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「男だから」にとらわれない 68歳男性がジェンダーギャップを学ぶ理由

NHK
2021年11月19日 午後3:13 公開

「自分も変わらないかん」

そう語る68歳の男性。かつて「家を継ぐのは男の役目」と考えてきました。

今、「ジェンダーギャップ」について学びながら、自分が抱えてきた“辛さ”と向き合っています。

「男だから」という意識にとらわれてきた男性の変化を、半年にわたり取材しました。

(おはよう日本ディレクター 依田真由美)

“ジェンダーギャップ解消”掲げたまちで出会った男性

ことし(2021年)4月に「ジェンダーギャップ対策室」を設置した兵庫県豊岡市。地域や企業と連携して対策に取り組み、全国から注目されています。

対策室と連携しモデル地区となっている地域の一つが、日本海に面した北部の竹野地区です。この地域では、勉強会を開いたり、役員の女性の数を増やしたりするなどの取り組みを進めてきました。

これまでの取材内容はこちらから

取材を始めてまもなく、印象に残る出会いがありました。竹野地区の役員会で副会長を務める山根秀次さん(68)です。ジェンダーギャップ対策に取り組む必要性は感じる一方で、変化への戸惑いを率直に話してくれました。

山根さん

「少子高齢化の波が、わーときている。そうすると(伝統行事などの)女人禁制は守れなくなってきている。女の子が入ってきたりして、まあ仕方ないという空気も生まれつつあるんだよ」

ディレクター

「『仕方がないな』で変わるのが違和感を感じてしまう」

山根さん

「ぼくらからすると仕方ないっていうのは偽りのない気持ち。依田さん(ディレクター)からするとそこが違うんだよって言いたいんでしょ。それが私のあなたのギャップなんですよ」

「家を継ぐのは男の役目」と思い続けて

それでも山根さんは、ジェンダーギャップについて学ぼうとしています。なぜなのか。

自宅に話を聞きに行くと、まず見せてくれたのは居間に飾られている先祖の写真でした。

山根さん

「2代目、3代目、4代目・・・私で5代目になります」

山根さんは警察官として勤務し、定年退職後は家と田畑を守りながら妻とふたり暮らし。幼いときから「家を継ぐのは男の役目」と周囲から言われ続けてきました。自由に進路を選べないつらさを感じながらも、しかたのないことだと考えてきました。

山根さん 「(進路の)選択肢が限られちゃうんですよ。(家に)帰らなあかん、帰らなあかんって。大学のときも就職先を限られて、どこかに出て行って飛び跳ねるというのはなかったです」

息子に「涙ながらに謝った」

山根さんは、いずれは、息子が跡を継いでくれるものと考えていました。

しかし10年ほど前、転機が訪れます。

就職で地元を離れた息子から「跡を継ぐ気はない」と言われたのです。

山根さん 「息子に泣かれたこともある。自分が親父や親戚、おじさんたちからそうやって言われて自分が嫌だったのに、今度は息子に、同じように『おまえが継いでいくんだ』って、やっちゃってたんですよ。子どものときからずっと。なので、息子はものすごくそれがプレッシャーだったと言ってました。息子に謝りました、おれ。『お前の人生を俺が決めて』って、涙ながらに謝りました」

「男だから」「女だから」から自由になって、選択を

息子を追いつめてしまったことを悔やんできた山根さん。

地域でジェンダーギャップについて学ぶうちに、自分にも関わる問題ではないかと考えるようになりました。

ジェンダー問題の専門家を招いた勉強会に参加したときのことです。「男だから」「女だから」といった、性別によって役割を固定することが、格差や生きづらさにつながるという話を聞きました。

立教大学 萩原なつ子教授

「『女性だから』『男性だから』とかたまりで見ない。とても大事なことです。長男だから家を継がなきゃいけない、これも実はジェンダー(の問題)なんです。ジェンダーギャップ解消は女性の話、みたいになっていることが多いのですが、実はそうではなくて男女共通の話なんです」

研修会の後、山根さんは講師に自分がこれまで悩んできたことを打ち明けました。

山根さん

「跡取りを押しつけられて・・・おやじからおじさんから。選択肢なんかなかったです。学校出たらもう帰ってこなあかんのですよ」

萩原さん

「(山根さんは)本当は何になりたかったんですか」

山根さん

「本当の本当はね、僕は理数系の大学を出させてもらったんだけど得意じゃないんです。実は文科系のこともやってみたかった」

萩原さん

「固定的に女性はこうあらねばならない、男性はこうあらねばならないということからはちょっと自由になっていきましょうよと。その上で選択する(のが大事)」

山根さん

「『~だから』という固定観念(をなくすこと)は僕も賛成です」

「時代が変わるなら 自分も変わらなければ」

「男は家を継ぐもの」と考えてきた山根さん。先祖から受け継いできた田畑をどうするか、考え続けてきました。今は、無理に息子に継がせるのではなく、同じ地区の人たちに声をかけて組合を作り、地域全体で土地を守っていこうとしています。

山根さん

「息子には息子の世界があるし、それを無理やりというのも時代にそぐわないですもんね。時代の過渡期かな。時代が変わってくるなら自分も変わらないかんですもんね」

山根さんは、今もつい孫に「男だから泣くな」と言ってしまうこともありますが、言ったあとに「こういうことは言ってはいけない」と気づいて反省するようになったと話していました。次の代に自分たちが持っている無意識の思い込みを押しつけないことが大事だと考え、行動に移し始めています。

無意識の思い込み 押しつけるのは誰?

「家を継ぐ」以外にも、「家事や育児は女性がやるべき」「男性は仕事をして家計を支えるべき」といった性別による無意識の思い込みは数多くあります。

2021年9月に内閣府男女共同参画局が発表した「性別による無意識の思い込みに関する調査研究」によると、性別に基づく役割や思い込みを直接言ったり感じさせたりした人として、最も多くの項目で挙げられたのは、男性は「父親」、女性は「男性の職場の上司」となっています。

なぜこうした結果になるのでしょうか。

ジェンダー問題に詳しい京都産業大学の伊藤公雄教授は

「現代社会がいまだに「男性社会」であり、男性のルールが社会のルールになっていることが多いため、男性がジェンダー問題に対して気づきにくいことが背景にあるのではないか。そのため、他人や自分に対しても古い性別役割のイメージに縛られがちになってしまう。

強い立場にいる人こそ、自分の中にある思い込みにまずは気づくことが重要。そのためにジェンダーについて学んだり、身近な人たちと性別による思い込みがないか率直に話し合ったりしていくことが大切だ」

と話していました。

ジェンダー平等を進めるためには、賃金格差の解消や意思決定層の女性の数を増やすことは重要なことだと思います。それと並行して、意識の改革も大切だと感じました。ひとりひとりが生きやすい世の中になるように、これからも取材を続けていきたいと思います。

【2021年11月15日放送】

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