あふれるコロナストレス
スーパーのレジで、電車やバスの中で、「マスクの着用」や「ソーシャルディスタンス」を巡っての言い争いをみたことはありませんか?コロナ禍が長引く中、ちょっと世の中がギスギスしてきたような…
SNSを調べてみると、あるわ、あるわ。「子どもを外に遊びに行かせる親 腹立つ」「どこ行っても混んでいるしイライラする」「県外ナンバーみたらムカムカ」。中には、家族に向けて「無駄に家にいるので腹立たしい!」という声も。私たちの心の中にもあるかもしれない、こうしたイライラ、モヤモヤ。ひょっとしたら“モラル痛”かもしれません。コロナ禍の出口が見えない中、人間関係を穏やかに保つためにどうすれいいのか。そのヒントを探ります。
長期化で変化は?
コロナ禍にともなうストレス。長期化でその吐き出し方が変わってきたという声もあります。
取材したのは都内のスーパーマーケット。2020年8月、客に飛まつ防止用シートを引きはがされました。
店を運営する会社の社長は「客が大きな声でどなるケースは見られなくなったが、衛生面を気にする細かいクレームが多くなった」と話します。
実際に店には…
▽顔が少し赤いだけで“あの店員、熱があるのか?”と疑われる。
▽顔を触った手で商品を触るなと言われる。
▽マスクを口元からずらして休憩するのはやめてほしい。
こんなクレームが寄せられたそうです。
背景に社会的ジレンマが引き起こす“モラル痛”
なぜこんなことが起きるのでしょうか。筑波大学の太刀川 弘和教授は感染対策優先か、それとも経済優先か。
答えが出せないジレンマの中で人々のモラルが揺らいでいると指摘します。
「社会が混乱している中で、例えば『こういうときは外出してはいけない』というモラルが他の人には受け入れられずモラルが傷つく状況。“モラル痛”がもたらすさまざまな影響がいま、社会的に起こっているのではないか」
太刀川教授が指摘する“モラル痛”。1人1人の考え方の違いから生じます。
太刀川教授たちが行ったアンケート調査の結果です。
「自粛といっても自分の行動は自由であるべき」という考えについて、どう捉えるか聞きました。
右に行けば行くほど「そう思う」の度合いが強くなります。
真ん中の「どちらとも言えない」が最も高くなっていますが、注目していただきたいのは赤く囲んだ部分。
細かい山がたくさんあり、人によって捉え方がバラバラだということがわかります。
「自分はこう思うのに相手はなぜ思わないのか」という感情が相手への攻撃につながっていると言います。
イライラ どう和らげる?
どうしたらイライラを和らげることができるのか。ヒントとなる出来事がありました。
発端は2021年4月上旬。大阪道頓堀のカニ料理店の前に設置されていたかにの置物が何者かによって壊されました。その一部始終が防犯カメラに写っていました。
その3日後、事態は大きく動きます。
被害にあったカニ料理店の社長によりますと、若い男性2人が社長のもとを訪れ謝罪したというのです。
「看板を壊したのは僕たちです」と言ってぶるぶる震えながらずっとおでこを床にこすりつけて、ただただ謝罪していた。怒りの感情がこみ上げて最初は何やっているんだと怒鳴りつけた。
はじめは怒りがおさまらなかった社長。
しかし話を聞いていくうちに、2人は時短営業の影響で近くの別の飲食店を解雇されたばかりだったことがわかりました。そして、壊れた置物の費用を弁償したということです。
社長の店も休業や時短営業などの影響で、経営は厳しくなっています。
社長は2人をゆるすことにしました。
「彼らと僕は一緒、心のやり場のないことばかりですよ。彼らもコロナの被害者の1人。どんなことがあろうが人を傷つけたり、ものを壊してはいけないよ、ゆるすからこれ以上罪を犯すなと伝えています」
社長と2人とのやりとりは、その後も続いているということです。
鍵はコミュニケーション
イライラを和らげるコミュニケーションとは。
鳥取大学の竹田伸也教授があげるポイントです。
まず、怒りが湧いてきたら「ひと息ついてゆっくり話す」。
そして、「どうして?を後回し」にすることです。
考え方が違う人に最初に「どうして?」と聞くと相手が責められている気持ちになるので、まずは相手の主張を聞いてから「どうして?」と尋ねるほうが相手も話しやすくなるということです。
考え方が違うあの人も、ウザッ!!と感じるあの人も、同じコロナ禍の時代を生きる仲間です。話せばきっとわかるはず…そう考えて少しだけ気持ちを楽にして対話してみませんか?
(おはよう日本 今井朝子 安田嘉英)
【2021年5月11日放送】