて10分の1にまで減っています。中国が2007年に政策を変更し、海外に養子を出す条件を厳しくしたためです。その理由について詳しいことはわかっていません。ただ、アメリカにおいて国際養子縁組みの要望は依然として多く、中国がアメリカにとって最大の相手国であることに変わりはありません。スタイさんの家族のようなケースを生まないためにも、国際養子縁組みの制度の透明性を高めていくことが必要と言えます。

(ワシントン支局 記者 辻浩平)
【2021年5月12日放送】