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子宮頸がんワクチン 接種する?リスクは?当事者に聞く

NHK
2021年7月5日 午後3:00 公開

子宮頸がんって?

子宮頸がんは、子宮の出口付近にできるがんです。
日本では20代から40代を中心に患者数が増えていて、毎年およそ1万1000人の女性が子宮頸がんになり、およそ2800人が亡くなっています。
(出典:国立がん研究センター 2015年全国推計値に基づく累積罹患リスク、2017年累積死亡リスク)

子宮頸がんワクチンって?

子宮頸がんのほとんどは、HPVと呼ばれるウイルスに持続的に感染することで発症します。

HPVは性交渉によって感染するありふれたウイルスで、女性の50%以上が生涯で一度は感染すると推定されています。
HPVへの感染を防ぐためには、性交渉を経験する前にワクチンを接種することが最も有効で、現在、小学6年生から高校1年生までの女性は、定期接種として、無料で接種することができます。

HPVには200種類以上のタイプがあり、現在、定期接種で使われている「サーバリックス」、「ガーダシル」という2種類のワクチンは、子宮頸がんを引き起こしやすいHPV16型と18型の感染を防ぐことができ、子宮頸がんの原因の50%から70%を防ぐことができるとされています。
子宮頸がんワクチンは、3回の接種が必要で、標準的な接種としては、「サーバリックス」は、1回目の接種を行った1か月後に2回目を、6か月後に3回目の接種を行います。「ガーダシル」は1回目の接種を行った2か月後に2回目を、6か月後に3回目の接種を行います。

また、去年7月に日本で新たに承認された「シルガード9」というワクチンは、HPV16型と18型を含む9種類のHPVの感染を防ぐことができ、子宮頸がんの原因の90%を防ぐことができるとされています。現在、このワクチンは、9歳以上の女性であれば取り扱う医療機関で接種できますが、およそ10万円の自己負担が必要です(必須とされる3回接種を行った場合)。

また、ワクチンは、男性も接種できます。これまで日本では、男性は接種の適応外とされていましたが、厚生労働省は去年12月、「ガーダシル」について、9歳以上の男性についても適応としました。HPVは、中咽頭がん、肛門がん、尖圭コンジローマなど男性がかかる病気の原因にもなるため、男性がワクチンを接種することは、これらの病気の予防につながります。また、HPVは性交渉で感染するため、男性がワクチンを接種することで、感染が広がるのを防ぐことができます。
海外では、女性だけでなく男性も公的な予防接種の対象になっている国が増えています。

世界中で接種進む子宮頸がんワクチン 接種率が低い日本

子宮頸がんワクチンは、2006年に欧米で開発され、WHO=世界保健機関が接種を推奨しています。現在では100か国以上で公的な予防接種が行われていて、接種率が8割を超えている国がある一方、日本で接種したのは対象年齢の女性のおよそ1%です。

接種が進むスウェーデンでは、去年、ワクチンによって子宮頸がんの発症を大幅に防げたとする論文が、国際的な医学雑誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に出されました。論文では、スウェーデンのカロリンスカ研究所のグループが、2006年から2017年までの間に10歳から30歳だったおよそ167万人の女性を対象に、4つの型のウイルスに有効なワクチンの接種が子宮頸がんの発症と関連するか調べています。その結果、ワクチンを接種しなかった女性で子宮頸がんと診断されたのは10万人あたり94人だったのに対し、接種した女性は10万人あたり47人と半減していました。年齢などを調整した上で子宮頸がんのリスクを分析したところ、17歳未満でワクチンを接種した場合はリスクが88%減り、17歳から30歳までに接種した場合もリスクは53%減っていたということです。

日本の低い接種率 背景は?

子宮頸がんワクチンは、2009年に国内で承認され、希望者が接種できるようになりました。2013年4月には、定期接種に指定され、接種するよう積極的な呼びかけが行われました。しかし、そのわずか2か月後、国は「積極的な呼びかけはしない」と方針を変更しました。接種後に体の不調を訴える女性が相次いだためです。

この8年間、対象となる小学6年生から高校1年生までの女性は無料で接種できますが、国として接種を積極的に勧めない、という曖昧な状態が続いています。
例えば、赤ちゃんが打つBCGなどでは、自治体が対象者やその保護者に接種を促すはがきなどを送って、積極的に接種を呼びかけます。しかし、子宮頸がんワクチンは、そうした呼びかけが行われなかったため、自治体のホームページや医療機関のリーフレットなど本人や家族が接種について知る機会が限られていました。
無料で接種できることを知らず、高校1年生の年代が過ぎて、機会を逃した人が多くいるとみられています。
去年、厚生労働省は積極的に接種するよう呼びかけはしないものの、対象者やその保護者にはがきなどを送って、ワクチンの情報提供をおこなうよう、方針を変えました。しかし、実際に取材をしてみると、当事者や保護者からは「定期接種だけれども、国は積極的に呼びかけないという状況をどう捉えたらいいのかわからなくて困る」、「情報が少ないと感じる。ワクチンを打ちたいと思う人が一歩踏み出す機会がもっとあったらいいのに」といった声が聞かれました。

子宮頸がんワクチン リスクは?

8年前、国が積極的な接種の呼びかけを中止した理由は、ワクチンの接種後に、頭痛や倦怠感、体の痛み、失神など、さまざまな症状が報告されたことです。
厚生労働省では現在、因果関係があるのかわからない症状や、接種後短期間で回復した症状も含めて、接種後の症状の報告頻度は「1万人あたり9人」、また、入院など医師などが重篤と判断した症状の報告頻度は「1万人あたり5人」と公表しています。

国の研究班が2016年11月に公表したデータによりますと、 研究班所属の医療機関の集計結果として、因果関係があるかはわからないものの、ワクチンの接種後に痛みの症状が出た244例のうち、フォローできた156例について、痛みが消失または改善したのは115例(およそ74%)、痛みが変わらないのは32例(およそ21%)、痛みが悪化したのは9例(およそ6%)と報告しました。

WHO=世界保健機関は、おととし(2019)、子宮頸がんに限らず、ワクチンの接種後に出るさまざまな症状について、「予防接種ストレス関連反応」という新しい概念を提唱しました。注射やワクチンを接種することへの不安やストレスが要因となって、急性反応として息切れやめまい、失神などが起こるケースや、遅発性反応として脱力やしびれ、歩行困難などが極めてまれに起こることが報告されています。

「ワクチンを打っておけばよかった」21歳女性の思い

積極的なワクチン接種の呼びかけが行われてこなかった8年間にどのようなことが起きているのか。
ワクチンを接種することなく、子宮頸がんのリスクに直面している21歳の女性が、ワクチンを打つかどうか迷っている10代の女の子たちの参考になればと取材に協力してくれました。

みさ(仮名)さんは、ことし5月、自治体のがん検診で異常が見つかりました。診断の結果、HPVに感染している可能性が高く、将来子宮頸がんになるおそれがある細胞の初期の異常「軽度異形成」と診断されました。軽度異形成は自然に治癒することもありますが、がんに進行しないよう、今後数か月ごとに検診を受け続けなくてはいけなくなりました。

みささんは、無料で接種を受けられる世代でしたが、対象になっていることを知らなかったといいます。結婚や出産など将来に影響しかねないと不安に感じています。

みささん 「異常がないという結果になるだろうと思っていたので、びっくりしました。まだ21歳なので結婚や出産について考えたことがなくわからないけれど、子宮頸がんのことが、将来すごく悩む要因になるのかなと感じています。ワクチンが接種できるときに戻れるなら打っておいたほうがよかったです」

子宮頸がん2万2000人減らせたはず 研究試算

定期接種の対象年齢を過ぎた世代について、大阪大学の研究グループは、現在16歳から21歳までの女性(2000年度から2004年度生まれ)のおよそ7割が、当時ワクチンを接種していたらどの程度子宮頸がんになる人を減らせたか試算しました。ワクチンによって子宮頸がんの発症を60%防ぐとした場合、この世代で、将来子宮頸がんになる人を2万2000人減らすことができ、5500人が子宮頸がんで亡くなるのを避けられたとしています。

大阪大学 池田さやか医師 「今の状態が続いていくと、毎年毎年同じように本来ならば防げたはずの子宮頸がんの患者さん、それによって亡くなる方がでてくるのです。1日も早く、ワクチンの積極的な接種の呼びかけが再開されるのを願っています」

子どもの命にも関わる子宮頸がん

子宮頸がんは、時として、生まれてくる子どもの命にも関わります。
妊娠中に子宮頸がんが見つかった39歳の女性が、自身の経験を語ってくれました。

まみさん(仮名)の妊娠がわかったのは37歳のときでした。初めての妊娠で喜んでいましたが、妊娠初期に、地元の産婦人科クリニックで受けた妊婦健診で、子宮頸部に異常があると指摘されました。
当初は重く受け止めていませんでしたが、大学病院で検査した結果、子宮頸がんが見つかりました。まみさんが最も衝撃を受けたのは「がんの進行状態によっては、赤ちゃんを諦めてもらわないといけない」という医師の言葉だったといいます。

まみさん 「正直、真っ白で何も考えられなかったです。最初で最後の子だと思っていたので、それを諦めるっていうのが考えられないというか、先生から赤ちゃんを諦めろと言われることがあるんだっていうのがショックでした」

さらに詳しい検査を受けた結果、まみさんは「子宮頸がんのステージ1」と診断されました。
そのとき、おなかの中の赤ちゃんの週数は22週0日。人工妊娠中絶が法律で認められている週数を1日過ぎていました。医師からは「あと少しはやく診断していたら、人工妊娠中絶をして今すぐ手術するよう、説明していた」と告げられたといいます。
まみさんは、大きな不安を抱えながら妊婦生活を過ごし、おととし帝王切開で男の子を出産する同時に、子宮をすべて摘出する手術を受けました。
手術でリンパ節も切除した影響で、尿意を感じにくい排尿障害があり、足のむくみが出やすく激しい運動はできません。
1歳の息子を連れて取材に応じてくださったまみさんは、取材の最後にこう話しました。

まみさん 「子宮を失ったことよりも、この子が生まれてこなかったかもしれないと思うと、今でも怖くなります。ワクチンだったり検診だったり、予防できるものはやっておいたほうがいいよと伝えたいです」

接種後の体調不良 21歳女性の思い

今回、子宮頸がんワクチンを接種した後に出た、体調不調に悩む女性がメールで取材に応じてくれました。
関東地方に住む21歳のあずさ(仮名)さんです。

あずささんのメール 「学校に通って、皆と一緒に学んだり、おしゃべりしたり、ごく普通の生活をしていたのが、あの日を境に徐々にできなくなっていきました」

あずささんにはがんで亡くなった親族がいたため、9年前、中学1年生のとき、ワクチンを接種。直後から体のだるさを感じ始めたといいます。
あずささんの許可のもと、主治医に症状を聞きました。

順天堂大学 井関雅子医師 「頭痛とか胃腸障害とか、月経困難症、倦怠感、そういったところが今でもつらいのではないか。その年代の方が動ける範囲の活動量とは全然違う状態です」

外出が難しいため、通信制の大学に通っているあずささんに、子宮頸がんワクチンの接種がどうあってほしいか尋ねました。

あずささんのメール 「因果関係が証明できなくても積極的な救済を」 「リスクとメリットを考えて、自分で判断し、選べるようにしたほうがいいと思います。そのための判断材料を、隠すことなく提供してほしいです」

接種後に出た症状に苦しむ人は、検査をしても数値や画像に異常が出ないことも多いため、医師に症状のつらさを理解してもらえず悩み、さまざまな診療科を受診しなければならないケースがあるといいます。

愛知医科大学 牛田享宏医師 「数値は正常ですということで、たらい回しも起こってくる。原因がわからない症状に対して診療科を超えて医療者がチームになって対応することが必要で、患者さんに寄り添って治療をしていくことが大切だ」

20歳以上の女性は2年に1度 子宮頸がん検診を

子宮頸がん検診は、20歳以上の女性は、2年に1度受けることが推奨されています。
子宮頸がんにならないためには、ワクチンでがんの発症を防ぐことが有効ですが、ワクチンを打っていても感染するケースもあります。ワクチンを打っていてもいなくても、定期的に検診を受けてがんを早期に発見することが重要です。

(科学文化部 記者 池端玲佳)

【2021年6月22日放送】