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日本酒づくりに新規参入 小規模メーカーの挑戦

NHK
2021年7月3日 午後5:00 公開

世界的に注目をあつめる日本酒。国内市場が縮小している一方で、輸出額は伸び続けています。こうした中、輸出を目指して新たに日本酒づくりに取り組もうというメーカーが相次ぎ生まれています。その特徴は “個性的”な“小規模メーカー”だということ。つくり手たちの挑戦が始まっています。

相次ぐ新規参入 きっかけは酒税法改正

きっかけは、2021年4月に行われた酒税法の改正です。これまで日本酒については、既存のメーカーだけが製造を認められていて、新たにつくろうとしても、免許の取得は事実上認められていませんでした。それが輸出向けに限って、新規の参入が認められるようになったのです。これまでは、最低限つくらなければならないとされる製造量も決められていましたが、これも撤廃されました。これをチャンスと捉えたのが、小規模メーカーです。

コメ農家が挑む日本酒づくり ウリは“一貫生産”

福島県有数の米どころ・只見町に、輸出用の日本酒製造を認められたメーカーがあります。2017年から米焼酎を作っている、従業員16人の会社です。メーカーを立ち上げたのは地元の米農家と、日本酒メーカーの元社員。米のさらなる消費拡大が見込めると、今回、日本酒造りへの参入を決めました。これまでこのメーカーでは、日本酒の吟醸酵母を使うなど、日本酒の醸造技術を土台に焼酎を作ってきた背景もあります。いまある設備をそのまま生かして、日本酒づくりを始められるといいます。

酒の仕込みが始まるのは、ことしの米が収穫される秋からですが、すでに買い手がついています。私たちが取材に訪れた2021年6月、メーカーの担当者がインターネットを使って打ち合わせをしていたのは、香港の取引先でした。この取引先は、コメ農家が自らつくる酒に興味を持ち、3000本の注文をしたといいます。

香港の取引先 「吟醸のような華やかな香りに加え、味の複雑性を感じられるようなものが、香港では好まれていますね」

メーカー担当者 「日本だと味が『きれい』なものが好まれますけど、『きれい』というよりは複雑な感じの方がいいんですね」

この日、メーカーの担当者は、香港の人に好まれる味や香りは、どんなものなのかを、詳しく聞き出していました。世界に打って出るためには、各地の嗜好にあわせた日本酒をつくっていくべきだと考えているからです。香港との打ち合わせが終わった直後に開かれた社内会議。集まった社員のほとんどは、現役の米農家です。様々なタイプの日本酒を試飲しながら、海外の消費者が求める味や香りをつくり出すには、どんな米を使えばいいか議論を重ねていました。米作りから酒造りまで一貫して行えるのが、このメーカーの強みです。ことし、メーカーが作付けした米は9種類。多様な品種を栽培し、研究を重ねながら輸出先に合わせた独自の日本酒をつくりだそうとしています。

ねっか奥会津蒸留所 馬場由人さん 「米作りもそうですし、酒づくりも同じで、こだわってつくって、うまいから飲んでみろというのをつくる」

ねっか奥会津蒸留所 杜氏(とうじ) 脇坂斉弘さん 「こんな田舎でも世界で認められる。只見で採れたお米で世界に驚きを与えられる日本酒ができるようにがんばりたい」

“ASAKUSA”ブランドで商機をつかめ 特徴は“新しさ”

観光地の知名度を生かし、海外に打って出ようとするメーカーもあります。浅草に去年オープンしたばかりのどぶろくメーカーです。飲食店の中に、どぶろくの醸造設備を設置。ガラス越しに、どぶろく造りを見学できることが魅力です。増加する外国人観光客を見込んで開業しましたが、新型コロナウイルスの感染拡大によって、飲食店は長く休業を余儀なくされました。店内の設備を生かして日本酒を造れば、海外で受け入れられるのではないかと、2021年5月に製造免許を申請しました。

このメーカーが目指しているのは、常に「新しさ」を感じられる日本酒造りです。通常、酒蔵では、味を安定させるため、酒造りの責任者である杜氏を頻繁に変えることはありません。しかし、このメーカーでは、杜氏を1年ごとに募集。あえて、変化をウリにした酒をつくろうとしているのです。

こうした環境は、杜氏を目指す若者たちの挑戦の場にもなっています。今月、杜氏として採用されたのは、日向勇人さん(28歳)。佐賀県の酒蔵で、4年間日本酒づくりに携わった経験があります。日向さんは「こういった環境で自分の酒造りを試すことが出来るのは本当にありがたい。酒造りだけでなく経営なども学んで独立へのきっかけにしたい」と話していました。

木花之醸造所 代表取締役 細井洋佑さん 「いろんな酒があることによって、酒っておもしろいねって知ってもらうきっかけができて、それで世界的ムーブメントになっていくと思っているんです。将来、僕らが輸出した酒を飲んでくださった方が、浅草に戻ってくるようなことがあったら、うれしいですね」

“個性”をアピールできれば商機あり

日本酒の輸出においては、大手メーカーも既に力を注いでいます。これから新規参入する小規模メーカーに、チャンスはどれほどあるのでしょうか。日本酒の市場動向に詳しい金沢学院大学の佐藤淳教授は、海外の消費者は、日本酒に品質だけでなく、原料や地域、作り手の“個性”を求めているため、新しく免許を取得する小規模生産者でも商品の“個性”を表現出来れば商機は十分ある、と指摘しています。

新規参入するメーカーには、販路の開拓など、さまざまな課題が待ち受けています。コロナ禍で海外への渡航が制限される中、オンラインを使った商談会にこまめに参加したり、世界各国で開かれる日本酒のコンペティションに参加して知名度を高めたりするなどの努力が欠かせません。ただ、新たな業種から、日本酒造りに参入したメーカーが、独自の販売網を使って販路を一気に拡大させる可能性もあります。新たに生まれる日本酒をきっかけに、日本酒が世界でより親しまれるようになり、それが国内産業の活性化にもつながる…。こうした好循環が醸成されることを期待したいと思います。

(映像センター カメラマン 櫻山恭子)

【2021年6月21日放送】