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N響「第9」コンサート本番までの舞台裏 コロナ禍で渡航制限も 響け「歓喜の歌」

NHK
2021年12月27日 午後6:51 公開

ことしも年末にNHK交響楽団による「第9」のコンサートが行われました。ベートーベンの交響曲第9番、特に第4楽章で合唱される「歓喜の歌」は高い人気があります。例年、N響の第9は海外から指揮者や声楽家を招いて行われますが、オミクロン株の影響による渡航制限で本番1ヶ月前にゲストが来日できない事態となりました。
メンバーを入れ替えて臨んだ、本番までの舞台裏を追いました。

コロナ禍で向き合った ベートーベンが「第9」に込めた思い

12月20日、リハーサルが始まりました。来日できなくなったイタリア人指揮者に代わり、公演を任されることになったのがNHK交響楽団・正指揮者の尾高忠明さんです。50年のキャリアを誇り国内外のオーケストラで第9を指揮してきました。
尾高さんは一時期、コロナの感染拡大の影響で音楽活動ができませんでした。つらさを感じる日々の中で向き合ったのが、ベートーベンが書いた第9の楽譜(複製)です。耳がほとんど聞こえないなか、第9を作曲したベートーベンがこの曲で何を表現したかったのか、改めて知りたいと思ったからでした。

指揮者・尾高忠明さん

「これ最初4楽章の冒頭なんですけど、激しいものを書いて字体も激しい。そしてここに(強く強調して演奏する)フォルティッシモと書いている。あとからもう1回、赤鉛筆でフォルティッシモって、決して弱く演奏しないでくれって。最初いびつなものが、本当に完成されていくと。そのプロセスがこういうところ(楽譜)から分かって。耳が聞こえなくてつらい人生、でも最後に大変な歓喜を書きたかった、人類愛を書きたかったという熱が手書きというところに(込められていて)彼のパッションをすごく感じる」

「苦難の先に歓喜が待っている」。ベートーベンが第9に込めた思いを表現しようと尾高さんはリハーサルを通してオーケストラと曲を作りあげていきます。

指揮者・尾高忠明さん(リハーサルにて)

「自分の作品に対して怒っている感じで、朗々と歌う」

「お客さんは初めてそのテーマを聴く、なんてきれいなテーマなんだろうって感じるんです。彼のなかで、う余曲折、この短いところ、いまのところ、第9全体の中で最も印象的にしていただけるとありがたい」

「ベートーベンの人格や性格、そういうものをミックスして自分の中で昇華していって、そして尾高の現在の第9ができあがってくる」

人前で演奏できずに失意の中にいた若手音楽家

オーケストラの中には、N響の第9の公演に初めて参加するメンバーがいます。ビオラの三国レイチェル由依さん(23歳)です。去年、東京芸術大学の4年生だった三国さんは、夢だったオーケストラへの入団を目指していましたが、コロナ禍でオーディションがつぎつぎと延期に。その間、演奏の技術を教えてもらうため、演奏している自撮りの動画をビオラの第一人者あてに送ったこともありました。人前で演奏する機会がなくなり、目標を失うこともあったと言います。

ビオラ・三国レイチェル由依さん

「聴いてもらう人がいないとやっぱりさみしいです。泣きながらやっていて、演奏するのも苦だった時期ではありましたね」

再開したオーディションで三国さんは合格。いまは契約団員ですが、正式なメンバー入りを目指して第9に挑もうとしていました。

ビオラ・三国レイチェル由依さん

「大変な時期が続く中で、当たり前だったことが当たり前なことではない、音楽が素晴らしいという私の考えと、第9の4楽章で出る『喜び』というのがすごく自分と共通している部分ではあるので、ベートーベンの音楽の素晴らしさを伝えたい、音で伝えたい」

感染対策と最高の音作りの両立で課題も

一方、本番が近づく中で課題も見えてきました。会場のひとつで行われた、本番さながらの全体リハーサルの初日。感染対策のガイドラインに従って、飛まつ防止のアクリル板を設置したところ…。

指揮者・尾高忠明さん

「オーケストラの合唱のバランスはどうですか?パネルもあるし、相当奥にいらっしゃるのでいまのだと僕たちのこのぐらいまでは聞こえるけど、客席には弱く聞こえる」

客席には小さく聞こえたり、音のズレが生まれたりしていました。アクリル板が音を遮る事に加えて、ホールの大きさや形によって、音の聞こえ方が変わってしまうのです。感染対策を徹底しながら、最高の第9をどう作るのか。調整は本番直前まで続きました。

さらにステージの広さによっては合唱メンバーの人数を減らして本番に臨むケースもありました。合唱メンバーのとりまとめの責任者で声楽家の寺本知生さんは、全4公演のうち2公演は自らの出演を見送る決断をしました。

声楽家・合唱メンバーのとりまとめ役 寺本知生さん

「(コロナ禍で)2年間歌えなかったということはもちろんありますけれど(出演するメンバーで)美しい音楽をお聴かせしたい」

苦難の先に歓喜が待っている ベートーベンの思いをのせて

迎えた、この日の本番。チケットは全て売り切れとなる中、オーケストラと合唱メンバーによる第9の演奏が行われました。
1時間以上続いた本番が終わったあと、ホールは歓喜に包まれました。観客からは「コロナ禍になって一度コンサートに行けなかった、解放された」「第9を聴いていると1年間のいろんなことが思い出されて、音楽は不要なものではなく絶対に必要なものだと感じられた」という声が聞かれました。指揮者の尾高さん、そして初めての第9公演に参加したビオラの三国さんも充実した表情を見せていました。

ビオラ・三国レイチェル由依さん

「お客さんがいるということがまずうれしかったです.やる気がさらにみなぎって、いちばん楽しんで弾けたと思います。来年は正式団員として第9を弾けるようにこれからも頑張りたいです」

指揮者・尾高忠明さん

「きょうはお客様を含めて舞台の上の人に感謝しています。ものすごい演奏をしてくれました。『コロナにみんなで勝とう』『人間が人類愛を持とう』というメッセージをベートーベンさんがくれたと思います」

コンサート本番の様子はEテレで31日夜8時から放送します。番組HPはこちら

(取材 おはよう日本 ディレクター 長尾宗一郎)

【2021年12月27日放送】