"悪女"か"聖女"か 大河ドラマ『どうする家康』瀬名役 有村架純さんインタビュー

NHK
2022年12月31日 午前1:22 公開

2023年の大河ドラマ『どうする家康』は、誰もが知る戦国武将・徳川家康を「乱世を終わらせた覇者」としてではなく、命からがら生き延びて行く「ナイーブで頼りないプリンス」という新しい人物像で描くドラマです。作中で家康を支える正室・瀬名役を演じるのが女優の有村架純さん。物語のキーパーソンとなる難しい役どころを演じる有村さんは、「人を信じることが難しい時代に、人に対する愛情を持つことの素晴らしさ」を見てほしいと語ります。

(おはよう日本 三條雅幸キャスター、柚木涼也ディレクター)

“悪女”ではない 新しい瀬名像で家康を手のひらで転がす!?

三條雅幸キャスター

いよいよ初回が放送となりますけれども、今の心境はいかがでしょうか。

有村架純さん

この3か月の間に瀬名パートをどどどどっと撮影をして、正直ついていくのに必死でした。でもその中でもしっかりと瀬名という役に向き合って、撮影に参加することができたかなと思っています。

―有村さんが演じる「瀬名」という役の人物像について、有村さんはどう捉えていらっしゃいますか。

史実上ですと瀬名という人物は“悪女”…というのは結構パワーワードですけど、悪女という女性の印象がありましたが、脚本家の古沢良太さんが描かれる瀬名というのは「実はそうじゃなかったのではないか」というところに着目して脚本を書かれているので、そこが結構真逆の女性像になっているのかなと私も感じていて。

家康さんをうまく手のひらで転がすじゃないですけど、「子どもに向ける母性よりも家康さんに向ける母性の方が大きいんじゃないか」と思うぐらい。何か子どもよりも子どもを扱うようにしているような感覚はあって、それぐらい大きい器でどしっと構えられている方なのかなと思います。

―たしかに一般的に知られているのは瀬名は“悪女”ということなので、有村さんが演じると最初に聞いた時に私は個人的には意外だというイメージがあったんですけれど、ご自身としては話が来た時はどうでしたか。

私も過去に瀬名を演じられている方のキャストの方を見るとタイプが全く真逆といいますか。もっとこうシュッとした。切れ味のあるというか。そういう女性像を私もイメージしていたので、全然違うけど大丈夫かなって心配でした。

―瀬名はその歴史上の資料があまり残っておらず、どういう人だったか詳しくは分かっていないと言われていますが、役作りはどういう風にされているんでしょうか。

調べた時にやっぱり残っている事実が少なくて。でもだからこそイメージや想像でいろんなことを自分の中でも勝手に作るじゃないですけれど、それぞれの関係性の距離感とかいろんなことを構築していくのにはフラットな状態で作ることができたから逆によかったのかなとも思いました。

―むしろ表現の幅が広がる選択肢が広がるんじゃないかっていう感じ・・・?

まだ撮影していないシーンで、瀬名が企てていることが「一体、善なのか悪なのか」っていうところが今後あるんですけれど、そこを今後どういうふうに含みを持たせるというかね。裏の部分をどこまでふくらませて表現したらいいのかなっていうのはちょっと考えてはいます。

「目が何個ついているんだろう」家康役・松本潤さんのすごさ

―家康役の松本潤さんとは今回夫婦役ということですが、2人の雰囲気を有村さんはどういうふうに感じていますか。

私はもうかれこれ10年前に最初にご一緒させて頂いていて。そこから3度目ということで、信頼しているというかあまり気を遣うこともなく、"ただそこにいるだけで成立する"ような関係性がもう出来上がっていたので、特にこれといったことを意識することはなかったんです。何も言わなくても分かるというかね。

―撮影現場の雰囲気はどうでしょう、何か印象的だったエピソードはありますか。

家臣団の方たちは松本さんともう既に「あうんの呼吸」で撮影が進んでるというか。関係性も成り立っているし、松本さんもそのそれぞれの役者さんがどういうタイプでどういう性格かというのも全て把握されている。何かそんな雰囲気があったので、お互いを分かり合ってる感じが心地いいんだろうなって。家臣団の方たちが来るとすごくうれしそうですし、久々にみんなの顔を見られてうれしいとおっしゃっていたりするので、本当に役同様に関係性が成り立っていて、きっと心強いんだろうなと思います。

―もう「殿」の雰囲気が?

そうですね。現場の士気も高めて下さって、常に声を出して声をかけてくださいますし。よく役者さんとかにも、「あれ大丈夫」とか「ここをやりづらくないか」とかいろんなことを率先して先陣切って走ってくれています。

―有村さんもかけてもらってうれしかった言葉はありますか。

リハーサルをするんですけど、その時に監督がおっしゃることと自分が思うことが違ったりもするわけじゃないですか。その時になるべく私も監督の意図に沿うように気持ちを持っていくんですけれど、松本さんが「本当にそれで大丈夫」「やりづらくない」って常に声をかけて下さるので、助かってますね。

―いろんなところに目を配ってらっしゃるんですね。

「目が何個ついているんだろうこの人」って思うぐらい視野が広いです。演じること以外のところ、画角やアングルとかどこで自分が抜かれてるかとか。「じゃあその時のせりふ、こういう時はもうちょっと前いた方がいいよね」とかライティングはどうとか全部と把握されて現場にいらっしゃるので。私は到底そこまで考える余裕もないし、すばらしいなと思います。

朝ドラから大河のヒロインへ 思い悩んだ5年間

―有村さんといいますと連続テレビ小説『ひよっこ』のヒロインのイメージを持っている方も多いと思いますが、あの時と比べて役者としての心構えや心境に変化はありますか。

ひよっこが終わってからは正直どういう作品をやっていけばいいんだろうって迷っていたというか。どういう表現をしていけば、今後実力が問われる時に役に立つだろうかっていうのをものすごく悩んだ。でもそういう時って、何か無理して限界突破をしようとすると私は失敗するタイプなんですね。

だから大きく背伸びせずに、ちょっとずつちょっとずつ、限界をこえないぐらいのところを目指して進んでいくしかないと思って。見つかるタイミングっていうのはやっていかないと見つからないしやり続けていかないと見つからない。それを無理に見つけようとすると逆に何か違った方向に行っちゃったりもするし、そのタイミングをこの5年間は待ちながら忍耐強く過ごしていたように思います。

―考え方に悩んだあとに自分らしく忍耐強く、そういうふうに考えが考えられるようになった何かきっかけみたいなのがあったんでしょうか。

そういう考え方はデビュー当時からあんまり変わっていなくて、「1歩ずつ」というのはずっと思ってはいて。壁にぶち当たった時に「信念を持ってずっと歩いていればいつかそういうタイミングに出会える」っていう何か根拠のない自信みたいなのがありながらこれまで歩いてきたようにも思うし、この目に見えないものを私は信じているというか。それはずっと変わらずにあるような気がします。

―有村さんが後にご自身のキャリアを振り返った時に、この『どうする家康』をどんな作品だったと言えるようにしたいなと思っていますか。

朝ドラのときとほぼ変わらない月日を共に過ごす役どころですし、こんなに長くお芝居ができるのも朝ドラとか大河でしか経験ができないことだと思います。また時代物っていうのが私自身もそんなに経験のないジャンルで。それを30歳の節目に世の中に発信することができるっていうのは、自分の中でのターニングポイントでもあるのかなと思っています。

『どうする家康』見所は「人を信じることの難しさ、すばらしさ」

―『どうする家康』ぜひここに注目してほしいのはどんなところでしょうか。

この時代って味方だった人が1年後には寝返って敵になったり、常に人を信じることが難しい時代っていうんですかね。当時は当たり前だったし常に生死というものに触れる時代でもあったと思うんです。

そういう時代だからこそ、改めて「人を信じること」だったり「人に対する愛情を持つこと」だったり、そういうことの難しさ、すばらしさというのをこの「どうする家康」はとても見やすく描かれている。だからたくさんの方に純粋に見て頂きたいなという思いです。

また瀬名と家康さんの関係性が1話からどんどん、深くつながっていくので、そうなった先に何が待っているのかっていう、そこを見届けてほしいなと思います。

※インタビューは2022年12月12日に収録しました。読みやすくするために一部修正しています。

【2023年1月4日放送】