どう防ぐ? 相次ぐ高齢者の踏切事故

NHK
2022年8月24日 午後4:44 公開

高齢者の踏切事故が相次いでいます。6月には神奈川県藤沢市で88歳の女性が踏切内で転倒し、起き上がることができず列車にひかれて亡くなりました。この事故を取材すると、周囲で気付いた人が押す「非常ボタン」の効果も発揮されておらず、対策の難しさが見えてきました。 

踏切内で転倒 非常ボタンは押されたものの…

事故が起きた現場は、神奈川県藤沢市にあるJR東海道線の歩行者専用の踏切です。踏切の手前には長いスロープがあり、それを上ったうえで4本の線路を渡らなければなりません。地域の住民が買い物や通学などで利用する生活道路です。 

事故に遭った女性は当日、踏切を渡って線路沿いのショッピングモールに行きました。日ごろから、つえをついて一人で出かけていたといいます。 

近所に住む男性 

「つえを突いて普通にゆっくり歩いていくというような感じで、すごく不自由に見えるとかそんな印象は受けたことはないですね。事故があるなんて思わなかったので、びっくりしました」 

取材をもとに事故の状況を再現しました。女性は帰り道、買い物袋を提げて踏切に入りました。ところが途中で警報機が鳴って、遮断機が下りたあとに転倒。なかなか起き上がることができず踏切内に取り残されました。 

非常事態を運転士に伝える唯一の装置が「非常ボタン」です。ところが事故があった午後2時すぎ、女性以外に周囲に人はいませんでした。踏切内の異変に気付いたのは、線路沿いの道路を走行中の車に乗っていた人でした。道路脇に車を止め急いで非常ボタンを押したものの、すでに時速120キロの列車が接近していたのです。運転士は女性の姿を見てブレーキをかけましたが、間に合いませんでした。 

高速で走る列車が止まるにはどれくらいの時間がかかるのか。元運転士にシミュレーターで確認してもらいました。 

私鉄の元運転士 岩倉高校運輸科 大日方樹 教諭 

「いま100キロくらいですね。非常ブレーキかけます」 

時速100キロの場合、停止するまで27秒かかり、およそ380メートルの距離が必要でした。 

「当然(踏切内にいる人を)確認して見つければ非常ブレーキをかけるということになりますけれども、すぐ気付いたとしても、それだけの距離がどうしてもかかってしまいますので、すぐには止まれないという状況が言えるかと思います」 

今回の事故のように踏切で転倒するなどして列車にはねられたり、危うくはねられそうになったりしたケースは、昨年度、全国で少なくとも16件あったことが取材で分かりました。(国土交通省「運転事故等整理表」(令和3年度)をもとにNHKが集計)

事故を防ぐための対策は?

今回は事故を防げませんでしたが、まず踏切の周囲で危険に気付いたら非常ボタンを一刻も早く押すことが大切です。 

そのうえで抜本的な解決策としては、線路の高架化や、高架橋や地下道を整備するという方法があります。しかし工事には多額の費用と長い年月がかかるため、すべての踏切を変えることはできません。 

また踏切を統廃合するという手段もありますが、地域の利便性が損なわれるとして、住民の理解を得るのが難航するケースが多いということです。 

さらにJRをはじめ各鉄道会社では、通行量の多い踏切には主に車を検知するための装置を設置しています。ただ、踏切内で転倒した人などを検知することは難しいとされてきました。 

踏切内の人 AIが検知

そこでいま、踏切内にいる人も検知できる新たなシステムを導入する動きが出てきています。兵庫県の山陽電気鉄道では去年7月から、AIを使って踏切の安全を確認するシステムを導入しました。 

踏切付近にカメラを設置。これはシステムが効果を発揮したときのカメラの映像です。自転車に乗った人が踏切内で転倒しました。 

この映像をAIが解析し、遮断機が下りた時点で取り残されている人を検知。すると下の画像の黄色い矢印で示した赤い信号が自動で光って、運転士に異常を知らせるというしくみです。このとき男性は自力で踏切の外に出ることができましたが、踏切に向かってきていた列車の運転士は、赤い信号を見てブレーキをかけました。 

山陽電鉄ではこのシステムを、まずは高齢者などの利用が多い2か所の踏切に設置。それぞれ1年間で100件以上を検知し事故を防ぎました。 

山陽電鉄 鉄道事業本部 井上俊行 鉄道営業部長 

「(踏切で)押しボタンを押してくれる人がいない。そういったような状況になった時に自動的に人を検知するしくみはないかと考えました。歩くスピードが遅いとか、そういう通行人の方を列車事故から守るという効果が発揮できているんじゃないかなと思います」 

ただ、このシステムは効果がある一方で、AIが雨や日光の影響を受けて誤って赤信号を出したこともあり、検知の精度を上げていくことが課題となっています。 

首都圏では、西武鉄道や小田急電鉄でもAIを使った同様のシステムの導入をめざしています。JR東日本では、レーザー光を照射して踏切内の人などを検知するシステムを940か所に設置していて、さらなる設置を検討しています。 

個々の事故を軽視せず しっかりと検証を

システムの普及とともに、いまやるべきことは何か。 

鉄道の安全対策に詳しい関西大学社会安全学部の安部誠治教授は、鉄道会社による安全対策が進んだ結果、踏切事故は年間200件を切るところまで減少したものの、近年の発生件数はほぼ横ばい状態だと指摘。今後さらに減らしていくには、踏切事故被害者のおよそ4割を占める高齢者への対策が重要で、高齢者が被害に遭った事故の検証を行う必要があるといいます。 

関西大学社会安全学部 安部誠治教授 

「踏切には個性がそれぞれありますから、それぞれの踏切の特徴に合った対策を取っていくことが重要です。個々の起こった事故を軽視することなく、その原因がどこにあったのかということを可能な限り調べて対策に生かすということが必要だろうというふうに思います」 

鉄道会社は、事故などがあった場合、国へ報告することが義務づけられています。ただ報告書を見ると、事故の詳細が記されていないものも多く見られました。鉄道会社は事故をしっかり検証し、国も鉄道会社に詳細な報告を求めて検証を促していくことが重要だと感じました。 

(社会部記者 橋本尚樹 、おはよう日本ディレクター 馬渕茉衣) 

【2022年8月1日放送】