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山岳救助の切り札!? ドローン夜間捜索への挑戦

NHK
2021年5月21日 午前11:01 公開

空中からの撮影や測量・農薬散布に使われることの多いドローンを、人命救助に生かそうという取り組みが進んでいます。舞台は山岳遭難の現場です。今年の大型連休も各地で遭難事故が相次ぎました。登山人気を背景に遭難件数はこの20年で3倍に増えており、年に300人ほどが亡くなっています。

こうした人たちの命を救う上での課題が夜間の捜索です。天気や気温が急変しやすい山では、一刻も早い救助が欠かせませんが、見通しの悪い夜間は捜索隊が2次災害に巻き込まれる危険性を考慮し、基本的に行われてきませんでした。そんな中、ドローンを活用し、空から夜間の捜索を行う仕組みがパイロットたちの手で確立され、今月から北海道で実用化することになりました。

カギは赤外線カメラ! ドローン夜間捜索訓練に密着

去年10月、北海道上士幌町の山林で、ある訓練が行われました。
体温に近い熱を発する状態にした人形を、山林に隠して、夜間に見つけ出すというものでした。
暗闇の捜索で力を発揮するのは、ドローンに取り付けた「赤外線カメラ」。遭難者と周囲の温度の違いを感知することができるため、遭難者の居場所を見つけることができるというのです。

パイロットは、コントローラーに取り付けられたモニターで赤外線カメラの映像を確認します。
離陸してしばらくすると、ドローンは自動航行モードに移行します。目視できない夜間での飛行を可能にするため、あらかじめ山の起伏や高度の情報がプログラムされているのです。ドローンが1回で捜索できる範囲は、およそ10へクタール。機体を交代させながら、少しずつ捜索範囲を広げていきます。

飛行時、赤外線カメラは画像を一定間隔で記録。機体交換の度にそのデータを抽出し、解析装置にかけていました。
赤外線カメラ映像での目視に加え、機械での解析。“わずかな熱源も決して見逃さない”という強い意識を感じました。
こうして遭難者の可能性のある熱源を探しだし、最後に人の目で確認するのだといいます。

『ドローンで命を救いたい』 あるパイロットの思い

訓練の参加者は、全国から集まってきたドローンパイロットたち。
その1人、古舘裕三さんはドローンによる測量や農薬散布などの仕事を通じて技術を磨いてきました。

古舘祐三さん 「このような技術が人命救助に生かせるのは非常にうれしく思います」

古舘さんがドローン捜索に力を入れたのは、自身の経験が大きく影響していました。10年前の東日本大震災、ふるさと岩手県宮古市を襲った津波に両親が巻き込まれました。夜間、不安に苛まれる中、捜索できない悔しさを味わったといいます。夜間捜索へのドローンの活用は、命を救う大きな力になると考えてきました。

発見! 救助の瞬間までサポートするドローン

ドローンによる捜索開始から1時間。人の形をした熱源が発見され、位置情報が消防の捜索本部に送られてきました。場所は、林道のすぐわき。救助隊は夜間でもドローンが誘導してくれるなら、向かえると判断しました。安全性を高めるために、古舘さんの操縦するドローンが先回りして、救助ポイントをライトで照らすことになりました。

ドローンが照らす明かりと、位置情報を頼りに、遭難者に見立てた人形に近づく救助隊。
その様子は、ドローンの赤外線カメラではっきりと捉えられていました。
人形にたどり着くと、実際、ドローンの待ち構える地点の真下でした。

古舘祐三さん 「何とか誘導できてよかったです。すごくよい経験になりました」

地元の消防関係者は驚きを隠しませんでした。

消防関係者 「こんなにも正確に分かるとは正直思いませんでした。今後ドローンでの捜索というものは有効に働くと思います」

これまで人海戦術で遭難の可能性のある場所を順につぶしていくしかなかったのが、まさにピンポイントで位置が分かり救助できたのです。ドローンで発見できなかった場合も、「その範囲にはいない」という情報にもなり、別の場所に捜索範囲を絞り込むこともできるのです。

そして訓練の成果は、今年4月、実りました。
北海道上士幌町が全国の自治体で初めて、ドローンによる山岳遭難の夜間捜索について、民間組織(一般社団法人:ジャパン・イノベーション・チャレンジ)から支援を受ける協定を結びました。北海道に暮らすパイロット11人が、自治体の要請で出動する体制が整えられたのです。

全国に広げるために 導入された新技術

さらに、ドローンによる夜間捜索を全国に広めていくため、新たな技術開発も進んでいます。
全国どこの山林でも安全な飛行ルートの作成を可能にするという、自動航行システムです。
事前にデータを打ち込み、飛行ルートを設定しなければならなかった従来のシステムを改め、国土地理院の地形データをもとに捜索範囲を指定すれば、瞬時に飛行ルートが設定されるようにしました。
東北と関東甲信越では夜間捜索支援の実用化に向けて、いくつかの自治体と話し合いが進められているということです。

山岳救助の支援にあたってきた日本山岳救助機構(JRO)合同会社・代表の若村勝昭さん。
早期発見の切り札になると、期待をよせています。

若村勝昭さん 「亡くなった状態で遭難者が発見された場合でも、その場所で何日か生存していた痕跡があることもあります。山岳遭難は、一刻も早く発見できるかが生死を分けますので、サポートをドローンができれば、山岳遭難の捜索も変わってくると思います」

古舘祐三さん 「夜間捜索の実践をいろいろやりながら、技術を向上させて、人の命を救えるチームになっていきたいです」

今後、ドローンによる山岳遭難の救助支援を広げていくためには、自治体や消防、警察など、関係各所の協力が不可欠です。夜間捜索の技術への理解を得るとともに、費用面の負担やパイロットの人材育成など、課題を一歩ずつ解決しながら各地での実用化を進められていくことが期待されています。

【取材後記】

盛岡局 大江崇之
取り組みは5年前、ドローンの競技会という形からスタートしました。遭難現場を想定し、山の中に置かれた人形をドローンでいかに早く見つけられるかを競うもので、電波障害でドローンが墜落するなど、トラブルの連続でした。そこからの捜索技術やシステムの進化には驚かされるとともに、本当に遭難者を発見できると言う期待感を強く感じました。

盛岡局 小澤昌之
ロボットが社会に役立つと知ってもらい、新たな産業やサービスを生み出したい」。夜間捜索に挑戦したパイロットたちの思いの根底には、ドローンという“ロボット技術”でより良い未来を創りたいという少年のような思いがあると感じました。
人口の減っていく日本では、ドローンが活躍する時代がやってくる」。言葉通り、農業や測量、太陽光パネルの点検など、影響力は多岐にわたる分野で増しています。新たな“文明の利器”を私たちがいかに使いこなし、受け入れていくのか。山岳遭難の夜間捜索という未知の分野への挑戦が、成果を生み出し、ドローン活用の幅がさらに広がるときは間近だと感じました。

(盛岡放送局 カメラマン 大江崇之)
(盛岡放送局 ディレクター 小澤昌之)
【2021年5月13日放送】