8月20日から22日までの3日間、2年ぶりに新潟県湯沢町で行われた「フジロックフェスティバル」。
全国の感染者数が2万5000人を超える感染のピークともいえる中の音楽フェスティバル開催に、賛否が分かれました。
フジロックで感染は拡大しなかったのか。開催から1か月後、県に取材したところ「フジロックの関係者や来場者の感染が県内では確認されなかった」と答えました。
政府がイベント開催の制限を緩和する方針を示し、議論が行われていますが、フジロックはどう開催されたのか。舞台裏を取材しました。
大規模野外音楽フェス 感染対策は
8月20日、フジロックフェスティバルが始まりました。
この日の全国の感染者数は過去最多2万5876人を記録していました。
会場では、様々な感染対策が行われていました。
まず、入場ゲートでは検温と消毒のほか、感染者が出た際、経路を追跡するため、体調と個人情報を入力したアプリの提示を義務化。酒類を持ち込んでいないか、持ち物検査も行います。
さらに楽しみ方にも変化が。大声で歌ったり、客どうしが肩を組んだりする音楽フェスならではの行為を禁止しました。
更に、チケットの販売数を減らした上、希望者には無料で払い戻しをする異例の対策を行った結果、開催3日間で来場者は延べおよそ3万5449人と例年の3分の1以下となりました。
会場に設けられた運営本部で医師たちと共に、打ち合わせを行っていたのは、イベント運営会社の石飛智紹さんです。1年以上前から、国の対策推進室や地元の医師会などの意見を聞きながら感染対策に取り組んできました。
更に期間中、新たな対策も打ち出しました。急きょ抗原検査を無料で何度でも受けられるようにしたのです。感染対策の費用は総額で1億円を超えました。
コロナ禍の音楽フェス業界の危機
それでも開催する理由は、音楽フェス業界への危機感です。
去年の市場規模は、前の年よりおよそ98%減少しています。
中止となれば、関係者が職を失うリスクもあると言います。
フジロックを主催する 石飛智紹さん
「音楽は人の前で生まれると思っています。そういう場を提供する側としては、感染を防止して、きちんと音楽を届けられるような場を作る。それが、われわれの仕事じゃないか。いまも次々と各地の音楽フェスの中止が決まっていますが、彼らの分も合わせて踏ん張らなくちゃと思います」
地元の思いは…
しかし地元では、複雑な思いを抱える人もいました。
タクシー運転手
「本当は、開催しない方が良かったんじゃないかなと思ってるんだけど、フジロックがないと湯沢終わりだもんね。冬もスキーもほら、最近お客さん少ないからね。大変ですよ」
地元の女性
「経済が大事だと言うけれど、やってもし(陽性者が)出たら、それの方が大変だと思うんだけど」
それでも新潟県や湯沢町は開催を見守る姿勢を示してきました。
湯沢町などによると、例年フジロックの経済波及効果は県内だけで100億円以上。
中止になれば大きな打撃です。そこで町は開催に間に合うように観光業などで働く人たちを対象にワクチン接種を行うなどして支えてきました。
フジロックは地域の活力になると、開催を心待ちにしてきた人がいます。
金澤健太さん。町で親子2代にわたってホテルを経営しています。
22年前、バブル期のスキーブームが去って、町が活気を失う中、新たに始まったのがフジロックでした。金澤さんのホテルも、例年、開催期間中は海外からも客が訪れるように。湯沢町はフジロックの町として知られるようになったのです。
地元にとっては経済効果以上の価値があると感じています。
金澤健太さん
「自分が中学生のときからフジロックがあるので、それこそ人生の3分2フジロック関わってる形になりますが、町にとって決して切っては切れないイベントになってると思います。地域の活性化のためにも宿のモチベーションのためにもぜひできる限りの感染対策をして、覚悟を持って対応していきたいと思っています」
悩みながらの参加
コロナ禍のフジロック。
悩みながら参加している来場者も多くいました。
来場者
「来るのをやめた友達もいますし、どうしようかなとは思ったんですけど、対策をしっかりして…」
「来る前に自主的にPCR検査をしてきました。地元の方にも御迷惑をかけたくないなっていう思いがあるので」
「これに来るために全部のイベントを我慢させてもらいました。せっかく開催するんであればしっかり準備を整えてこようかなと思って」
「みんながちゃんとルール守ってれば、こういうライブの灯も消えないのかなと思って来ました」
出演したアーティストはおよそ140組。
およそ5000人のスタッフが関わり、2年ぶりのフジロックは終わりました。
コロナ禍のイベント開催 今後必要なことは
開催から1か月。改めて主催者の石飛さんに取材しました。
課題の1つとして、主催者の石飛さんは、演奏が終わった後、人が集まりやすい状況ができていたこともあり、改善が必要だと話していました。
フジロックを主催する 石飛智紹さん
「来年のことを考えながら動いていかないといけないなという意味では、終わったことよりやっぱり未来に対して課題が大きいなと思っています」
また、今後必要なこととしては、ワクチンや検査の拡充に加えて、参加する一人一人の意識も重要だと感じたと言います。
「事業者側がどれだけやっても、感染症なわけですからちょっとした1人の行動で破たんする場合もあるでしょう。その意味では、やはり一人一人がお互いに尊重し合って集まれるような環境をいかにつくっていくかということが、結果としては一番の安心につながるのかなと思います。加えて、ワクチンのことですとか、あるいは直前の検査ですとか、そういったことが制度としてもっと充実、もしくはやりやすいような世の中になれば、さらに安全というものを担保できていくのかなと思います」
取材を通して感じたこと
今回のフジロックでは、主催者だけでなく、来場した人、チケットをキャンセルした人、そして出演したアーティストもいれば辞退したアーティストもいました。
それぞれが選択を迫られた機会になりましたが、来場することを選んだ人たちに話を聞くと、「ルールに従うことでフジロックを守りたい」と話す人が多くいたのが印象的でした。
今後、制限が緩和されると言っても、残念ながらこれまで通りの生活に戻るというわけではありません。
制限が緩和された分、個々人でどのような行動を選択するのか、迫られる場面がより増えてくると思います。どのような選択をしても、しばらくの間はどうすれば感染を拡大させないか、それぞれが考えながら行動することが大切だと感じました。
(取材:おはよう日本ディレクター 依田真由美
新潟局ディレクター 土屋詩美・高橋広大)
【2021年9月21日放送】