投票しないと損をする!?

NHK
2022年6月30日 午後6:29 公開

7月10日に行われる参議院選挙。国政選挙の投票率は低迷が続いていますが「投票しないと、お金に換算すればこんなに損をする」と聞くと、どうでしょうか? 試算を行っている専門家に伊藤海彦キャスターが聞きました。 

87万6000円分の権利を捨てている 

 まずは、行動経済学が専門の滋賀県立大学・村上一真教授の試算です。 

村上教授は、国の予算をもとに“投票の価値”を算出しました。 

①今年度の国の予算は、国債費を除くと83.3兆円。 

②これを衆議院と参議院の議員合計713人で割ると、1168.3億円。議員1人当たり約1168.3億円の予算を決める責任を負っていると考えられます。 

これは国の予算は国会で審議をして決めるため、議員1人が責任を持つべき予算を算出する「責任予算額」という考え方に基づくもので、国会議員がコントロールすることが難しい国債の費用は除外しているということです。 

③ここに今回の参院選で決まる議席125と

④任期6年をかけて 

⑤それを、有権者およそ1億人で割ると・・・ 

⑥有権者1人当たり、約87万6000円分になります。 

つまり今回投票しないと、この「約87万6000円分の使い方を決める権利」を捨てていることになる、という考えです。 

滋賀県立大学・村上一真教授 

「投票する権利を使わないということは、納税をするのに税金の使い方の決定に関わらないということでもあり、あまりにもったいない。1票の価値を金額で表すことで投票へのインセンティブを高められないかと考えました」 

600円を払い損

一方、政治学が専門の明治大学・井田正道教授は「600円払い損になる」と試算します。 

井田教授は、参議院選挙にかかる経費約600億円を有権者約1億人で割りました。 

明治大学・井田正道教授 

「選挙を行うために有権者1人につき600円の経費がかかっていると言えます。棄権するということは600円の入場券代をむだにする行為と考えられます」 

「1票の価値」をめぐっては他にも考え方があります。2021年の衆議院選挙をモデルに取材した、こちらの記事もご覧ください。 

1票の価値 識者の意見-NHK

若い世代は1人7万8000円損?

「若い世代の投票率が1ポイント下がると、若い世代は1人当たり年間で約7万8000円損をする可能性がある」という試算もあります。 

東北大学大学院の吉田浩教授のグループが、“高齢世代と若い世代の投票率の差”に着目しました。 

1976年以降の国政選挙の投票率を、50歳以上の「高齢世代」と49歳以下の「若い世代」に分けたグラフです。どちらも下落傾向にありますが、「若い世代」のほうが下がり方が急です。 

ここに社会保障費の推移を重ねてみます。すると「年金・高齢者医療・老人福祉」など“高齢者向け”の社会保障支出が大きく増加している一方で、「児童手当・児童福祉・育児休業・出産関係費」など、主に“若年子育て世代向け”の社会保障支出は、ほぼ横ばいです。 

吉田教授の試算によると、少子高齢化が進んだことによって高齢者医療などの総額が伸びただけではなく、1人当たりの額で比べても世代間の支出の差が拡大しており、その差には統計的に見て投票率と相関関係があったということです。 

東北大学大学院 吉田浩教授 

「消費者と企業の関係をみる市場経済の考え方を政治の世界にあてはめると、高齢者は投票率が下がっているといってもそこそこキープしているので、いわゆる“お店の常連さん”のようなものです。それに対して、若い人の投票率は大きく下がっているため、なかなか政権が振り返ってくれないということで、社会保障の支出と投票率に何らかの相関が見て取れる、という仮説が出てきた」 

吉田教授は、少子高齢化やリーマンショック、東日本大震災などの影響も考慮して分析を行った結果、「若い世代」の投票率が1ポイント下がると、「社会保障費の世代間の差額」が1人当たり年間3万3194円広がると試算しました。 

さらに吉田教授が、若い世代にとっての将来の負担となる国債の新規発行額と投票率の関係も分析したところ、「若い世代」の投票率が1ポイント下がると「国債の新規発行額」が1人当たり年間4万4855円増えると試算。 

これらを合わせて、「若い世代は1人当たり年間約7万8000円損をする」という試算結果に。つまり、若い世代の投票率が下がれば下がるほど「若い世代は損する」ということになると吉田教授は見ています。 

この試算を行ったきっかけはゼミの学生たちとの対話だったと言います。若い世代の投票率が低いままだと、政治が若い世代に向けた政策を行う動機が乏しいため、政治や選挙に関心を持つきっかけを作りたいと考えたそうです。 

伊藤キャスター 

「実際にお金と結びつけて研究を進めたことで、若者の反応はどうだったのでしょうか?」 

東北大学大学院 吉田浩教授 

「今まで何となく『投票に行っても行かなくても関係ないや。自分の権利を放棄しているだけだし』と考えていたのに対して、『自分が経済的に損する立場に追い込まれている』という話をすると、だいぶ政治に対して興味を持つようになってきたと思います」 

吉田教授は「あくまでこれは統計的に見た仮説ですが、若い世代は気づかないうちに損をしている可能性がある」と指摘します。 

東北大学大学院 吉田浩教授 

「投票に行ったからといって投票所で7万8000円お金がもらえるわけではありませんが、潜在的に私たちのお財布に入ってくるお金の額、あるいは将来出ていく額がほとんど見えない形で進んでいるということです。どんどん投票率が下がっていくと、この差は拡大していくということになるので、そのコストを意識してぜひ投票に行っていただきたい」 

税金はどこへ行った?

「税金の使いみち」を分かりやすく示すことで、政治への関心を高めようという取り組みもあります。 

「税金はどこへ行った?」というインターネットのサイトでは、茨城県つくば市の住民税をモデルに「税金の使いみち」を可視化しています。 

The Daily Bread - 税金はどこへ行った? (spending.jp) (※NHKサイトを離れます)

画面中央のバーで年収を設定すると、それに合わせて「住民税の額」と「使いみち」が示されます。 

例えば「年収400万円」の場合、住民税は「22万200円」。これが、どんな事業に1日当たりいくら使われているか、下に示されます。「福祉」に「210.94円」、「教育」に「59.66円」などとなっています。 

さらに、それぞれの内訳も分かります。たとえば「教育」をクリックすると… 

「幼稚園・小学校教育 33.15円」「中学校教育 1.26円」などとなっています。 

1日当たりの額で示している理由は、たとえば昼食代と比べてどうなのかなど身近に感じられるようにと考えたからだそうです。 

取り組みの中心となった筑波大学の川島宏一教授に、ねらいを聞きました。 

筑波大学 川島宏一教授 

「できるだけわかりやすく可視化することで多くの人が理解し、ただ単に『子ども向けや福祉の予算を増やしてほしい』というのではなく、『私はこの部分の予算を増やしてほしい、一方でここは減らしてもいい』といった、一人ひとりが全体に責任を持って具体的・建設的な意見を言えるようになってもらうのが、基本的なねらいです」 

伊藤キャスター 

「具体的に金額や数字を理解したうえで選挙に行くと、根拠を持って投票ができますね?」 

川島教授 

「そのとおりです。これら自治体や政府のデータは、納税者のお金で作られているもので、『オープンデータ』として納税者が利用しやすいように公開されるのが当たり前の時代です。こうしたデータを活用すれば、投票で政党や候補者を選ぶだけでなく、税金の使い方についても一人ひとりが声を上げることが可能になります。データやテクノロジーをうまく使いながら、納税者・市民一人ひとりがより暮らしやすい世界になってほしいです」 

川島教授は、将来的には国の予算の使いみちも可視化できるようにしたいと話しています。 

選挙は、私たちの税金がどう使われたのか、その評価をする機会でもありますから、こうした取り組みが広がると、投票するときの判断の助けになりそうです。 

(おはよう日本 ディレクター 曽根峰人) 

【2022年6月15日放送】 

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