戦闘が続くウクライナ。多くの命が失われていくなか「自分にはどうすることもできない、ただ無力だ」 ーー私たちにそう語ったのはロックバンド「クイーン」のブライアン・メイさん。世界的なスターで天体物理学の博士号をもつなど博識のギタリストとして知られるメイさんが、ときに立ち止まりながら「いまできることは何か」を語りました。
(取材:おはよう日本 キャスター 森下絵理香/ディレクター 山野弘明)
なぜウクライナを語るのか
ロンドンの自宅と結んだリモートインタビュー。ロックスターとの対面に緊張気味の私たちの前にメイさんは富士山のTシャツ姿で登場。第一声は日本語で「おはようございます!」
1971年、メイさんはボーカルのフレディ・マーキュリーさんらとともに「クイーン」を結成。1991年にフレディ・マーキュリーさんが亡くなったあとも活動を続けています。
その活動のなかで、バンドの単独公演としては最多となる35万人を動員したのが2008年、ウクライナ第2の都市ハルキウで行われたライブでした。
メイさん
「ハルキウのコンサートは素晴らしいものでした。オープニングから全編にわたって、こんなにうまくいくとは!と驚き、そして、素晴らしい気持ちになりました。ウクライナではキーウでも演奏しました。街全体が、街中の人たちが私たちを見るためにコンサート会場に来てくれたようでした。とても温かい気持ちになったことを覚えています」
そのウクライナが、ライブを行った街が、戦場になりました。メイさんはロシア軍の侵攻が始まると、翌日、いち早くインスタグラムで抗議の意思を表明。そしてハルキウでのライブ映像を世界に向けてユーチューブで公開しました。寄付を募り、ウクライナへの支援につなげるためです。
<ブライアン・メイさんのインスタグラムより>
「ウクライナへの侵攻は世界がこれまでに見たことがない恐ろしい悪の行為で、最も卑劣な行為のひとつです。いま世界が進んでいる方向に、深い悲しみと大きな怒りを感じています。平和な国で、突然、若者が死に追いやられ、兵士として命を捧げなければならないという事実は、説明できないし、決して正当化できません」
抗議の意思表明、しかし…
“ミュージシャンとして迷いなく行動にでた” 聞いていた私たちはそう感じました。しかしメイさんが続けて語ったのはこんな言葉でした。
「映像を公開したことで何かをしている気分にはなります。しかしこれは気持ちだけです。 私はいま自分のことをとても無力だと思っています。私は世界のリーダーではありません。ミュージシャンです。思ったことを口にすることはできても、各国の行動を変えることはできないのです。私にできることは何もないと感じています」
(聞き手 森下アナウンサー)
ーーしかしメイさんは、抗議の意思を示し、支援の寄付をよびかけています。決して無力ではないと思うのです。
「そうあってほしいです。なんというか… 私はふだん公の場では政治について話さないのですが…」
<言葉を選びながら話すメイさん>
ライブを行った街が戦場となり、命が失われている現実を前に、自分には何ができるのか、しばし話すことをやめ、考えをまとめようとしていました。
「…ただ音楽をする。やはりそれしかないのかなと思います。音楽はある種の言語で、伝えるだけではなく受け取ることもできます。音楽はすべての人々が共有できるものです。平和について話し続けること、歌い続けることができます。そして、それが何かの助けになることを願っています」
“現実”を前に いまできること
今回のインタビューは、メイさんが1998年に発売したソロアルバムが、4月22日に復刻して発売されるタイミングで行いました。このアルバムには「アナザー・ワールド」という曲が収録されています。
In another world
Under another sky
I see another story waiting
To be told…
(日本語訳)
別の世界で
別の空の下
語られるのを待っている
別の物語が目に浮かぶ…
「たとえ現実は違っても、私たちはより良い世界にたどり着くことができるのではないか―」そんな願いが込められた曲です。
しかし2022年、世界では戦闘が終わることなく続いています。
厳しい現実、ときに抱く無力感…。メイさんは最後、自らの立ち位置を見定めて、こう言葉を紡ぎました。
「現在の世界は求めていたものであるとは到底言えません。私たちはいま予想もしていなかった世界にいます。このようなことが起こることを傍観していてはいけません」
「家を失いとても傷ついた人たちに、私の愛を届け続けたいと望んでいます。ウクライナの人々が国を再建し、平和を取り戻せると願っています。私たちはいま何ができるのか、彼らを助けるべく、考えましょう」
【2022年4月20日放送】