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地域の夢乗せ走れ! DMV

NHK
2021年8月7日 午後0:00 公開

一見、何の変哲もないバス。
でも走っているのは、なんと線路の上。
ボタン1つでバスから列車に早変わりする、実用化すれば世界初のユニークな乗り物が、四国南部で走り出そうとしています。

万年赤字の口ーカル線

日本地図で見ると四国の右下、徳島県南部と高知県東部を結ぶローカル線の阿佐東線。
全長10キロ、地元の人を除けば熱心な鉄道ファンでないとおそらくその名前を知る人はいないかもしれません。
この路線を運行する阿佐海岸鉄道は、平成4年に第三セクターとして開業しましたが、1日の平均利用客数がわずか100人台と、全国最低水準です。
「お花見列車」「天の川列車」・・鉄道会社では少しでも集客につなげようと、車内をイルミネーションで照らすアイデア列車を運行してきました。
それでも客がゼロの時も多く「誰か乗ってこないとインタビューができないので路線を往復した」という歴代記者のかつての苦労話が大げさではなく今なお現実となっています。
沿線の過疎化にマイカーの普及もあいまって経営環境は厳しさを増し、阿佐海岸鉄道は開業以来、 29年連続で営業赤字に陥っています。

DMVが救世主!?

その阿佐海岸鉄道が起死回生の「奇策」として打ち出したのが、バスとしても列車としても走行できる「DMV」=デュアル・モード・ビークルです。
「2つのモードを持つ乗り物」という意味のこのDMV、マイクロバスを改良したもので長さ8メートル、既存の鉄道車両の半分ほどの大きさで、定員は20人あまりです。
最大の特徴が「モードチェンジ」。
ボタン1つで車体の下部に収納されている鉄の車輪が下り、わずか15秒でバスから鉄道に変身します。

線路を走る時には後ろのタイヤがレールの上に乗り、軌道から外れないよう、車輪が支えて進みます。
DMVが道路と線路を切れ目なく走れるよう駅も改良。
ホームは専用のものに作りかえられ、線路から道路へ出る誘導路のスロープも設置されました。

弱小ゆえの戦略

DMVはかつて、多くの赤字ローカル線を抱えていたJR北海道が開発し、導入を検討したことがありました。
しかし、小型で定員が少なく朝夕のラッシュ時に乗客を乗せきれないおそれがあることなどから、実用化は見送られてきました。
ところが阿佐海岸鉄道は、利用客が極めて少なく通勤ラッシュの影響が小さい「田舎の弱小路線」だからこそ、 DMVを地域の足として、そして新たな観光の起爆剤として活用できると考えたのです。
新調された3台の車体はそれぞれ赤、青、緑の3色を基調に高知出身の幕末の志士、坂本龍馬のシルエットや徳島特産のすだちなどがデザインされ、いずれも地域色満載です。
車両も含め、これまでにかかった費用は約16億円に上ります。

専務自らバス免許を取得

DMV導入に向けて陣頭指揮をとるのが阿佐海岸鉄道の専務、井原豊喜さん(61)。
地元の徳島県海陽町出身で、小売業界で長く働いてきましたが年々衰退していく地元を何とかしたいと、退職後、公募で採用されました。
DMVの運行には新たにバスの運転免許も必要となったため、運転士は全員が新たに取得しましたが、何と井原さんまでマイクロバスの運転免許を取得しました。
旅客の運送はできませんが、各地で宣伝するための車両の回送などはできるようになりました。

阿佐海岸鉄道専務 井原豊喜さん 「鉄道はまったくの素人だけど、お客様にどうやれば満足してもらえるのか。そのためには何をやればよいのかというのは、商売とよく似た部分があると思う。DMVをアピールするには、いろいろなところに持って行って皆さんに見てもらう。そのときに自分が運転して行けば自由度が広がると思ったので、運転が特に好きなわけではないけれど免許を取った」

導入の効果は?

気になるDMV導入の効果。
会社などの試算では、燃料費がこれまでの4分の1ほどに抑えられ、定期検査などで必要となる車両の維持費も大幅に削減できると見込んでいます。
さらに期待しているのが観光需要の取り込みです。
DMVは、鉄道として既存の10キロの区間を走るのに加え、新たにバスとして地域の主な施設や道の駅などを回ります。
そして、土日祝日には、40キロ近く離れた、室戸岬などの観光名所を巡るルートも運行されます。
コスト削減と増収でもなお悲願の黒字化の見通しは立っていませんが、それでも、沿線の飲食・宿泊など観光関連への波及効果も含めれば導入のメリットは大きいと関係者は説明します。

高まる地域の期待

国や徳島県によるとDMVの実用化は世界初だということで、久しぶりの華々しい話題に地元でも期待が高まっています。
沿線の町では動画配信サイトで、ご当地ヒーローが歌やダンスでDMVの魅力をアピールする映像を公開しました。
まだ知名度が低いのか視聴はそれほど伸びていませんが、手作り感あふれる素朴な動画で作成した海陽町の担当者も「見てもらえれば魅力が伝わるはず」と話しています。
また動画だけでなく、町では絵本も作って保育所や学校に配布し、子どもたちや子育て世代にもDMVに親しんでもらおうとしています。

取材した読み聞かせの会で地元の子どもたちは「楽しかった」とか「お母さんと乗りたい」などと話していました。
地元出身の阿佐海岸鉄道の井原専務はこの盛り上がりに手応えを感じています。

阿佐海岸鉄道専務 井原豊喜さん 「阿佐海岸鉄道っていう、この会社自体の経営改善にもつながるとは思っているんですけど、町も元気にしていきたい。不安もあります、ただ楽しみのほうが大きいですね」

DMVがつなぐのは地域の希望

DMVが走る予定の沿線の過疎化は深刻で、海陽町にはお年寄りの姿が目立ちます。
山も海もあり豊かな自然に恵まれた四国南東部ですが、お遍路さんやサーファーを除いて訪れる人は決して多くはありません。
10年後、この地域はどうなってしまうのか。
地域の夢を乗せて走るDMVが、活性化の起爆剤になってほしいと願わずにはいられません。

6月29日に徳島県内で開かれたDMV導入に向けた協議会では、国の技術評価検討会で指摘された車体のアーム部分の補強を行うため、営業運行の開始を予定していたことし7月から延期する方針が正式に決まりました。
新たな運行開始はことし中を目指すとしています。

(徳島放送局 阿南支局 記者 北城奏子/2018年入局/海陽町など徳島県南部の取材を担当。乗り物は、実は飛行機が一番好き)
【2021年6月26日放送】