ニュース速報

夫婦の姓はどうする?広がる選択的夫婦別姓の議論

NHK
2021年4月21日 午後2:20 公開

現在の法律では、夫婦は同じ名字を名乗らなければいけませんが、価値観の多様化とともに、結婚前の名字をそのまま使い続けたいと望む人がいます。そこで今、議論になっているのが「選択的夫婦別姓」です。夫婦が同じ名字でも別々の名字でも選べるようにしようというもので、選択的夫婦別姓の導入をめぐっては、次の衆議院選挙を見据えた動きも出ています。

夫婦の姓 あなたはどうしたい?

NHKが今年(2021年)3月末に行った世論調査の結果がこちらです。

「夫婦の姓はどうするべきか」を質問したところ、「夫婦は同じ名字を名乗るべきだ」と答えた人は、40%。「同じ名字か、別の名字か、選べるようにするべきだ」と答えた人は、57%という結果になりました。

男女別に見ると、男性・女性では、ほとんど差がありません。男性も55%が「同じ名字か、別の名字か、選べるようにするべきだ」と答えています。

年代別では、18歳から60代まで「同じ名字か、別の名字か、選べるようにするべきだ」という人が60%を超えています。一方、70歳以上では、「同じ名字を名乗るべきだ」という人が60%と、ほかの世代と異なる結果が出ています。

いま切実に制度の導入を求める声

今、どんな人たちが選択的夫婦別姓を切実に求めているのでしょうか。

都内で暮らす、大竹ゆうさん(仮名・40代)と山村しんさん(仮名・40代)です。ふたりは、20年ほど前に出会った頃から「生まれ持った名字と名前で人生を送りたい」という考え方で一致し、婚姻届を出さずに暮らしてきました。

ふたりの間には3人の子どもがいて、子どもは夫の名字である「山村」を名乗っています。大竹さんは名字が異なるため、夫や子どもたちとは戸籍も別です。実在する家族であるにも関わらず、法律上の夫婦・家族ではありません。仲の良い家族として、これまでほとんど不都合を感じることはなかった大竹さんですが、最近、選択的夫婦別姓の導入を切実に求めるようになったといいます。

コロナ禍で高まる 医療合意への不安

理由は「医療合意への不安」です。訪問看護師として働く大竹さんは、訪問先の患者が濃厚接触者になるなど、日々コロナ感染のリスクと向き合っています。

しかし今の法律では、もし大竹さんが感染し重症となっても、家族が治療方針などを決める「医療合意」をできない場合があります。医療合意ができるのは原則、法律上の家族に限るとする医療機関が少なくないからです。大竹さんは、以前から「もしもの時のリスク」は認識していましたが、感染拡大とともに、より差し迫った課題になったと感じています。

大竹ゆうさん(仮名・40代) 「いつだって病気になるかもしれないし、事故に遭うかもしれないけれど、(コロナ禍で)本当に目の前で具体化されたかなと」

急きょ用意した婚姻届

最悪の事態に備え、大竹さんは急きょ、婚姻届を用意しました。もしもの時に、婚姻届を出し、法律上の夫婦になることで、医療合意を確実にできるようにするためです。しかし、夫婦の氏は空欄のままです。どちらか選べば、選ばなかった方のこれまでの人生や存在ごとなかったものにしてしまうのでは…互いの氏名を尊重してきたふたりにとって重い決断です。

大竹ゆうさん(仮名・40代) 「私の氏で婚姻届出すと、相手をある意味、死なせるような。夫の氏名の人を法的には抹消する重いチェックだと思っています」

広がる議論 制度導入に慎重な意見とは

こうした当事者の声を受け、最近は、地方の議会でも選択的夫婦別姓について取り上げるケースも増えていますが、一方で、慎重に考えるべきだという意見があります。主な主張をまとめました。

夫婦別姓が認められれば、夫婦・親子が別々の名字を名乗ることになり、家族の結束や子どもへの影響を心配する声が根強くあります。また、旧姓使用の拡大については、すでにパスポートやマイナンバーカードなどに旧姓を載せられるようになりましたが、結婚前の名字を通称として使用できる場面を社会全体でもっと増やしていくことで、現行の夫婦同姓を維持できるとしています。

地方議員のもとに送られた慎重派の意見

今年1月、こうした慎重派の意見が文書として、ある地方議員のもとに送られてきました。

文書を受け取ったのは、埼玉県議会の田村琢実議員(49)です。自民党に所属し、3月まで議長を務めていました。選択的夫婦別姓の導入を求める意見書を議会にかけようと党内で準備していた矢先、国会議員50人の連名で、導入に慎重な対応を求めるよう促す文書が届きました。

埼玉県議会 田村琢実議員 「非常に失礼な手紙だなっていうふうに感じました。意見書に制約を加えるようなことを、連名で手紙を送られたことが、まずもって地方自治制度を理解していない」

地方から声を届けたい

田村さんは、かつて夫婦別姓には反対の立場でしたが、去年、制度導入を求める当事者との面会をきっかけに賛成に転じました。それまでは当事者が面会を求めてきても会うことさえ拒んできたという田村さんですが、その時は馴染みの議員の紹介でもあり、しぶしぶ面会することにしたといいます。

面会した当事者のひとり、井田奈穂さんは、選択的夫婦別姓の実現を目指す団体の事務局長を務めています。井田さんが強調したのは、現在の制度では「旧姓使用ができるといっても、女性に負担が偏っている」実態でした。

「結婚時に夫婦どちらかの姓を選べるとはいえ、96%の女性が夫の姓になっている」「会社で旧姓使用が認められているが、人事や給与といった場面では戸籍姓が使われ、まるで自分が自分でないように感じる」「戸籍姓の変更で周囲に離婚再婚を知られ、プライバシーが侵害された」など。さらに、井田さんは「望まない改姓を避けるため、結婚をためらう若者までいること」を伝えたといいます。

選択的夫婦別姓・全国陳情アクション 井田奈穗 事務局長 「別姓を選ぶという選択肢を欲しいという人たちが、これから幸せな家庭を築くにあたって、ファーストステップでつまずいているんだと」

埼玉県議会 田村琢実議員 「いろんな齟齬(そご)が生じること初めて理解させていただいた。自分に当てはめて物事を考えてこなかったということが私の反省材料だと思います」

立場を変えたことに、田村さんの元には「私は夫婦別姓には反対」「裏切りだ」などの批判も寄せられました。一方、「政治のことはよくわからないが応援する」「賛成にまわってくれてホッとしている」など、応援や理解の声も多かったと言います。

埼玉県議会 田村琢実議員 「国会議員さんよりはわれわれ地方議員のほうが、住民に近いところで活動をさせていただいていますので、地方の立場から声を出していきたい」

どうなる?今後の議論

地方の議会から賛否双方の声が上がるなか、各党とも次の衆議院選挙を見据えています。自民党では、賛成と慎重、立場の異なる2つの議員連盟が発足し、4月に新たな作業チームの初会合が開かれました。また、立憲民主党では、制度の導入が基本政策に盛り込まれるなど、与野党ともに動きが出ています。より多くの人のニーズと理解につながる制度は何か、多様性を認め合える社会にむけた議論を期待したいです。

(おはよう日本 ディレクター 馬渕茉衣)

【2021年4月7日放送】