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なぜ?浸水した地域に新たな住民

NHK
2021年7月20日 午後10:11 公開

3年前、西日本豪雨で甚大な被害を受けた、岡山県倉敷市真備町でいま、新たな課題が浮かび上がっています。実はいま、浸水した地域に新たな住民が次々に移り住んでいることが分かってきたのです。いったいなぜなのか。現場を取材しました。

浸水した地域に移り住む理由とは?

西日本豪雨のあと、真備町に引っ越してきた50代の男性が取材に応じてくれました。

男性は、妻と2人の娘と4人暮らし。隣町のアパートで暮らしていましたが、真備町で中古の一戸建てを購入し、家族そろって移り住みました。男性が購入したのは、広さ220平方メートルの土地に建つ4LDKの一戸建て。川から300メートルの距離に建っています。豪雨で2階まで浸水し、以前の住民は転居していました。

価格は、土地と住宅、合わせて800万円。リフォームした費用を加えても、以前住んでいた地域の相場より4割も安くなりました。男性の収入は月に27万円で、50代で長期にわたるローンの返済は避けたいと考え、この物件にたどりついたといいます。

真備町に移り住んだ男性 「子どもがやっぱり大きくなる上ではのびのび育てたいであるとか、やっぱり自分の収入に合った分でいくと安いほうというふうになると思います。これならどうにかいけそうかなと」

3年前、浸水した場所に住むことに不安はないのでしょうか。
男性は、ハザードマップを確認し、水害の保険には加入したものの、災害にあうリスクはある程度、受け入れざるをえないと考えています。

真備町に移り住んだ男性 「家族が元気で幸せになれるのが一番であり、それを壊す災害があるというのは困ります。でも、そればかりを考えているわけにはいかないので、水害が怖いから住まないというのは、あまり考えないです」

背景に土地価格の下落

取材を進めると、真備町で浸水した地域に豪雨のあと移り住んできた人は、少なくとも22世帯にのぼることが分かりました。背景にあるのは、水害による地価の大幅な値下がり。一時17.7%という、全国最大の下落率を記録しました。

一方、浸水リスクが高い地域でも、土地の所有権の関係などから、法的に建築を制限することは、簡単ではないのが実情です。
実は、浸水が想定される地域の世帯数は、すべての都道府県で増加しています。東京や岡山などで30%以上。
20年間で1500万世帯あまりにのぼっています。

甚大な被害を受けた真備町のある倉敷市は、浸水した地域への居住を完全に規制することは難しく、様々な対策を組み合わせていくとしています。

倉敷市都市計画課 角南紀光課長 「『災害があるから』ということ一辺倒で居住などすべてのことを、排除するということは難しい。河川整備とか堤防を強くするとか、いろいろなことを合理的に考えて、複合的に考えて進めていく必要がある」

新たな住民と防災の危機意識を共有できるのか

3年前の豪雨で被災した人の中には、新たな住民の転入に複雑な思いを抱く人もいます。

5メートル近く浸水した地区の自治会長、東末明さん。東さんの地区では被災後、4割の世帯が出ていき、住民が新たに引っ越してくることは歓迎しています。

一方で、懸念しているのが地域の防災への影響です。東さんは、豪雨の経験をもとに、住民どうしが協力して避難する防災計画を作りました。被災していない住民から、計画への理解を得られるのか、不安を抱いています。

原田団地自治会長 東末明さん 「うちは防災活動でこういうのをやっていますと言って、『私は参加しませんよ』、『勝手にいきますよ』って言われたのでは、ちょっとまとまりがなくなる」

NHKが真備町で実施したアンケートでも、被災した住民と、新たに移り住んだ住民との間の危機意識に大きな差があることがわかりました。住んでいる場所の危険性を感じている割合は、被災した住民が、8割近くにのぼったのに対し、新たな住民はおよそ4割でした。さらに、新たな住民のうち、ハザードマップを確認したのは、2割程度にとどまっていたのです。

【命を守るために何が必要なのか】

浸水が想定される地域に多くの人が住む中、どうやって命を守るのか。

専門家は、将来的にはこうした場所での新たな開発の抑制が必要だとしています。その上で、水害のリスクの伝え方をより工夫することが、行政に求められると指摘しています。

山梨大学大学院 秦康範准教授 「従来のやり方で届かない人たちにどうやって届けるか。関心の高くない方々にどうやってハザードマップの情報を届けるかというのがすごく課題で、そこに知恵をぜひ、いろんな形で絞る必要がある」

【防災情報を見てもらう工夫】

経済的な事情で浸水リスクが高い場所に住まざるをえないという人が少なくない中、地域の防災意識をどう高めていくのかが課題です。そこで、秦准教授が注目しているのが、兵庫県小野市の取り組みです。

ハザードマップを大雨の時期に見返してもらおうと、去年から表紙に抽選番号を記載。毎年6月、雨の多くなる時期を前に、賞品が当たる当選番号を発表するというものです。

小野市市民安全部防災グループリーダー 福西孝雄さん 「単に配布するだけではなくて我々行政側も工夫を凝らして、動機付けになればというふうに考えています」

また、国は去年、法律を改正し、不動産業者が土地や住宅を取引する際に、契約相手にハザードマップを提示して浸水のリスクを説明することを義務づけました。自分たちの周りの災害のリスクを意識し、警戒を続けていくことが大切です。防災意識を高められるよう、自治体からも積極的に働きかけていく姿勢が大切だと感じました。

(岡山放送局 記者 周英煥)
(おはよう日本 ディレクター 矢内智大)
【2021年7月13日放送】