大竹しのぶさんが、10月末から、新たな舞台に挑んでいます。
演じているのは、医療機関のトップを務める優秀な医師。
しかし、担当していた患者の死をきっかけに、人々から批判され、インターネット上でひぼう中傷を受けるなど、現代社会が抱える数々の問題に直面していきます。
コロナ禍で分断が深まった今だからこそ、「この役を演じる意義がある」という大竹さん。
放送では紹介しきれなかったインタビューも交えて、お伝えします。
(インタビュー:桑子真帆アナウンサー / 取材:三木謙将ディレクター)
いま 舞台に立てる喜び
桑子:はじめまして。桑子と申します。
大竹:はじめまして。よろしくお願いします。
桑子:本番後のお疲れのところありがとうございます。
大竹:ありがとうございます。
桑子:無事に幕が開いて、いま率直にどんなお気持ちですか?
大竹:きょうも無事に終えることができてありがとう、来てくれてありがとう、私たちの芝居を見てくれてありがとう。本当に感謝しかないです。 いつも劇場が満席で、当たり前のようにお客様が入ってくださるのは普通のことじゃないんだなと、この1年半で痛感して。本当に誠意を持って芝居をしたいなと思いました。 一番前に座っていらした男性が立ちあがって、すごい真剣な顔をして拍手をしてくださったときには、「あーうれしいね。きょうも喜んでもらえてよかったね」って、みんなで、その拍手に感動していました。
社会問題が詰め込まれた現代劇
大竹さんが主演を務める「ザ・ドクター」は、もともとイギリスで上演され、高い評価を受けた社会派の現代劇です。
作品には、さまざまな社会問題が詰め込まれています。
たとえば、医学と宗教の対立、階級格差、ジェンダー、人種差別、ネット上でのバッシング・・・
こうした解決しがたい問題が、次から次へと、大竹さん演じる主人公にふりかかります。
一方、登場人物たちは、立場や考えの違いによって、徐々に分断を深めていきます。
そして、医療機関の医師たちの対立、政治を巻き込んだパワーゲーム、果てはテレビや世論を騒がす大きな問題に発展していくのです。
大竹:世界でいま起こっている問題とか、昔からずーっと考えなければいけない問題っていうのを、いまそこの舞台で、いままさに論じられている、ということを体感してもらえたら、すごくうれしいなと思います。
いま 自分の意見を持ち 議論を交わす大切さ
作品の大きな特徴は、『会話劇』であるということです。
登場人物たちは、周囲に流されず本音をぶつけ合い、自分の言葉で、自分の考えを表明し、議論を繰り返します。
そのやりとりの応酬に、観客は圧倒され、目が離せなくなっていきます。
大竹:やっぱりお客様がすごい集中力で見てくださっているのが分かるから、それはほんとうに喜びですね。何か、これどうなのかなと思っていたんですけれども、私たち以上にお客様のほうが分かってくださっているなと感じます。
桑子:きょう私も客席で見て、その客席の緊張感っていうんですか。
大竹:疲れたでしょ…?ごめんなさいね?
桑子:疲れたか疲れてないかで言ったら、疲れました(笑)
大竹:あはは(笑) 日本って、そんなに自分の意見を言うということが、実はあまりないんだけど、でもやっぱりそれは大事なことなんじゃないかなとも思うし。もっと自由にいろんなことを話せる知識とか知性とか、何か人間であるということを、自由に話せる国であってほしいなって思いますね。
“生きた議論” 演じるために
社会問題について、生きた議論を交わす会話劇。観客の心をつかむためには、台本のせりふを自分の言葉にする必要があります。
大竹さんは稽古の間、原作の空気感や社会背景を少しでも理解しようと、イギリスで上演した際の台本と日本語の台本を読み比べるなど、せりふと格闘し続けていました。
稽古にお邪魔した際のインタビューでは、次のように話していました。
大竹:今回は、ディベートや話し合いのシーンが多いので、言葉だけで表現しなくてはいけない。しかも人種差別や宗教の問題など、やっぱり日本人にはない問題意識があるので、観客がイメージがわくような言葉を使いたいと思うんですけども、やっぱりちょっと難しいところがあるので、そこをもっと分かりやすくしたいと思います。
“すばらしい論争”ができたら それが喜び
インタビューの場に、特別に台本を持ってきていただきました。
そこには、より良く演じたいせりふの箇所に、舞台の幕が上がった今も、たくさんのふせんが貼ってありました。
大竹:ふせんを貼って、自分でそれを習得できたらふせんをはがすっていう。
桑子:いま貼ってあるということは、まだ自分の中ではがせないものということですか?
大竹:そうですね。大体はもう分かっているんですけど、まだはがさないほうがいいかなと思うんです。
桑子:そもそも今回の舞台は会話劇で、ものすごくせりふの量も多くて、頭がパンクしそうにならないんですか?
大竹:でも、うーん、みんなすごく真面目ないいチームで、パンクしそうになりながらも、その苦しみをともに分かち合っているという感じですかね。その苦しみを分かち合いながら、“すばらしい論争”ができると、すごく喜びになります。
常に前向きに生きる 大竹さんの極意とは
仕事に対して常に前向きな大竹さん。その秘訣(けつ)を聞いてみました。
大竹:あんまり未来を見据えていなくて。一週間先ぐらいしか見ていなくて。お芝居をやっているときは、本当にこの1回のためだけに生きているかも。振り返ってみて、「こんな楽しかったんだ人生は」ってなればいいと思うから。今はあしたの(開演の)1時しか考えていない。 今までの中の今日が、いちばん最高でなくてはいけないし、きょうよりあした良くなりたいなというのは思います。
桑子:疲労などはないですか?
大竹:今のところないですね。全然大丈夫です。
桑子:すごいですね。
大竹:感情を解放するというのはすごい…疲労回復になります(笑) 中途半端にやる方が気持ち悪いでしょう。
桑子:そうですね。皆さんこれを胸にあしたも頑張りましょう。
大竹:ありがとうございました(笑)
【放送を終えて】
大竹さんが教えてくださった、
「知性をもって、人と議論することの大切さ」
できているだろうかと、自問しながらお話をうかがいました。
そして、
「目の前の仕事、その1回のために生きる」
「今までの中できょうが最高でなくてはならないし、
きょうよりあしたがより良くありたい」
とても勇気をいただいたなと思います。
大竹しのぶさん、本当に素敵な方だなと、改めて心から思いました。
【2021年11月10日放送】