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エイジテックってどんなテック?スマホが使えなくても大丈夫 超高齢社会で市場が注目

NHK
2021年12月3日 午前11:00 公開

エイジテックってどんなテック?

“エイジテック”という言葉を聞いたことはありますか?
金融関連の“フィンテック”や女性の健康をサポートする“フェムテック”など、いろんな“○○テック”がありますが、エイジテックは年齢などを意味する「エイジ」と「テクノロジー」をかけた言葉で、特に超高齢社会の課題を解決するサービスや製品を意味します。いったいどんな“テック”なのか取材しました。

スマホがなくても!身近な家電をエイジテックに

「孫に会えないというのは当たり前だったけど、スマホを使えなくても見られる機械もありますから、私は幸せだと思います」

あるエイジテック製品を使い始めて暮らしが明るくなったと話すのは、静岡県・熱海市に住む川口茂代さん。山あいの一軒家で一人暮らしをしています。
家の目の前は急な坂になっていて、長時間歩くことが難しい川口さんにとって、外出は一苦労。買い物に出かけるのも月に2~3回で、家で過ごすことが多いといいます。
これまでは東京に住む孫とひ孫が訪ねてくるのが楽しみでしたが、コロナ禍で2年近く会うことができずにいます。

ふだん使用しているのは「ガラケー」と呼ばれる携帯電話。孫からは写真のやりとりがしやすいスマートフォンの購入を勧められましたが、使いこなすことはできないと感じ諦めました。

川口茂代さん 「周りの人がスマホを使っているのを見ると“使ってみたい”という気持ちはわくんだけど、今使っている携帯電話でさえメールの機能を使うことが難しくて、使っているのは通話機能だけ。そんな状況でスマホが使えるとは思えなくて・・・。 今はどこに行っても何をするにも機械を使わなければいけないから、私みたいに苦手な人間にとっては本当に大変。若い人を見てるとついていけないんだなっていう寂しさとか、今の世の中についていくのが大変で取り残されたなっていうのはいつも感じているね」

そこで去年、孫からプレゼントされたのが、白い家のような形をしたエイジテック製品です。

この機器をテレビに接続すると、スマートフォンから送られた写真や動画を受信してテレビの大画面に映すことができます。
茂代さんは孫の真奈さんが送ってくれたひ孫の千鶴ちゃん(4歳)の写真や動画を、テレビのリモコンの操作ひとつで見ることができるようになりました。

川口茂代さん 「テレビのリモコンだけでやれるのでいちばん楽で。孫に会えないというのは当たり前だったけど、スマホを使えなくても見られる機械もありますから、私なんか幸せだと思います」

高齢者がデジタル技術から取り残されない開発を

この製品を開発しているのは、東京のIT企業です。デジタル機器に不慣れな高齢者にとって使いやすい製品づくりを追求しています。

社長の梶原健司さんは、スマホでなくテレビで写真や動画を見るサービスを選んだ理由について、高齢者の多くが使い慣れているデバイスであること。そして、大画面で見られることを挙げています。

IT企業 チカク 社長 梶原健司さん 「100歳の人でもシンプルに使えるものは何だろうと考えて、大画面で見られるテレビを使ったサービスを開発することにしました。また、テレビだと実際に等身大くらいで映るので、一緒に生活している感覚で普段使っているテレビでお孫さんの日常が見られるのが強みです。 デジタルテクノロジーが色々普及している中だからこそ、(高齢者が)きちんとその機能にアクセスできるようにしていくっていうことが社会的に大事だと思います」

この会社ではコロナ禍でサービスの需要が伸びたことから、現在利用者に向けてテレビを通したビデオ通話機能の実証実験を進めていて実用化を目指しています。さらに、エイジテックを利用してコミュニケーションを活発にすることが、高齢者の生活や健康状態にどんな影響があるのか自治体や研究機関などと共同で研究を進めていて、今後の開発に役立てたいとしています。

3か月間、高齢者施設に住み込んで分かった 本当のニーズ

エイジテックの開発にはとことん高齢者の目線に立つことが大切ですが、ITを使い慣れている技術者にとっては、簡単なことではないといいます。

高齢者向けのタブレット専用のアプリを開発するベンチャー企業の代表・臼井貴紀さんは、どうすれば高齢者にやさしいエイジテックができるのか、3か月間、高齢者施設に住み込んで調査しました。

当時、臼井さんが想定していたのは、高齢者が“自分で操作できる”タブレットだったといいます。
次の画像が最初の試作品のトップページ画面です。連絡やスケジュール確認など、メニューを絞り込んでアイコンの表示を大きくし、やりたいことを選びやすくしようと考えました。

アイコンをタップする(押す)と、より詳しいメニュー画面が出てきます。

しかし、この試作品を高齢者施設で実際に試してもらったところ「分からない」「使えない」という声があがったといいます。
例えば、前の画面に戻りたいときには画面左上にある「<」マークを押す操作をしますが、この「<」が何を表しているか分からない。
他にも「スマホを持っていても、電話するだけ」「それぞれのアイコンの意味が分からない」「タップの際に画面に軽く触れるのではなく、長押ししてしまってうまく作動しない」。
スマートフォンに慣れている人なら直感的に行う操作が、ふだんスマホなどの機器を使わない高齢者の人たちにとっては理解するのが難しいことが分かりました。
臼井さんたちが3か月間で集めた高齢者のデジタル利用に関する気づきは50以上に及んだといいます。

IT企業 Hubbit代表 臼井貴紀さん 「ITに親しんでいる私たちにとっての当たり前が、多くの高齢者にとって必ずしも当たり前ではないことに気づく貴重な機会になりました。これまで“高齢者にとってデジタル利用は難しい”とはよく耳にしていましたが、なぜ難しいのか深掘りして知ることで、エイジテック開発のヒントを得るきっかけになりました」

そこで臼井さんが思いついたのが、「専門のスタッフが遠隔でタブレット操作を代行してくれるアプリ」です。
「話しかける」という表示に1回触れると、専門のスタッフとつながります。そして例えば、離れて暮らす家族と連絡を取りたい時にはSNSのビデオ通話機能につないでくれたり、電子書籍や映画鑑賞などやりたいことを言うだけでタブレットの操作を遠隔で全て代行してくれるのです。

このアプリを実際に利用している介護施設では、高齢者の健康管理や職員との連絡手段などに役立っているということです。また将来的には通話中の映像を蓄積して解析し、表情の変化や筋肉の衰えをいち早く察知するシステムを導入し、適切な医療や介護にいち早くつなげられるようにしたいということです。

臼井さん 「ITの可能性を最大限に広げて、ご本人(高齢者)に負荷をかけないかたちだと、これが最適なのではないかと思っています」

「ハイレベルだけど “技術っぽくない”」が理想

いま、ベンチャー企業を中心に参入が相次ぐエイジテック分野。

専門家は実は高齢化が進む日本はエイジテックの先進国だと指摘しています。

東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター 村田裕之特任教授 「以前から高齢者を対象とした製品やサービスは存在しましたが、それを近年になってエイジテックと呼ぶようになったのは、世界全体の高齢者の割合が増えたため、市場ニーズとして現実味を帯び始めたということです。かつては“技術がすごい”ことを売りにするものが多かったのですが、本当にすぐれたエイジテックというのは、高齢者の立場をよく理解して気持ちに寄り添う。そこにものすごくハイレベルな技術を使っているけれど、“技術っぽくない”。そういうものがこれから求められるエイジテックだと思います。 日本は超高齢社会なので高齢者が何を必要としているか分析がしやすく、エイジテックの先進国といえるでしょう」

取材を終えて

高齢者といっても年代もデジタルへの親しみの度合いもさまざまで、デジタル格差の度合いには個人によって大きな差があるのが現状です。社会全体がデジタル化を目指す今だからこそ、どんな人でも使いやすいエイジテックの開発には大きな可能性を感じました。今後の広がりに期待したいと思います。

(おはよう日本ディレクター 朝隈芽生)

【2021年11月8日放送】

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