急増・自宅での看取り コロナ禍で病院面会制限の影響 家族の不安と向き合う在宅医

NHK
2021年12月24日 午後6:00 公開

「21万6000人」

  この数字は2020年で、病院や老人施設などではなく自宅で亡くなった人の数です。
前の年から一気に3万人増加しました。  

新型コロナの感染拡大で、家族に見守られて亡くなる事が病院では難しくなったため、自宅での看取り(みとり)を望む人が増えたことが大きな理由だと専門家は分析しています。
「看取りの現場」で何が起きているのか。1人の医師を追いました。

急増する自宅での看取り 家族に会えない最期に不安抱える患者

在宅医・開田脩平さん。
横浜市内を拠点に、ガンや心臓病など末期の患者を診察しています。
いま、コロナ禍で、多くの病院が面会を制限。開田さんの患者にも家族と会えないことに不安を感じ在宅医療を希望する人が相次いでいます。

この日、診察したのは、心臓に病気を抱える、当時97歳の女性。
“家族に会えないまま、亡くなってしまうのでは”と自宅に戻ってきました。
診察の間、心配そうに見つめる、患者の姪も同じ心配を抱えていました。

患者の姪 「(病院に)行っても、あの辺から、遠く離れておしゃべりするくらいで、だから、ふだんの様子は分からないですよね。それが難しいです」

「おうちに戻ってこれてよかったですね」と患者に優しく話しかける開田さんの言葉に、女性は涙を流しながら、「ありがとう」と答えました。一方で、「また、入院はしたい、とかは思わない?」という問いかけに対しては、「思わない.死んでも嫌だ」と涙するのでした。

在宅医・開田脩平さん 「泣きながらほっとしているような表情を見ると、自宅に帰ってこれてよかったかなと思うし、しっかりとサポートしていかなければいけないなと思いますね」

コロナ禍以降、開田さんの診療所では「自宅での看取り」が急増。
以前は年間400人ほどだったその数は、2021年は900人に上りました。
感染症対策に気を配りながら、休憩をとる間もなく、自ら運転しながら診察を続けます。
取材を行ったこの日も、午前9時から始まった診察に、ほとんど休みはなく、1日で15件を回りました。慌ただしい1日が終わろうとしたその時、開田さんに一本の電話が入ります。

開田さん 「いま、看護師さんから連絡があって、呼吸が止まっている状況。いまから、すぐに看取りにいきます。」

5日前、“病院には戻りたくない”と話していた、あの、97歳の女性。
長年、住み慣れた自宅で、息を引き取りました。

“死を迎える準備”が出来ず、患者と家族に広がる戸惑い

コロナ禍の影響で、急増する自宅での看取り。取材を進めると、患者や家族に、「死を迎えるための準備」が十分にできていない現実も見えてきました。

この日、診察に訪れたのは、末期の胃がんを患う男性。病院で治療を行ってきましたが、体力が低下するなか、孫の顔をみたいと、戻ってきました。
積極的な治療は望まないと自宅を選んだ患者の男性。しかし、自宅で痛みをとる「緩和ケア」について説明する開田さんに、娘が投げかけたのは、意外な質問でした。
「専門の病院とかもあるのですか?」「がんセンターは?」…。わずかでも、積極的な治療をできる医療機関はないかというのです。

本人と家族が望む「最期の医療」のギャップ。例えば、呼吸が停止した時に救急車を呼ぶか。さらに、延命治療はどうするか―そうした事が話し合われないまま在宅での看病が始まることに開田さんは難しさを感じています。

在宅医・開田脩平さん 「心の準備が整っていない。(現在の病状を)理解ができていないまま、自宅で過ごしますか、このまま入院しますかという選択をご家族は迫られるというか、家族の思いと本人の体のギャップというのが、なかなかご家族としては詰められない」

男性の家族は、話し合い、自宅でできる緩和ケアを受けることになりました。
実は、開田さん自身も、家族間で考えを共有する難しさにぶつかった事がありました。

5年前、父の尚宏さんに前立腺がんが見つかり、余命数ヶ月と告げられたのです。医師として患者に「選択肢」を事前に話し合うように促してきた開田さん。
その自分が、父や母と、話し合っていなかったことに気がつきました。

在宅医・開田脩平さん 「自分の家族がそうなった時も、最期のことを話すというのは、やっぱり縁起が悪いとか、NGワードじゃないですけど、話し合いというのはしてきていないし、灯台下暗しというわけではないんですけども」

その後、父とじっくり話し合った開田さん。父は現在も抗がん剤治療を続けています。
この経験を経て、開田さんは診察の際に、「もしもの時、どうしたいのか」を家族で話し合ってもらうサポートを、積極的に行っています。

在宅医・開田脩平さん 「本当はそういった話し合いができると、何かという時に慌てずに、あの時はこういうふうに話し合っていたから、じゃあ、こうしていこうかという少し準備段階があると、だいぶ違うのかなと思います」

家族と話し合う“きっかけ”を作るために

11月、診察の合間、横浜市内の小学校に、開田さんの姿がありました。
学校の協力を得て、命をテーマにした”特別授業”を行ったのです。
「きょうは、命の授業というものをお話させていただこうと思います」と、全学年を対象に校内放送を使って始まった開田さんの授業。
もし病気になったら、自分はどうしたいのか。授業を受けた子どもが家族と話し合うことで、それぞれが命について考えるきっかけになればと思っています。

在宅医・開田脩平さん 「もし家族が病気で具合が悪くなったら、皆さんは何をすることができますか?みんなで話し合うことが大切です。家族、あるいは友だち、仲間と話し合ってみましょう」

在宅医・開田脩平さん 「今回のコロナ禍を教訓に、自分はそのきっかけ作りというか、家族がいろいろ話し合ったり、ギャップをなくしていく、少なくしていくというものを、つなぎ役として、今後もやっていきたいなと思います」

(広島放送局 ディレクター 鈴木俊太郎)

【2021年12月20日放送】