コロナ禍の介助で… “誰も助けてくれない” 孤立する母親たち

NHK
2022年9月27日 午後2:38 公開

コロナ禍で、障害があっても誰にも助けてもらえず、自宅で苦しんでいる。そんな家族がいることをご存じでしょうか。新型コロナによって福祉サービスが途絶え、追い詰められた2人の母親が実態を語ってくれました。

(徳島放送局 安藤麻那)

施設でコロナが… 障害ある息子と2人きりの待機

徳島県阿波市の福井公子さん(72)は、次男の健治さん(47 )と2人で暮らしています。

健治さんは知的障害や自閉症のため、入浴から歯磨きまで生活のさまざまな場面で介助が必要です。

会話による意思疎通も難しく、気持ちが不安定になると壁に頭をぶつけるなど自傷行為に及ぶこともあるといいます。

<福井公子さん(左)と健治さん>

自宅に2人でいるときは健治さんの安全を確認するため、常に声や物音に注意を払っているという福井さん。

介助の負担を少しでも減らそうと、昼間は福祉施設やヘルパーに健治さんを預け、家事や障害者の家族の交流会に顔を出す時間などにあてていました。

<福井さんが書いた1月のカレンダー 福祉施設を利用する予定だった日に「コロナ」と記されている>

しかしことし1月、利用する福祉施設の関係者が新型コロナに感染し、健治さんは濃厚接触者となりました。

検査では陰性でしたが施設やヘルパーが利用できなくなり、それから10日間2人きりの待機期間が始まりました。

福井公子さん

「施設から連絡があったときは『感染対策を徹底していたのに、なんでうちの施設?』ってすごいショックでした。少し落ち着いて考えてみれば、どこで起きても仕方のないことだと受け止めたんですけど、自分たちもいろいろ気をつけていたので、ちょっとショックは大きかったです」

"散歩のために1日4時間" 障害者ならではの苦労が

福井さんが待機期間中に最も苦労したのが、健治さんの日々のルーティンを変えないことでした。

障害がある健治さんは予定が急に変わると気持ちが不安定になり、大声をあげたり暴れたりすることがあります。

施設やヘルパーに依頼して行っていた散歩などの運動は、かわりに福井さんが人の少ない公園に連れていって行うことにしました。

<健治さんと散歩した公園>

ヘルパーとなら1時間ほどで終わる散歩も、体力がもたず一度に15分ほどしか続けられません。

休憩を挟みながら車で複数の公園を回ったため、散歩に費やす時間は1日4時間に及んだといいます。

夜中も健治さんが何度もトイレで起きたために気が抜けず、心身ともに疲弊する日々でした。

<福井さんに届いた福祉施設からの連絡(8月)>

障害者のケア コロナ禍でより"親頼み"に

待機期間が終わってからは施設やヘルパーを利用できるようになりましたが、8月には再び施設で関係者の感染が確認され、神経をとがらせる日々が続いています。

自身も高齢で感染すれば重症化のリスクがあるという福井さん。

障害がある人やその家族がひとたび濃厚接触者になれば福祉サービスから切り離され、介助も感染のリスクもすべて背負うことになるのはおかしいと感じています。

福井公子さん

「障害がある人のケアが親頼みになっている。普段からそういう状況ですが、コロナになってそれが余計にあからさまになっているのを感じました。コロナ禍になって2年もたつのに濃厚接触になったら全部家族が丸抱えになるのはおかしいと思っています。自宅待機のときは(介助の)助けが求められないので、いつも不安がありました。今は不安というよりも怒りの方が強いです」

"預かる場所はない" 感染しても支援なく

実際に感染したのに福祉サービスや行政の支援が受けられなかったという人もいます。

徳島県の50代の女性は、3人の子どものいずれも知的障害があり、自閉症と診断されています。

食事や入浴、トイレなどで介助や見守りが必要なため、平日の日中は通所サービスを利用して福祉施設に3人を預けています。

<取材に応じる50代の女性(右)>

ところが、ことし8月に施設の関係者が感染。濃厚接触者となった次男がしばらくして37度台の発熱とせきを訴え、感染が確認されました。

症状自体は軽症でしたが、3人の中で最も障害が重い次男は環境の変化に敏感で、自宅で部屋を別々にしたり、マスクをつけたりすることはできません。

女性は子どもたちを介助しながら10日間(当時)の療養期間を乗り切るのは難しいと考え、次男以外の子ども2人を預ける場所がないか保健所に相談することにしました。

<女性の次男(左)と長女>

しかし、保健所から返ってきた答えは、濃厚接触を避けるために子どもを預かる場所はないというものでした。

次男を介助しながらほかの家族と隔離するには、女性が療養先で四六時中付き添うほかありません。

女性は介助が必要な兄姉を家に残すことは難しいと繰り返し説明し、保健所を通じて入院を調整する県の担当課にも問い合わせてもらいましたが、利用できる支援策はありませんでした。

「コロナになって初めて、どこも誰も助けてくれないんだってことがわかりました。一番最初に電話がかかってくるのは保健所からですが、電話口の方は障害や家族の状況への理解がないので、障害者専用の窓口がなぜ無いんだろうって思ったんです。(介助の負担を)分かって欲しくても分かってもらえない。支援が何にもないんだっていう現実に驚き、そういうことなんだ・・・と思いました」

家族全員が発症 支えはママ友だけ

次男は自宅で過ごす居場所がふだんと変わると暴れたりするため、部屋を変えないかわりに介助はなるべく女性が1人で行い、夫には別の部屋で過ごしてもらうようにしました。

入浴の順番が変わることを理解できない次男を説き伏せて家族の最後に入浴させるなど、できる限りの感染対策をしたものの、しばらくして女性に40度近い熱とのどの痛みが出るようになりました。

そして長女、夫、長男と相次いで発熱などを訴え、5人の家族全員に症状が出ました。

女性が発熱しながらも食事の用意や介助を続ける中、3人の子どもは生活リズムが変わったことで寝付きが悪くなり、夜中も誰かが起きている状態が続きました。

女性は2,3時間しか睡眠をとれず発熱外来に行く気力もわかないため、市販の解熱剤と咳止め薬を飲んでしのいだといいます。

唯一、心の支えだったのは、障害者を家族に持つ知り合いがSNSで連絡してくれたり、自宅まで物資を届けてくれたりしたことでした。

全員の療養期間が終わるまでの15日間、障害に対する支援は受けられませんでした。

届かない行政の支援 障害者を織り込んだコロナ対策を

今回のようなケースについて、都道府県の中でも神奈川県は感染した障害者が入院しないときに入所できる介助つきの宿泊療養施設や、介助者が感染した場合に障害者が利用できる短期入所施設を設けています。

取材に応じてくれた2人が住む徳島県は、介助者が感染したときに障害者が利用できる短期入所施設のみ一定の受け入れ枠を確保していますが、「実際に支援するかは自治体の判断だ」としています。

新型コロナの感染拡大以降、全国の障害者福祉施設のうち、クラスターなどが発生した施設は分かっているものだけで1,700件を超えています。この数字の裏側には、支援制度の陰で見過ごされてきた人たちがいる可能性があります。

介護に関する調査研究などを行っている一般社団法人「日本ケアラー連盟」の児玉真美代表理事は、行政の支援が不十分な中で、福祉施設が感染予防のためにサービスを停止・縮小すると、しわ寄せがすべて家族に行くことになると指摘します。

日本ケアラー連盟 児玉真美 代表理事

「コロナ禍で起きる全ての状況において、障害のある人に配慮ができた対策には十分になっていません。何かにつけてすべてが家族に降りかかってきている状態ですから介護虐待や、もっと取り返しのつかない事態が起こるリスクが今、非常に高くなっていると懸念しています。一般の家庭よりも危機的事態が起きる確率が高いということを認識して、細かくフォローを入れることが大事です。病院や保健所、行政は障害のある人たちも地域にいるということを織り込んだコロナ対策をしてもらいたい」

【2022年9月28日放送】