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学長の「大学運営」 国公立大学で いま何が・・・

NHK
2021年7月13日 午後1:03 公開

大学改革で学長に権限が集中

いま、大学は、グローバル化や国際競争の激化によって、これまで以上に質の高い研究や人材を輩出する必要に迫られています。そこで、国は、大学の学長の権限を強め、強いリーダーシップで大学改革をスピーディーに行う政策を進めてきました。
しかし、こうした中、学長が、周囲への説明などが不十分なまま人事や政策を進め、学内だけでなく、学外にも不安や動揺が広がるところが出てきています。

学長への権限集中で学内外に混乱も

ことし1月に開かれた国立、旭川医科大学の吉田晃敏学長の会見。

吉田晃敏学長 「前病院長の解任の件について説明をさせていただきます。(病院長によって)大学が混乱したということであります」

大学病院の病院長の解任を発表しました。

解任の理由のひとつは、古川元病院長が、吉田学長の不適切な発言を週刊誌などへ漏らしたことだと言います。

これに対し、解任された古川博之元病院長は…。

(古川病院長会見)

古川博之元病院長 「ちゃんと証拠があるのかいって話です。解任ありきだなと思われる」

古川元病院長は、関与を強く否定した上で、実は、以前から、吉田学長と対立していたことを明らかにしました。
市内で急増していた新型コロナウイルスの感染者を受け入れようとする病院長に、吉田学長は反対していたといいます。

古川博之元病院長 「(学長に)言われたのは、命令に従わないなら辞めてくださいとか、患者を受け入れるなら辞めてくださいとか。発言は明らかにパワハラである」

患者・家族にも影響が

突然発表された病院長の解任。病院に通う患者や家族からは、撤回を求める声が相次ぎました。

旭川市に暮らす佐々木さん一家です。

長男は先天性の病気で、おととし、古川元病院長の執刀で肝臓を移植する手術を受けました。

その後も経過観察のため、毎週のように診察を受けていたと言います。

長男が元病院長の手術を受けた佐々木香苗さん 「(解任について)きちんとした説明がなかったので、解任されるって知った時は、もうすごいショックで、目の前が真っ暗というか。まだまだ治療が必要な段階だったので」

佐々木さん夫妻は、不安を抱える患者や家族の声を届けたいと、古川元病院長の解任撤回を求めて1万5000人を超える署名を集め、大学側に提出しました。
しかし、解任が撤回されることはなく、元病院長は大学に残って診察を続けたいと申し出ましたが、受け入れられませんでした。

学長の解任を求める動きも

一連の問題を受けて、学内の複数の教員などによって、事態の改善を求める「旭川医科大学の正常化を求める会」がつくられました。メンバーの1人、長谷部直幸特任教授は、学長に権限が集中するいまの制度だと、たとえ学長が誤った決定をしても、止めることは難しくなっていると言います。

旭川医科大学 長谷部直幸特任教授 「組織構成も人事の決定も、予算の配分もすべての面で学長に権力が集中しているという実態があるわけでして、不当な権力行使というものを生む素地ができあがるということだと思います」

旭川医科大学では6月17日、一連の問題をめぐって学長が辞任の意向を示し、学長選考会議では解任すべきかどうか、審査を続けています。

全国でも発生する混乱 なぜ?

学長への権限集中による混乱は全国の国公立大学で起きていて、改善を求める組織が作られるなど、教員を中心に課題を訴える声が相次いで上がっています。

大学の自治の問題に詳しい明治学院大学の石原俊教授さんです。
学長への権限の集中は、2014年に学校教育法が改正されてから加速したと言います。

明治学院大学 石原俊教授 「教育内容とか研究内容とか研究者人事に関してまで、一分野の専門家に過ぎない学長が介入を行い、学長の権限が従来よりも大きくなりました。それから教授会の権限は逆にどんどん縮小されていきました」

かつては、教育や研究、人事などを巡る重要事項はまず、教員で作られる教授会が審議。その後、学長が決定していました。

しかし、審議に時間がかかることなどが課題となっていたため、学長に権限を集中させ、トップダウンで大学改革をスピーディーに進めようとしたのです。
この改革によって、企業との連携が進んだり、研究への大きな投資を呼び込んだり、成果をあげた事例も出てきました。

一方で石原さんは、学長の大学運営により問題が生じても、現状では、それに歯止めを掛けたり、解任したりすることが難しいと指摘します。

学長の選考や、解任の審査は、学長選考会議という組織が行います。
学長選考会議の委員は複数の機関から選ばれますが、これらの機関には、そもそも学長が指名した委員が多いため、学長の意見が通りやすく、解任もされにくいと言います。

明治学院大学 石原俊教授 「トップダウンでむちゃな決定をする、あるいは独善的になる、独裁化する、そうしたことに対するけん制機能が働かなくなってきているっていうのが、国公立大学の現状だと思います」

広がる混乱に対して文部科学省は

旭川医科大学の問題は先月、参議院の文教科学委員会でも取り上げられ、そこでは他にも、筑波大学が学長の任期の上限を撤廃したことなども挙げられました。
「学内からの信認と支持なきリーダーシップのもとに、単なる独裁が生じているのではないか、疑念を抱かせる」、といった指摘もありました。
学長の大学運営について、文部科学省は次のように答えています。

文部科学省 国立大学法人支援課 堀野晶三課長 「学長は権限を持っているわけですから、それは大いに必要に応じて、発揮していただきますけれども、その際に権力者としてある程度、構成員の理解の醸成に務めているかということは常にセットで考えていかなければいけないことかなと思います。かといって学長のリーダーシップによる改革という方向性は、全く変わっておりません」

健全な大学運営のためには

大学が健全に運営されるためにできることとして、VTRに出演した明治学院大学の石原俊教授が挙げているのが、学長へのチェック機能の整備です。
具体例として、アメリカの州立大学の一部で行われている方法を挙げています。

学長を任命、解任する理事会には、学生や卒業生、一般の市民など幅広い層の人たちが参加します。また、こうした委員の選定には州議会での承認が必要です。
大学本来の役割、教育や研究を安定して行うためにも、そうした形で大学運営について多様な視点からチェックをする制度が必要だと考えられます。

【2021年6月20日放送】