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被災地の子どもたちに「遊び場」を

NHK
2021年5月21日 午後3:03 公開

東日本大震災の被災地に、子どもたちのための遊具を届ける活動をしている男性がいます。アメリカ人のマイケル・アナップさん、 57歳です。アナップさんが東北3県で手がけた遊び場は、実に60か所以上にのぼります。ライフラインや住宅の復興が優先され、子どもが集う場所まで支援の手が回っていなかった被災地で、アナップさんはいち早く遊具の設置を始めました。その活動は被災地の人々の心の支えとなっています。

被災地に戻った笑顔とにぎわい

先月、宮城県気仙沼市に完成した公園です。開園を待ちわびた住民が、ブランコやジャングルジムなどで遊びました。

住民 「(以前は)遠くまで連れて行かなくてはならなかった。今度はここに来られるからよかった」

この公園に遊具を設置したマイケル・アナップさんです。30年前に来日し、日本人女性と結婚。
東京などで会社を経営しながら、 2人の子どもを育ててきました。

“第二のふるさと”となった日本で東日本大震災を経験したアナップさん。すぐさま食料を持って被災地に駆けつけ、支援活動を始めました。そこで見たのは、山積みになったがれきでした。震災でストレスを抱える子どもたちが、のびのびと体を動かせる場所を失っていたのです。

マイケル・アナップさん 「当時、子どものための支援活動はなく、それなら私がやろうと思ったのです」

アナップさんはその後、遊具を設置するためのNPO法人を設立。遊具の購入資金を集めるため、みずからスポンサー探しに奔走しました。これまで協力してくれた企業は12社。その社員たちとともに被災地へ赴き、遊具の設置やその後のメンテナンスを行ってきました。

「遊び場」に救われた住民たち

アナップさんたちがつくった遊び場に救われたという人がいます。

気仙沼市で飲食店を営む塩田賢一さん(54)、快さん(21)親子です。

津波で、自宅と店が全壊した塩田さん。生活の再建に追われるなかで、快さんやその友人たちに目をかけられないことが気がかりでした。“子どもたちが集まれる公園をつくってほしい”と、塩田さんは行政に訴えましたが、数年かかると言われました。そんなとき、人づてに知ったのが、アナップさんの存在でした。

塩田賢一さん 「仮設でもいいから子どもたちが遊べる場所、遊具があればと思って」

塩田さんは、アナップさんに頼み、仮設で営業を再開した店の近くに、念願の遊具を設置してもらいました。

塩田快さん 「思い出のある場所でしたね。仲のいい人たちとの集いの場みたいな感じで、一緒に話したりとかもできるような場所で」

子どもたちのにぎわいが戻った遊び場を大切に守っていこうと、塩田さん親子は地域の人とともに手入れを続けています。

塩田賢一さん 「うちの息子だけでなく、この遊具で遊んだ子どもたちは思い出の1つに残っていると思いますし、本当に(地域の)象徴、震災復興の象徴の1つだと思います」

被災地以外にも広がる活動

子どものための遊び場をつくるアナップさんの活動は、被災地以外にも広がっています。ここ数年、力を入れているのが、児童養護施設です。

アナップさんは、家族と離れて暮らす子どもたちも被災地と同様、“遊びの力”を必要としていると考えています。資金不足などで、十分な遊具をそろえられない施設もあると知り、支援を続けてきました。

千葉県にあるこの施設では、アナップさんたちの遊具が設置されて以降、子どもの変化を実感しています。

児童養護施設 児童指導員 藤巻学さん 「(以前は子ども同士で)手が出てしまったり、そういったことはありました。遊び場ができたことで日々子どもたちがそこでエネルギーを発散して、笑顔もどんどん増えていって、本当に子どもたちの癒やしになっている」

アナップさんのもとには、施設や被災地の子どもたちからたくさんの感謝の手紙が届いています。
そのことばを励みに、これからも子どもたちに遊び場をつくり続けます。

マイケル・アナップさん 「私たちがやるべきことはまだたくさんあり、支援が必要な子どもも大勢います。子どもたちや施設からの感謝のことばを見ると、私たちの活動はとても大切だと改めて思うのです」

欧米では重要視される“遊びの力”

9年にわたり絶え間なく続けてきたこの活動。アナップさんはどのようにしてこれだけの遊具を設置するための資金や人員を集めてきたのでしょうか。取材を進めて驚いたのは、この活動のほとんどが、外資系の企業や団体によって支援されていたことでした。外国の企業が日本の子どもたちを支える取り組みに賛同し、お金を出し、ボランティアで設置作業を行っているのです。

アナップさんによると、欧米では、子どもにとっての「遊びの力」の重要性が、日本以上に認識されているほか、企業の地域貢献に対する姿勢も、予算や規模の面でより積極的だということです。

千葉県の児童養護施設では、世界的な大手ホテルグループの社員たちが、遊具のメンテナンス作業に汗を流していました。参加していたホテルグループの責任者は活動に協力する理由を次のように話しています。

コンラッド東京 総支配人 ニール・マッキネスさん 「世界中で事業を展開する私たちにとって、それぞれの地域社会にいかに恩返しし、足跡として残せるかは非常に重要です。遊び場作りを手伝うことを通じて、日本の子どもたちをめぐる実情もわかってきたので、長期的に支援を続けていけたらと思っています」

さらに、企業としてのメリットもあると言います。遊具の設置という共通の目標のために、多くの社員が上下関係に関わらず全員で作業に取り組むことによって、思わぬ成果が得られたと言います。

コンラッド東京 総支配人 ニール・マッキネスさん「チームの結束力が高まるという点で素晴らしいと感じています。いつも作業の終わりには、全員が一日を振り返り、チームワークを通じてやり遂げたという達成感を感じます。普段の職場から踏み出して、お互いのことを知り合うのに最高の機会となっています」

しかし今は、新型コロナウイルスの影響で、こうした企業の支援も滞っています。遊び場作りのペースも、コロナ禍以前の半分以下に落ち込んでいます。それでもアナップさんは決してあきらめていません。「コロナにも必ず終わりが来る」と活動を続ける覚悟を語っていました。

(国際放送局 記者 四本純)
【2021年5月7日放送】