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踏切や線路が渡れない 災害時の思わぬリスク

NHK
2021年5月6日 午後1:13 公開

私たちが通勤や通学で使う便利な「鉄道」。しかし災害時には思わぬリスクがあります。「踏切が開かない」「線路を渡れない」
鉄道会社と住民。そのときに備える現場の模索を取材しました。

救急車が通れない… 開かない踏切

横浜市にある、JR横浜線の小机駅からおよそ200メートルにある踏切です。踏切は、災害時に救急車や消防車が走る「緊急輸送道路」にあり、周辺には広域避難場所に指定された競技場や救急病院もあります。しかし、大地震で踏切の手前で列車が緊急停車した場合、運行が再開されない限り、踏切は閉じたままです。緊急輸送道路でも、救急車などが通れなくなってしまうのです。

実際に影響が出たのは、3年前、震度6強を観測した大阪北部の地震です。列車が踏切の手前で緊急停車したことから、最大で9時間閉まったままの状況になりました。けがをした女性の救助に向かっていた救急車が踏切を渡れず、到着まで、かなりの時間がかかってしまったのです。このため国は、今年4月に法律を改正しました。災害時には緊急輸送道路の踏切を速やかに開けられるよう、あらかじめ手順を決めておくことを鉄道会社などに義務づけたのです。しかし、災害時に一度閉まった踏切を開けることは、鉄道会社にとって簡単なことではありませんでした。

作業員の現場確認が必須!

大きな理由の1つが、現場で対応できる作業員の数に限りがあることです。

今回、取材させてもらったJR横浜線の小机駅近くの踏切。このエリアを管轄しているJR東日本横浜メンテナンスセンターは、横須賀線や横浜線などを管理しています。対象のエリアにある踏切や信号設備などは、530か所もあります。それに対して、担当の作業員はわずか11人。災害時には、応援の作業員が来ることも想定していますが、鉄道を再開させるため、設備に被害が出ていないかの確認も重要です。さらに踏切は遠隔で開けることはできません。作業員が現場に行って、目視で安全を確認する必要があり、限られた人員で速やかに踏切を開けるのは難しいのです。JRは消防などと協議をして、今後、具体的な対応を検討することにしています。

<JR東日本担当者>「いったん閉まった踏切を開放するというのは、鉄道側にとっては安全上、非常に大きなリスクにつながります。これから関係者がよく話し合って、災害時にどういった対応がとれるか、決めていくことが大事だと感じています。」

緊急輸送道路の踏切 全国約1500か所

これは横浜市の問題だけではありません。今回の取材では、緊急輸送道路にある踏切が、全国各地に広がっていることが分かりました。白い線は「緊急輸送道路」、赤い丸が「踏切」です。その数は、なんと全国で約1500か所。特に都市部に集中しているのが特徴でした。国は今後、5年間で500か所を優先的に対策するとしています。

線路を渡れない… 津波避難

災害時には、踏切だけでなく「線路」も課題になります。海岸沿いに町が広がる、和歌山県串本町。南海トラフの巨大地震では、最悪の場合、わずか3分で津波が到達するとされています。

沿岸にある大水崎地区、540人ほどが住んでいます。この地区の避難場所は、線路を超えた高台にありますが、線路を渡る道は、地区の両端にある踏切と高架道路の2つだけです。避難場所に行くには大きく遠回りする必要があり、線路そのものが避難の妨げになっていたのです。

住民と一緒に、実際に踏切を通って避難場所まで歩いてみると、避難場所に着くまで15分ほどかかりました。わずか数分で津波が来ることを考えると、避難は間に合いそうにありません。

<住民>「歩くことを考えたら、こんなに時間がかかってしまうと避難は難しいですね。津波が来るまでの時間が少ししかないので、近道で高いところへ登れることが、一番重要かなと思いますね」

「災害時は目の前の線路を通ることはできないか」

住民は自治体を通じてJRに要望しました。前例がない申し出に対して、議論を重ねたJR。鉄道会社としては、線路を横切るのは危険なのでやめてほしい一方、災害時、一刻を争う場合には、住民が線路を渡る必要性が出てくるのではないか…。JRが出した結論は、「蹴破り式」という新たな避難路の設置でした。

津波から避難する際には、住民が白いボードを蹴破って、その先の線路を渡り、避難場所まで行けるようにしたのです。この方法だと、避難場所までわずか5分で行けるようになりました。

<住民>「この避難路は命の助けになる。1人のケガ人も死者も出ないよう、一刻も早い津波避難を目指したいです」

<JR西日本担当者>「これまでにないことだったので、社内でもたくさんの議論があったことは事実です。鉄道の線路上の危険も認識しつつ、渡っていただく1つのアイデアとして、蹴破り式の避難路の設置を決めました」

鉄道会社と地域住民の事情 いかに両立

災害時、思わぬリスクとなる「踏切」や「線路」の存在。私たち(記者)がこの問題について取材を始めた当初は、住民の命に関わるかもしれないなら、「とにかく踏切を早く開けるべきではないか」「命の危険が迫った津波避難の際には、勝手に線路を渡るのもしかたない」と思っていました。

しかし取材をすると、鉄道会社にも、災害時に課せられた重要な使命があることがわかりました。鉄道会社が一番に優先するのは、「乗客の安全確保」。そのうえで、できる限り早く「運転再開」を目指すことです。特に都市部では、帰宅困難者が多く出ることも想定されます。列車を早く動かすことで、そういった人たちを、早く安全に自宅に帰らせてあげる必要があるのです。

一方で、もちろん鉄道会社も、地域の住民の命を守る重要性も感じています。鉄道会社と地域の住民、それぞれの事情がある中で、どうやって解決の糸口を見つけていくのかが重要になってくるのだと思います。

私たちはふだん通勤や通学などで、便利な交通手段として鉄道を利用しています。しかし、災害時にはこの線路や踏切がリスクになるかもしれないということを、日ごろから意識し、あらかじめ複数の避難ルートを考えておくことも大事だと感じました。        

(社会部記者 清木まりあ・橋本尚樹)

【2021年5月6日放送】