この春、ツイッターなどのSNSで「#学童落ちた」が話題になりました。
そもそも「学童保育」(放課後児童クラブ)ってどんな場所なのか、皆さんご存じですか?共働きなどの理由で保護者が昼間家にいない小学生の放課後の居場所として、多くが学校の教室や児童館、公民館などを利用して開かれています。放課後の子どもたちに適切な遊びや生活の場を与え、その健全な育成を図るもので、児童福祉法に基づく、こども家庭庁の事業です。
共働き家庭にとっては必要不可欠とも言える学童保育。それが足りないとはどういうことなのか。現場にいま何が起きているのか。NHKはインターネット上でアンケートを独自に実施し、学童保育に関する困りごとや悩みなどの意見を募集したところ、現役の放課後児童支援員や、子どもを学童保育に通わせている親から、さまざまな問題を指摘する声が届きました。
そこからは、「量」も「質」も足りない学童保育の現実と、そのしわ寄せが現場に来ている実態が見えてきました。
(社会番組部・竹内はるかディレクター、首都圏局・氏家寛子記者
おはよう日本・蓮見那木子ディレクター、小田翔子ディレクター)
アンケートに寄せられた100件の声
共働き家庭の増加に伴い学童保育の利用者は年々増加していて、学童保育はいまや社会インフラとも言えます。学童保育(放課後児童クラブ)に登録している児童数は、この約20年で3.5倍に増加しました。去年(2022年)は、学童保育を希望しても入れない待機児童が全国で1万5000人余りと、3年ぶりに増加に転じました。
今回、学童保育に関して意見や具体的なエピソードをインターネット上で募ったところ(2023年4月6日~)、約100件の声が寄せられました。学童保育を利用する(または過去に利用していた)親たちからは「指導員さんたちには子育てのパートナーとして支えていただいた」「少人数の家庭的な学童保育で安心して子どもを預けられている」といった意見があった一方で、ある悩みを訴える声も目立ちました。
親の悩み 高い”小1の壁“ 開所時間のミスマッチ
その悩みとは、「開所時間が勤務時間と合わない」など、働き方と学童保育のあり方がミスマッチだというものです。これは“小1の壁”と言われていて、保育所と比べると学童保育の開所時間が短いため、子どもが小学校に入学すると、これまで勤めてきた仕事を辞めざるを得ない状況になるというのです。
「学童保育の預かり時間が短く、パート・転職など働き方を変える必要アリ。働きにくい」
「保育園時代は午後7時まで仕事したが、学童保育は午後5時までなので時短にするしかない」
「夏休みは午前9時スタートで、仕事の都合とあわない。働く人の実態とあっていない」
「新小1のワーママです。学童保育の条件があわず、退職しました。パートとして働く予定なので夏休みだけでも預かってほしい」
学童保育は、厚生労働省が出した「放課後児童クラブ運営指針」で、開所時間について
▼授業のある平日などは1日につき3時間以上
▼授業のない夏休みなどは1日につき8時間以上
の開所を原則とするとされています。
一方、認可保育所の場合は、親の就労状況によって利用できる時間は変わりますが、最長で11時間利用できることになっています(保育標準時間)。そのため、地域によっては保育所と学童保育で開所時間にギャップが生じ「子どもが保育園児だったときと同じ働き方ができない」という悩みを親たちが抱えるという事態も起きているのです。
施設も人手も足りない!
一方、学童保育の運営に関わる人たちからは、利用ニーズの高まりに施設の数や職員数が追いつかないという声が寄せられました。
「施設も人手も足りていないのが現状。民間の一軒家やマンションの一室などを自治体の補助を受けながら借りているが、近隣住人の反対などさまざまな問題を抱えている。人手に関してもパートや正規のスタッフも足りておらず、人間関係や給与面、身体的に負担が大きく辞めていく人が多い。予算的に正規指導員のスタッフは2名しか常設できず、研修や会議などで時間に追われる日々です」(放課後児童支援員)
「慢性的な人手不足。若い人が辞めていく。高齢者の雇用が多いが、指導員がけがをするなどトラブルも」(放課後児童支援員)
学童保育の質に疑問の声も
また、利用する親と放課後児童支援員の双方から、学童保育の「質」に関して懸念する声も寄せられました。
「支援員の目が行き届かないことも多々あり、けがやトラブルもあった」(過去に学童保育を利用していた親)
「定員を超える人数が在籍しており、遊ぶのに十分な場所が確保できず、子どもたちが希望する遊びを我慢してもらうことがあり申し訳なくなる。我慢をさせていることがつらい」(放課後児童支援員)
「抑圧された環境で子どもたちがストレスを感じているのか、いじめが発生。わが子は不登校になりました」(過去に学童保育を利用していた親)
学童保育の質を担保するための「基準」とは?
「定員を超える人数が在籍」「目が行き届いていない」こうした状況はなぜ起きてしまうのでしょうか。
厚生労働省は、自治体ごとの事情は踏まえつつ、保育の質を確保するために学童保育の基準について
▼児童1人あたりおおむね1.65平方メートル以上の面積を確保すること
▼「支援の単位」と言われる1つのクラスあたりの人数はおおむね40人以下
と定めています。
しかし、この国の基準を各自治体がどのように守るかは「参酌基準」とされています。「参酌基準」とは、自治体が、国の法令を十分に参照したうえで判断しなければならない基準を指します。つまり十分に参照したうえであれば、地域の実情に応じて異なる内容を定めていいことになっています。例えば、学童保育の利用を希望する家庭が多い自治体の場合、その地域の実情に合わせて1クラス40人を超えて受け入れることも可能なのです。
支援員を確保するために~処遇も課題~
学童保育の質を上げていくためにはどうしたらいいのか。現場からは、放課後児童支援員の処遇の低さに関しての指摘も相次ぎました。
「指導員全員が非正規雇用。手取りは14万程度。持ち帰り残業もある。ダブルワークする人もいる」(放課後児童支援員)
「地方はなり手がいない。学童保育の時間帯的にフルタイムの勤務は難しいのでパートになりがちで、仕事として学童保育一本では生活が成り立たない」(過去に放課後児童支援員として勤務)
人種や国籍、障害の有無や家庭環境など、子どもたち自身や子どもたちを取り巻く環境は非常に多様になっています。しかし、慢性的に人手不足である学童保育の現場からは、そうしたニーズに十分対応できないという声が聞かれます。どんな環境にある子どもたちも取り残さず、地域で見守っていく。そのための人材確保に向けて、放課後児童支援員の待遇の向上も考えていく必要がありそうです。
「学童保育に通う子どもは家庭で保護者と過ごす時間よりも長い時間を学童保育で過ごすのです。貧困の問題が見えてくることもあり、時には児童相談所と連携するほど重要な職です。子守りではなく、子どもたちの命を預かる仕事なのです。保育の質の向上を求めるのであれば、指導員の給与を上げ、研修や勉強をする機会を増やすことが重要だと思います」(放課後児童支援員)
「発達障害の診断がつく児童が増えている。適切な保育をしたいと意識の高い指導員が自費で研修を受けているが、公的なサポートが不足していて指導員の加配の制度もない。子どもたちにとって良い環境を整えたいのにと歯がゆい思いをしている」(放課後児童支援員)
子どもたちにとって望ましい学童保育とは?
アンケートには、こんな声も寄せられました。
「子どもを朝から夜まで預けっぱなしにする親の方の働きかたを改革するべき」
親の働き方に合わせて学童保育の開所時間を長くするのではなく、親の働き方を変えるべき、という意見です。これまでの学童保育は、子どもたちの健全な成長のためというよりも、「親がいかに働き続けるか」という視点に偏って制度が整えられてきたことは否定できません。子どもたちにとって適切な預かり時間に合わせて、親の働き方そのものを変えていく。そのためには社会全体の理解が必要となります。
一昔前は“鍵っ子”など放課後を1人で過ごす子どもたちも珍しくありませんでした。地域全体で子どもたちを見守るという環境もありました。しかし、地域のつながりが希薄になり、共働き家庭が多数派となった現代において、子どもたちの放課後の安全を守るためには、学童保育の整備と充実は喫緊の課題です。
「地域の防犯メールで児童を狙う犯罪の通知がたくさん届く。3~4年生でも安心できない社会。どうにか大人の目で守れるようにしたい…」(学童保育を利用する親)
ことし4月にこども家庭庁が発足しました。6月には、こども政策を総合的に推進するため、政府全体のこども施策の基本的な方針等を定める「こども大綱」を国は策定することにしています。子どもたちの安全で豊かな放課後を確保するにはどうしたらいいか。国がどんな方針を打ち出すのかにも注目していきます。
NHKでは引き続きみなさんからの学童保育についてのご意見を募集しています
※紹介したアンケートの回答は、適宜、要約・抜粋しています。