【ロングインタビュー】東京パラリンピック金 道下美里さん"もっと楽しさを伝えたい

NHK
2022年8月23日 午後1:35 公開

私よりも小柄できゃしゃな身体で、まるで風のように軽やかに駆けていきました。東京パラリンピックの陸上女子マラソン・視覚障害のクラスで金メダルを獲得した道下美里選手(45)です。大会のおかげで声をかけてくれる人が増えたり、伴走の選手の待遇がよくなったりと大会の成果を実感しています。

ただ、まだ物足りないと感じていることが…それは「障害のある人たちから、スポーツをやりたいという声があまり上がらない」ことです。伝えたいのは、スポーツで広がる"新たな世界"だといいます。

(おはよう日本キャスター 堀菜保子)

東京大会のおかげで「声かけやボランティアが増えた」

東京パラリンピックから1年、大会は選手や障害者スポーツをする人たちにどんな影響を残したのでしょうか。

私がお話を聞きに行ったのが、福岡を拠点に活動する道下さんでした。

堀キャスター

東京パラリンピックから1年になりますけれども、身の回りで起きている変化をどのように感じていますか。

道下美里選手

「そうですね。まず街で声をかけられる機会がすごく増えましたね。

スポーツジムに行っても「何か困っている事はないですか」というような声かけだったり、手を差し伸べたりしてくださる方がすごく増えたっていうのも実感します。(トレーニングをしている)大濠公園でいつも出会っていたおばちゃんは、お孫さんにぜひ会わせたいと言って連れてきて一緒に走ったりして、世代を超えていろんな方々がパラ競技に関心を持ってくれています。

東京パラに向けて、地域の取り組みや障害者理解の働きかけをしていた成果というものが多分出ているのかなって思う。私だけじゃなく、他の視覚障害者の方も街で声をかけてもらう機会が増えたと聞いた時に、すごくうれしいなって感じました」

道下さんが所属するランニングクラブには、東京大会以降、新たに20人以上がメンバーに加わりました。特に増えているのは伴走ボランティアだといいます。

「道下選手が金メダルを取ったのをきっかけに、ちょっとやってみようかなと参加した」と話す人もいました。

―パラリンピックの後に主に伴走のボランティア、サポーターの数が増えたそうですね。

道下選手

「そうですね。新しく入ってきた方に、何で伴走したいと思ったんですかっていうことは絶対聞きます。そうしたらやってみたいなって思いながらも最初の一歩がなかなか踏み出せなくて、でもテレビとかで見て気軽に来ていいのかなって思って参加をしたら楽しかったみたいな感じでした。伴走に興味や関心を持っていただける方が増えてとてもうれしいなと思いながらも、これが一過性に終わらないっていうことがすごく重要なので、一緒に世界を広げていく仲間が増えたらうれしいなと思います」

認められた「ガイドランナー」の重要性

東京パラリンピックをきっかけにした成果としてもう1つ道下さんがあげたのが、一本のロープを介して共に走る「ガイドランナー」の環境が改善されたことです。

<道下選手の伴走をする河口恵さん(右)>

道下選手と同じ企業に所属し、伴走を6年間続けてきた河口恵さんは、この4月から道下選手と同じ「アスリート」として扱われるようになりました。これまでよりも競技に専念できる時間が増え、「走ることを通してどんどんいろんな道が開けているのがすごくうれしい」と話しています。

こうした動きは、他の選手たちの間にも広がっているといいます。

道下選手

「すごい画期的な事かなって私は思っていて。

今までやっぱりガイドランナーさんって、フルタイムで仕事をしっかりこなして、それプラス選手よりも練習量を踏まないといけない。負担はすごく大きいなと感じていたので。より競技に専念できる環境というものがあるっていうのが、すごくうれしいです。例えば私が故障したとしても、彼女はガイドとして日の丸つけて走るっていうことができるんですよ。

一人のアスリートとして雇用してもらう体制が整えば、それを、なりわいとしてやっていける選手が出てくる。今まで別に本業をやりながらガイドをしていたり、ほぼボランティアでサポートをしてくれたりしていた人たちが、真剣に選手としてアスリートとして目指すという人たちが増えてくることを期待したいですね。

選手も「このガイドと走りたい」って思って頑張るだろうし、ガイドランナーさんも「この選手と走りたい」っていうのがやっぱりあるだろうから。競技者としてはなれ合いが通用しなくなって厳しい世界になるとは思うんですけれども、最終的にブラインドマラソンの普及や競技レベルを上げていくためには大事なんじゃないかなって思います」

―ガイドの重要性が理解されることの意味も大きいですよね。

道下選手

「例えば仕事をする時、目が悪い人って眼鏡なしで仕事してくださいって言われたらできないじゃないですか。そんな感じで、ガイドがいないと仕事ができないんですよ。本当にそれぐらい大事な欠かせない存在なので、重要性を周りに理解していただけたらうれしいなと思います。

障害がある人たちが社会で活躍するためには、一緒に共に歩んでくれる、共に向きあって一緒になってチャレンジしてくれる仲間っていうのは必須なので、誰もが活躍できる社会に向けても、共にガイドの仲間と発信していけたらいいなと思います」

障害がある人が一歩踏み出せるように「楽しさを伝えたい」

一方で道下さんがまだ課題だと感じているのは、スポーツをしたい、ブラインドマラソンをしたいという「障害のある人たち自身からの声」がまだ少ないということでした。

去年11月に行ったブラインドマラソンを体験するイベントでは、サポーターをしてみたいという希望者は一般から多く集まったものの、視覚障害がある人の参加は呼びかけた人だけだったといいます。

道下選手

「視覚障害があるとどうしてもなかなか情報が入ってこなくて、ブラインドマラソン体験会しますって言ってもその情報が耳になかなか入らなかったり。出向くのがすごく大変だったりというのが私自身も最初そうでした。なので、障害がある人たちが集まっている所に自分自身が出向いていって、楽しさを伝えていけたりすることが大事なのかなっていうふうに思います。

私自身、スポーツをしたいと思ってやり始めたわけじゃないんですよ。トップアスリートになりたいと思ってやり始めたわけじゃなくて、スポーツをする楽しさだったり、スポーツで広がる出会いだとかに価値があるのかなと思うので。出会いを広げていくことが多分すごく人生にとって大きな財産になるのかなと。これを私だけに終わらせたくない、みんなに楽しい思いを共有したいなと思っています」

―例えば視覚に障害のある子どもたちが通う学校で話をするとすると、何を伝えたいですか?

道下選手

「何でそんなに仲間ができたのかっていうのはよく聞かれるので、どういうアプローチを自分がしてきたかっていうことを伝えるかなって思いますね。例えば、「ただ走りたい」じゃなくて、「家の近くで30分、朝の午前中に走りたい」って具体的に伝えることで、それならできるかもとか。少し自分にできるかなって思ってもらえたりする。

大会にも出場するだけじゃなくて、「何分何秒をクリアしたい」って具体的に伝える事で、共通の目標になるんですよね。それに向かって一緒にやっていくっていう意味で仲間になってくる。そうすることで、周りを巻き込んでいく。

障害があると、スポーツをしたいと思っても「人の手を借りてまでスポーツすること」に対しての抵抗があったり、「サポートをしてもらっている」っていうような感覚で一歩を踏み出せないっていう人もいる。私自身がそうだったんですよね。一番最初に走り始めるってなったときに、わざわざ時間を作ってもらってロープ持ってもらって「申し訳ないな」って気持ちが最初にありました。でも走り始めたら一方的な関係じゃないんだなっていうのを感じるので。みんなにその思いを伝えられたらと思います」