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コロナ禍で注目される“エンバーミング”

NHK
2021年11月12日 午後4:04 公開

コロナ禍では “納得のいく葬儀で家族を送り出してあげたい”という遺族の願いをかなえることが難しいケースが少なくありません。
国は新型コロナで亡くなった遺体の取り扱いに関するガイドライン(去年7月)で、遺体からは飛まつ感染のおそれはなく、密閉した非透過性納体袋で管理するなどの措置をとれば感染リスクは低いとしています。ガイドラインに沿った方法で対面での葬儀を行っている葬儀会社もありますが、その数は多くはなく、またそうした場合も遺族が納体袋を開けたり、直接触れたりして最後のお別れをすることはできません。
こうしたなか、遺体にエンバーミングという特別な処置を施すことで、遺族が希望するお別れを実現しようという取り組みが注目されています。

一度は諦めた葬儀 エンバーミングでかなった最後の別れ

都内に住む草柳和典さん(56)は、3月に父親の正雄さん(享年88)を亡くしました。心臓の疾患のため自宅で急死した正雄さんを警察が検視した結果、新型コロナの陽性反応が出たのです。葬儀会社に相談すると「感染リスクがあるので、遺体との対面はできず、すぐに火葬します」と告げられました。

和典さん 「会えないんですかって聞いたら、会えませんと。どうやったら会えますかって聞いたら、会えませんと言われました。最後に会えないまま骨だけで帰ってくると・・・。それではいけないと思いました」

その後、対面して葬儀ができるという会社をインターネットで探し出した和典さん。
遺体に「エンバーミング」という処置を施すことで感染リスクを抑えられ、正雄さんに触れてお別れができると聞き、依頼することにしました。

和典さん 「エンバーミングをすれば会えると言われました。何をしてでも、どんなことがあっても会うことができればと思いました。 葬儀の日には、お花をあげたり、娘が書いてきた手紙をひつぎに入れたりしました。特に印象的だったのが、息子(正雄さんの孫)が父に触れながら、『もし遺体を見ていなかったら、死んだことさえ実感できなかった』とつぶやいていたことです。エンバーミングをすることで納得のいくお別れができてすごくよかったと思いますね」

長期の遺体保全や災害時の遺体修復などでも活用

エンバーミングとは、遺体の消毒・保全・修復を目的として用いられる技術です。
遺体の表面を消毒するだけでなく、血管に防腐液を注入することで腐敗を防ぐとともに、ウイルスの活性を止め、感染リスクを抑えることができるとされています。

国内ではエンバーミングをすることで原則、最長50日まで安置できるとされていて、これまではすぐに火葬できないなどの理由から、遺体を長く安置する必要がある場合に活用されてきました。さらに、近年は日本で亡くなった外国人を母国に搬送する際に行われる機会も増えているほか、災害や事故などで傷ついた遺体を修復する目的で実施されることもあります。

エンバーミングの普及に取り組む、一般社団法人「日本遺体衛生保全協会」によると、去年エンバーミングは国内で5万3000件以上行われ、過去最多となっています。今後、さまざまな場面でエンバーミングが行われる機会は増えるとみられていて、協会では普及を図っていきたいとしているほか、国も3年前から研修を行うなど、技術者の技術向上に力を入れています。

関東地方でエンバーミングを行っている会社では、遺族や葬儀会社の要望を受け、これまでに40件ほど新型コロナで亡くなった遺体の処置を引き受けてきました。
この会社で最初にコロナで亡くなった遺体のエンバーミングを行ったのは去年。「ダイヤモンド・プリンセス号」で感染し、亡くなった外国人の処置だったといいます。

会社の代表ロバート・ホーイさんは、かつて母国のカナダでエイズで亡くなった遺体のエンバーミングを行った経験があり、感染症流行時のエンバーミングの重要性を痛感してきました。

ロバート・ホーイさん 「当時は感染経路などまだ明らかになっていないことも多く、技術者の中でも不安視する声もありましたが、今ではエイズで亡くなった遺体へのエンバーミングは一般的になっています。未知の感染症流行時に不安はつきものですが、最後に家族に会わせてあげたいと思い、コロナで亡くなった遺体のエンバーミングを引き受けることにしました」

エンバーミングの今後は

コロナ禍の今、「感染リスクを抑えて、遺体に触れてお別れをしたい」という希望に沿うためだけではなく、家庭内感染が起きて遺族自身が陽性となった場合に、回復を待ってから対面できるよう遺体を長く保全するなど、エンバーミングへのニーズは高まっています。しかし、新型コロナで亡くなった遺体のエンバーミングを行える施設はまだ限られていて、費用にも地域差があるのが現状です。
専門家は、今後、さらなる研究や知識の普及が必要だと指摘しています。

杏林大学 佐藤喜宣名誉教授 「いま課題となっているのは、エンバーミング処置にあたる技術者の感染対策です。感染力がある遺体の扱いをどうするのか、科学的な根拠をもとに正しい知識を身につけることが、エンバーミングを行う技術者はもちろん、全ての葬儀関係者にも求められていくと思います。現在、特に北米を中心に新型コロナで亡くなった遺体へのエンバーミングの実績は上がってきていて、今後は日本でも、新型コロナに特化したエンバーミングの教材の作成や、技術者に対する教育の徹底などが大切になると思います」

取材を終えて

取材を通して、新型コロナで家族を亡くした人たちが「もっと早く、対面での葬儀ができることを知っておきたかった」「コロナ禍で葬儀はできないのかと諦めそうになった」と話していたのが印象的でした。
家族が亡くなった時、どう見送るか。実際に家族の死に直面する前に、その選択肢を知っておくことはとても大切だと感じます。

(おはよう日本 ディレクター 朝隈 芽生)

【2021年10月2日放送】

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