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“女の本性”ネタに笑いをとれ 密着!女性落語家の新作作り

NHK
2021年6月21日 午前11:16 公開

熊さん、八っつぁん、ご隠居さんなど、落語の主人公は男性ばかり。話し手にもまだまだ女性は少数です。男性目線の落語に、女性の視点を盛り込んだ落語で人気の三遊亭遊かりさんは、女性が主人公の落語をゼロから作り始めました。女性の本性を笑いで表現できるのか、挑戦に密着します。

女性を描く 落語家の挑戦

落語家の三遊亭遊かりさん。「真打ち」の一つ手前、「二ツ目」です。落語界で活躍する女性はまだまだ少数。楽屋での着替えも男女一緒という環境のなか、日々奮闘しています。女性ならではの落語に、三遊亭小遊三さんも期待。

三遊亭小遊三さん 「僕らが落語やる時に、女の気持ちっていうのはね、あんまりよく分かんないですからね。女性がつくり替えていくでしょう」

“女の本性”で新作落語を

遊かりさんは今、女性の欲や本性を赤裸々に表現する新作落語に挑んでいます。

三遊亭遊かりさん 「私から見える人間を描く。落語家としての私の生き方」

落語の新しい境地は開けるのか。密着しました。

私たちが取材を始めたのは4月。コロナ前と比べ入場者収入は半分以下。新たに始めたライブ配信も、一人で準備します。

三遊亭遊かりさん 「(機材は)全部借りものですよ。お金もないし」

この日の独演会で披露したのは、遊かりさんがアレンジした古典落語「権助提灯」です。主な登場人物は商家の主人に、妻と妾。女性同士が主人を押し付け合ううちに、主人が行き場をなくして寝床にたどり着けないという落語です。

ある夜。突然やってきた主人を、体よく追い返した後の、妾の愚痴です。

三遊亭遊かりさん 「ああ、びっくりした。急に来るんだものね。今日はね、いいお芝居見てきたんだよ、歌舞伎座でね。最高だったのよね。今日はね、仁左さまの夢見て寝ようって決めてたんだもんね。そんな晩に旦那様の、あのがんもどきの顔見てちゃねえ、台無しだもんねえ」

実は元々の落語は男性目線。女性の心の奥底は描かれていませんでした。女性の心理描写を大胆に盛り込んだ落語こそ、遊かりさんの人気の秘密です。

主人が妾のところにいき、一人で羽を伸ばせると思い込んでいた妻も、戻ってきた主人を追い返しました。

三遊亭遊かりさん 「どうしてこんな晩に帰ってくるんだろうね。今日はいいお酒が入ったんだよ。磯自慢の純米大吟醸。うーん、いいねえ。魚勝からね、ブリの白子が届いてさ、これがまた合うんだよね。うん、とろけるよ」

三遊亭遊かりさん 「昭和の年代の間の女の人って“女の人はこうでなくちゃいけない”みたいな感じってあったと思うんですよね。たとえば、落語だったらオナラっていうのが出てくる噺を女はやらないほうがいいとか。男の人からみると、ぎょっとするのかもしれないですけど、でも、もうそのギャップで楽しめる時代になってると思うんですよね」

震災を機に38歳で落語界へ

遊かりさんが落語の世界に飛び込んだのは、38歳の時です。それまでは、百貨店でお酒の販売員をしたり、バーや飲食店などで働いたりしていましたが、転機となったのは東日本大震災です。

三遊亭遊かりさん 「新宿の大きなスクリーンで津波の映像とかを見て、みんなでぞろぞろ歩いて帰ったり、そういう時に東京で一人暮らしをしていて、恋人がいなくて、さみしくて。落語のCDを、CDショップに通って1週間に10枚借りて1000円だったのかな、それをもう1か月の間ずっと聞きまくったのが一番最初です」

古典落語にほれ込んだ遊かりさん。寄席に通いつめ、三遊亭遊雀さんに弟子入りを志願。1年3か月後、ようやく弟子入りを許されました。

“女の本性”で「笑い」をとれるか

遊かりさんは、5月下旬の落語会に向けて、新たな挑戦をしていました。「落語のアレンジ」ではなく、完全にゼロから作り上げた落語を披露するのです。主人公は、お熊、お花、お寅。世代の異なる3人の女性が、江戸から伊勢神宮へお参りの旅に出る噺です。

江戸時代、お伊勢参りは、主人の許可を得なくても行くことができ、「抜け参り」とも言われていました。普段は家事など制限のある生活を送る女性たちが、自由を得たら何を思うのか。

ディレクター 「どういった会話がでてきそうですか?」

遊かりさん 「うーん」

女性の本性をあぶり出し、笑いにもつなげる。難しいお題のようです。

お披露目まで残り10日。もやもやしたままの遊かりさんは、気分転換も兼ねて美容室にやってきました。

遊かりさん 「今旅をする女の人たちとのこと書いててさ、彼女らの欲求がいまいち見えないんだよね」

遊かりさんは30年近くこの美容室に通っています。いつのまにか、落語の悩みを相談していました。

美容師 「今日来たご年配の人はすごい食べることに貪欲で、80なんぼ超えてるんだよ。福井県まで蟹食ってきたとかさ」

遊かりさん 「いいねいいね」

美容師 「俺、そういうのないの。そこまでの、何々を食べたいから何々に行くとかさ。その話聞いて“おお”と思って。すごい貪欲な人だなと思ってさ」

遊かりさん 「そうね。欲っていう観点はすごくいいな」

遊かりさん 「ありがとう、来てよかった。帰って書くよ」

緊張の初披露は“ぶっつけ本番”

お披露目の日。台本は、当日の朝ようやく書きあげたばかり。

全体を通した稽古は、一度もしていません。

遊かりさん 「伊勢海老だろ、牡蠣だろ、それから鯛に、ああ、そうだそれから伊勢うどんに、赤福もあったね。ばあさん、まだ食う気かい?」

話は次第に「食欲」から「女の色欲」へ。お寅が、最も若いお花へ、変な男にひっかからないよう旅の心得を語り出します。

遊かりさん 「女だけの旅は危ないんだよ。だからさ、そんなピラピラしたきれいな着物を着てちゃいけない。ちゃんと身分を隠さないと。それでね、お前みたいに可愛い顔はね、男たちから狙われちまうから、だからさ、お岩さんみたいな顔にしとけばどこへ連れてったって大丈夫なんだよ」

旅の道中、3人は、現地の案内人と出会えず途方に暮れていました。
すると、ある男性から声をかけられました。

遊かりさん 「姉さんたち、宿が見つかんないのかい。俺はこれから山田で宿とってんだけど。よかったら、一緒に来ないかい?ああ、どうもありがとうございます。いやでも、一緒っていうのはね。いいじゃないか、お熊ちゃん、この人いい男だよ。世の中でね、いい男に悪い人はいないんだよ。ねえ。いやあ、いい男だね。令和でいうとね、西島秀俊と木村拓哉を足して2で割って、上から三遊亭遊雀をパラパラっとかけたぐらいのいい男だね」

あれほど知らない男には要注意と言っていた3人。案の定…

遊かりさん 「私たちの荷物はどこ行っちゃったんだい?あん中に全財産入ってた。もしかしてあれ、護摩の灰?泥棒だ、ちくしょう」

遊かりさん、目指した落語には近づけたでしょうか?

遊かりさん 「出来はものすごい反省してます。落語は、面白くなくちゃいけない、笑えなくちゃいけないので。引きずらないようにしようと思います。そして、怖がらないように。真打になる時には、この借りは必ず返すぞ、みたいな感じですかね」

(おはよう日本 ディレクター 野澤咲子)

【2021年6月6日放送】