「国外のロシア人が力を合わせよう」 作家 ボリス・アクーニンさん

NHK
2022年4月6日 午前10:26 公開

ロシア人の中には、プーチン政権による軍事侵攻を受け入れられない人もいます。その 1人がロシアの著名な作家のボリス・アクーニンさん(ロンドン在住)。 推理作家で、ロシア史を研究する歴史家としても知られる人物です。

いま、ロシア国内では声を上げにくい現状がある中で、国外に暮らすロシア人が力を合わせて現状を変えていこうと呼びかけを始め、ヨーロッパのメディアを中心に自ら考えを積極的に発信しています。インタビューでその思いに迫りました。

一人のロシア人として— 

“ロシア人が世界中で侵略者・犯罪者とみなされているのは、とてもつらい気持ちです。そして多くのロシア人と同様に、今起きていることに責任を感じています。私たちが、私たちの世代こそがプーチンに独裁を許してしまったからです。私たちは独裁を止めることができませんでした。だから、責任は私たちにあります。私の友人や知人は最初からプーチン体制に反対の立場をとってきました。でも、私たちがやってきたことは不十分でした。”

アクーニンさんの活動「本当のロシア」 (※NHKサイトを離れます)

国外のロシア人に呼びかけ 

アクーニンさんは、ことし3月、アメリカやヨーロッパに住むロシア出身のアーティストや学者とともに、ネット上で活動を始めました。その活動名は「本当のロシア」。今の戦争を一日でも早く終わらせるために、国外に住むロシア人が力を合わせていこうと呼びかけています。

アクーニンさんたちは、人々から寄付を集め、ウクライナ人への人道支援を行うほか、ロシア国内に向けても自分たちの声を届けていきたいとしています。 

“この活動を始めたのは第一にウクライナの避難民の悲劇を見ていられなかったからです。とても見ていられない。私たち3人は、様々な国に住んでいるロシア人にメッセージを出しました。私はロンドンから。ニューヨークからはバレエ舞踏家のミハイル・バリシニコフが、パリからは経済学者のセルゲイ・グリエフが。セルゲイ・グリエフと話をしたのが、3月の初め。計算では避難民の数は500万人となるといいます。この数字を聞いてぞっとしました。これはまだ始まったばかりの数字で、さらに分かったことは、ウクライナの隣国はどの国もこの避難民の問題を解決することはできないということです。これは大規模な人道的破局です。“ 

“まず単純にお金を集めます。私が知っている外国に住むロシア人は、現在、頻繁に人道支援のボランティア活動をしています。資金面での手助けや、ポーランドなどに出かけて行って、現地で活動をおこなっています。何らかの意思表示をするために、こういった力を結集することが重要に思えました。何か一つの共通の行動にするためにです。それを「本当のロシア」と名付けました。最初は何人かのボランティアで始まり、様々な国々からロシア人が連絡してきて、手助けしたいと言ってきました。現在は、よりしっかりとした機構・組織がつくられつつあります。” 

【作家 リュドミラ・ウリツカヤさん(「本当のロシア」のウェブサイトより)】

活動にはジャーナリストや作家など様々な人が参加を表明しています。 

作家のリュドミラ・ウリツカヤさんは「痛み、恐怖、恥 それが今の感情」「戦争に反対し、ロシアをあらゆる情報から孤立させるプロパガンダに対抗していかないといけない」とメッセージを寄せたほか、アメリカ在住のミュージシャンのアンドレイ・マカレビチさんは、「私の国は戦争へ向かった 私はそれを止められなかった・・・」と反戦への思いを歌にして寄せています。 

【ミュージシャン アンドレイ・マカレビチさん(「本当のロシア」のウェブサイトより)】

“私たちの目的は、国外のロシア人の力を結集することです。なぜなら、世界中に数百万のロシア人がいて、その人たちは基本的に民主的な考え方をしているからです。そういう人たちに社会を動かす力になってほしい。“ 

歴史家として― 

アクーニンさんは、ロシア史を長年研究し、全9巻にわたる「ロシア国家史」を執筆しました。 

歴史的観点から見たとき、ロシアは今、30年前にソビエト連邦が崩壊したときと同じように国が大きく変わる、歴史の転換点にある可能性があるといいます。 

【モスクワの書店に並ぶ著書『ロシア国家史』(画像提供:Moscow News Agency 2013年撮影)】

“15世紀からロシアはこれまでずっと同じ体制でした。この国家体制は、わが国では厳格な垂直体制(システム)と呼ばれています。つまり、すべてが上から下まで鎖となってつながっています。すべての決定は一つの点、一人の人物によって採択されます。こうすればこのシステムは最も効果的な方法で作動します。国があまりにも大きく、あまりにも多様で、あまりにもばらばらだからです。ひとつにまとめるには力しかありませんでした。”  

1991年に民主主義を掲げ誕生した現在のロシアも同じく、民主化の代償として起きた国内の混乱に対応するため、結局は力での支配に向かってしまったとアクーニンさんはいいます。 

“プーチンは就任後、国内の混とんとした状況と闘い始めました。そして徐々に民主主義の兆候を撲滅しました。自由なメディア、議会、選挙をです。これまでプーチンがやってきたことは、ソビエト帝国の復活です。” 

“彼の基盤となっているのは、(積極的な支持ではなく)国民の消極性と無関心です。国内には今の体制に反対の人がたくさんいます。そういう人たちを10年前、モスクワでの抗議運動で見ました。こういった抗議に参加した人々は、私もそうですが、ロシアから去りました。現在数十万人のこういった人たちがロシアから立ち去っています。ロシアから立ち去れず、国内に残っている人たちは沈黙しています。そして今後も沈黙し続けるでしょう。” 

“現在ロシアは本当の意味で警察国家に変わってしまっています。現在何かを話すことは、ただ単に危険です。現在プーチンはウクライナにダメージを与えたと考えているかもしれません。しかし、もっとも重要なダメージはロシアに与えられたのです。” 

今回の軍事侵攻をきっかけに起きたロシアの世界からの経済面や情報面での孤立は、ロシア社会に深刻な作用を及ぼすと考えるアクーニンさん。一方、今後、国内外の市民の声が高まるなどすれば、国家の体制が根本的に変わり、自由で民主的な国に変わることもありうるとみています。 

“実際今何をしなければならないかというと、新しい交流や情報のチャンネルを作り上げることです。ロシアに住む人たちが、包囲されたように感じないようにしなければなりません。”

“大切なことはロシアはひとつではない、少なくとも「プーチンのロシア」と「正常なロシア」があることを世界にわかってもらうこと。正常なロシアがもっと強くならなければ、プーチン政権は続いてしまう。私たちは何かをしなければならず、その何かをしようとしているのです。” 

今 伝えたいこと 

国外に住むロシア人へ 

“私たちにはできることがあるのです。私たちがまずできることは、今最悪の状況に置かれているウクライナ人を支援することです。私たちがあなたとできるもう一つのことは、ロシアが民主的で自由な国になるように一緒に行動することです。それぞれが、自分が今いる国で、そしてみんなが力を合わせて行動しようと伝えたいです。” 

日本の人たちへ

作家になる前は日本文学の研究をしていたアクーニンさん。最後に、20年ほど話していないという日本語で訴えました。 

“日本のみなさまに言いたいのは、ロシアはこんど侵略者ですけども、ロシアの文化を拒否しないでください。プーチンのロシアは本当のロシアではないと覚えておいていただきたいです。”  

(おはよう日本 ディレクター 今野泰)

【2022年4月1日放送】 

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