【伊藤沙莉さんロングインタビュー】 "自分を肯定するって難しい。けれど…”

NHK
2022年8月20日 午後8:39 公開

数々のドラマや映画に出演するいま大人気の俳優、伊藤沙莉さん。NHK のドラマ「ももさんと7人のパパゲーノ」で主人公の 25 歳の女性を演じました。

主人公の「もも」には友だちもいてデートもするし、職場では理不尽な電話に謝りもします。そんな”一般的”な日々の中で、「死にたい」気持ちを抱えていることに気づきもしませんでした。ある夏、月曜の朝が来ることが耐えきれず会社を休んだももは、SNS でつながった「死にたい」気持ちを抱えながら生きる人を訪ねる旅に出るのです。

「ももと一緒に旅をしている感覚があった」という伊藤さんは、ふっと差し込む"死にたい気持ち“とどう向き合うか、自分なりにたどりついたヒントを教えてくれました。

(聞き手:森下絵理香キャスター)

インタビューの動画はこちらから (※NHKサイトを離れます)

死にたい気持ちを抱えながら生きる "パパゲーノ"への共感

森下キャスター

今回の作品、見る人皆さん気になると思うのが「パパゲーノ」という言葉だと思うんですね。私は恥ずかしながら知らなかったのですが、伊藤さんは「パパゲーノ」をご存じでしたか。

伊藤さん

私も知らなかったです。自分の地元に似た名前のレストランがあって、最初はそういったイメージでした。

ーももさんが出会う「パパゲーノ」とは、もともとはモーツァルトのオペラ「魔笛」の登場人物に由来し「死にたい気持ちを抱えながら、その人なりの理由や考え方で“死ぬ以外”の選択をしている人」のことだそうですね。私は、例えばリップを忘れただけでも「ああ忘れた、私って忘れ物多いんだよな…」みたいな、すごくネガティブなところに気持ちがふーっと寄っていく日や時間はあるなと思うんです。伊藤さんはすごく明るいイメージがありますが、普段何かネガティブに考えてしまうことはありますか?

<ドラマ「ももさんと 7 人のパパゲーノ」より>

伊藤さん

私、暗いですよとは言わないですけどネガティブですよ、とても。

ポジティブな瞬間もあるんですけど、自分の思考の中ではどちらかというとネガティブな方が多くて。きっとこれは私だけじゃないと思うんですけれど、「どのくらい表面張力がもつか」ぐらいのことだと思うんです。結構人が崩れちゃう時って、「あんなこと耐えられたのに」という時の方が多かったりして。自分のことでもそうですけど「あんなつらい現場耐えたのに」とか「あんな悲しいことあったけどここまでやって来たのに」…。それこそリップを忘れたりとか、ちょっと手が滑って水がこぼれたりとか、そのくらいのことで全てがガラガラって崩れ落ちたり、そこからまたはい上がることの方が結構苦労する、難しいことだったりする。ふとした瞬間の方が怖いな、気を張ってない瞬間の方が怖いなってすごく思いますね。

ーすごく難しいテーマも込められている作品ですが、どんなふうに受けとめていらっしゃいましたか?

伊藤さん

そうですね。みんながざわつくようなことかもしれないけど、全然どこにでもある、転がっている話だと思う。そこを一人で閉じこもって考えるっていうよりは、みんなで共有して共感をするっていうことが、とても大事なのかなという作品だと思っていました。

 ー演じられたももさんの人物像はどんなものだと思っていましたか?

伊藤さん

なんだろう。紹介のナレーションの中でも言われているんですけど、「普通の人」というか、みんなが知っている、持っている感覚が普通に備わっている人だし、別にずっと笑わないわけじゃない。喜怒哀楽も健康的にある人ではあると思うんですけど、ふっと疲れたり、ふっと”差し込まれる”何かっていうものが、きっとももの感覚としては人よりある気がする。だけど人より大きい悩みじゃないことへの葛藤とか、そういう…言ってしまえば「よくいるタイプ」の感じを、自分の中では出したいなという感じで演じました。

ー伊藤さんご自身も共感するところはありましたか?

伊藤さん

そうですね、ありました、ももに関しては特に。

きっと理由が明確に分かっていれば「じゃあこれをこうしよう」とかできるけど、”ふっと差し込むもの”に対しては対処のしようがないというか。その問題とどう向き合って、どう共に過ごしていくかっていうことを考えたほうがむしろ楽だったり、解決をしようとすることが自分を苦しめていくっていうところに、何となく共感はありました。

若かろうが大先輩方であろうが、何か「障害物」はあって、「生きづらいな」っていう感覚とかはあるでしょうし、そこまで至らなくても、何かやる気が出ないとか、そういうぐらいのことでもみんなちょっとつまずくことって、何かしら生きていればある。けれど、楽しまなくていいんだけど、そこも含めて自分の人生や自分自身をどこか肯定していただきたいですし、間違ってないって言いたいですし、一人じゃないって伝わればいいなって思うんです。

等身大の伊藤さんが "ももと一緒に旅をしていた”

ー今回ももさんを演じる中で、役作りをしないという話を先日発表されたコメントで見たのですが、そうだったのでしょうか?

伊藤さん

そうですね。何をどうしたって説明のつくような役作りはあまりしていなくて。もちろん監督と話し合ったり、自分が知らない専門的な知識や実際にいる方のお話を聞かせていただいたりしたのはとても実になったと思います。ただ、ももをやる上で自分が何をどうしたかっていうのは、ないですね。

言い方が難しいですけど、加藤拓也さんの本が”状況の脚本“だったので。「この言葉きついな」とか「この状態にいてこの出来事はちょっと自分でも結構落ちる」とか、そういうヒントがたくさん散らばっている本だったので、沿ってやっていくだけでも十分で、自分が付け加えることはないっていうふう に思いました。「普通の人を普通にやること」がみんなに一番届くんじゃないかなって思ったので、私も自分のことをすごく特別な何かを感じたこともないですし。より届きやすい状態、テンションでいることっていうのを軸にやらせていただいた感覚はあります。

<ドラマ「ももさんと7人のパパゲーノ」より>

ーももさんは「普通」に見えてもやっぱり悩みを抱えている。普通って何なんだろうなとドラマを見て思っていて、伊藤さんご自身が今回演じる中で意識していた「普通」とは何なのでしょうか。

伊藤さん

私もお芝居とかやらせていただいてると、「普通」ってすごく難しくて。

視聴者の方々のご意見ご感想で伊藤沙莉は「普通」っていうことが一番言われるんですね。それはポジティブな意味合いで言ってくださることが多くて。普通で共感できるとか、普通さが良いとか、すごく言われて。どういう事なんだろうって考えていて、きっと私の役柄や見た目もそうですけど、共感が多いことなんだと思うんです。「ああ、わかるわかる」とか「あるある、いるいる」っていう、すごく特別な面白い人っていうよりも、「より多くの人に共感を得られる」というのを演技のベースに置いておくというのは、私のお芝居の中の自分だけのルールみたいなことでいうと大きいかもしれないですね。

ー伊藤さんの等身大の姿でシーンごとにぶつかっていったような感じですか。

伊藤さん

そうですね。そういう感覚はありました。だからすごくフラットでしたし、1週間東京で撮って、そこから栃木の益子の方に行ったんですけれど、作品を通して、あるいはももを通して、すごく自分が浄化されていく感覚がありました。多分それも、ももをやっているけど、どこか俯瞰ではももと一緒に旅をしている感覚があったからです。

明日を生きるヒントは、「頑張ろう」より「何か悪くない」

伊藤さん

見ている方々に伝えたいのは、自己肯定ってすごく難しいことだと思っていて、私自身もあまり得意ではないことなんです。けれど、何か「あ、それでもいいのかも」とか、何と言うか…。

「(そう感じるのは)あなただけじゃない」って言われるのが私はすごく怖くて。状態によっては結構きつい言葉だったりしていて、でもそれを肯定的に、ポジティブな意味でみんなに届くといいなってすごく思っていて。「自分だけじゃない」って思うことが、ある種の強みになったりするんじゃないかって新しい感覚を抱いて、そういうのが届けばいいなと思いました。

その言葉とともに自分のことも多少肯定ができた期間ではあったので、自分の中でもそういう感覚が広がっていくといいなっていう感じです。

ー撮影中「自分の中で浄化されていく感覚があった」ということは、もやもやするものがあったのでしょうか。

伊藤さん

ああ、そうですね。

例えば私がよく言われることでいうと、「気にしい」とか、「考え過ぎ」みたいなところが派生して、普段の日常にもその破片みたいなものが常に残っている感覚はあるんです。例えて言うと、「立っていたくない、もう立てない。何ならもう立ってることがやっと」という人たちもいるけど、「立っていられることのほうがつらい」っていう方が結構増えている気がしていて。どちらかと言うと自分もそっちなんですね。

「立てちゃう」っていうこと、逃げ出したいって思っても、何か逃げない。じゃあどうやって向き合っていくかみたいなところへの切実さだったり、誠意を持ってやれる何かはあったんじゃないかなとは思います。

ードラマを撮影していく中で、一緒に旅していく感覚の中で、考え方に変化はありましたか

伊藤さん

不思議な感覚ではあったんですけど、私が一番届いてほしいことを言うと、「よし頑張ろう」とか、「楽しみを見つけよう」とか、もちろんそこに行けたらパーフェクトではあると思うんですけど、続けてみようかなみたいな、だるくてもいい。

別に 100%全てにやる気、元気、勇気が備わっていることを目的としていなくて、「なんかだるいけど明日を生きてみよう」とか、「疲れたけど、まあ何となく後で何かおいしいもの食べようかな」とか。そういう一番身近な、一番手の届きやすいところにこのドラマを見てたどり着いてほしい。目標を高くする必要はなくて、本当にもうこのくらいの距離で届くものに手が届いてほしいっていう感覚で私はいるので、私自身もそこにたどりついたっていう感じです。「よし頑張ろう」というより、「何か悪くない」っていう。

実際、(ロケ地の)益子の方々にもドラマに出てもらったりとか撮影協力していただいたりして、そこでの出会いもすごく心が洗われました。とても優しい親切な方々で、そういう出会いだけでも、自然と涙が出るって今までであったかなって思う。本当にたった数時間もいなかった、数分ぐらいの出会いで離れるのが嫌になったっていうおばあさまが一人いました。そういう出会いは想像もしていなかったけどあるんだなって思うだけでもちょっと楽しみになったりすることが、何となくヒントになればいいって思う。役だからとか撮影だからじゃなくて、実際に伊藤沙莉として経験したっていうのがすごく大きな出来事だったなって思います。

【2022年8月20日放送】

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